第二十五話 神剣
「え……。どうしてトコが……」
突然目の前に現れたトコ。
さっきの通路の奥の広場で待ってたんじゃ??
「エト、これ」
「へ??」
トコが手渡して来たのは、毒消とポーションだった。
「え?どうして?」
「ポーチの中にあったから、出て来るときに持ってきた。感謝して」
「え、あ、うん。ありがとう……って、え??」
出て来るときにって、街から出るときにって意味じゃないよね?まさか、ポーチの中いた!?
ポーチには生き物は入らないはずなんだけど……。
「あ!」
「そう。私は魔道具。生き物じゃない。ポーチの中くらい余裕」
「余裕って……。あ、もしかして鉱山の入り口や、なんとか桃源郷とかいうパーティーの時に突然現れた時も……」
「そう。ポーチにいた」
「いつの間に……??」
「地下工房」
「……ああ」
なるほど。
そう言えばトコの本体は、あの地下工房に置いてあった金床だった。
もしかして、あの時からポーチの中を出たり入ったりしてたって事?
通りで神出鬼没なわけだ。
「あんた、なんでもアリだね……」
さすがインテリジェンスアイテム。
自分でポーチの中を出入りする道具とか聞いた事ないよ。
まあ、喋って変形もできる道具って時点で、もはや今更か。
「それよりエト、早くしたほうがいい」
「え?何を?」
「毒と体力の回復。そろそろ次が来る」
「あ」
トコにそう言われて慌ててキングスコーピオンの方を見ると、まだ動き出してはいないものの、臨戦態勢でこちらを睨み付けていた。
私は慌てて毒消し薬と体力回復ポーションを飲み干すと、体の痺れは瞬く間に消えて行き、減った体力もみるみる回復していった。
さすがはファンタジーな世界。物凄い効き目だ。
私はそんな事に感心しながら立ち上がり、槌を構え直してキングスコーピオンと対峙する。
そこで、ある異変に気がついた。
「あれ?ちょっと待って……」
私は予想外の光景に、思わず声を詰まらせる。
「……なんで、ハサミと毒針が復活してるの!?!?」
私の視線の先にいるキングスコーピオンは、私が砕いたはずの片方のハサミも、飛ばしたはずの尾の先の毒針も、すっかり綺麗に元通りになっていた。
「え、なんで……?」
「魔物だし、そのくらい普通」
「えええ……」
いやいやいや!魔物だからとかいう適当な理由で簡単に片付けられても困るんですけど!!
片方の大きなハサミと鋭い毒針の尾の2つの攻撃だけでも避けるので精一杯だったのに、ハサミが2つになって毒針も健在とか、もう、ほとんど無理ゲーなんですけど!?!?
「じゃ、私はポーチに戻る」
「いやいや、ちょっと待って!!あんなの私一人じゃ無理だから!!」
相変わらずマイペースなトコ。
この絶体絶命な状況を理解してるの!?
「でも、私戦えないし」
「いやいや!さっきの攻撃とか余裕で耐えてたじゃない!!」
「硬くなっただけ」
「いやいや!十分凄いから!!」
「あれになると動けないし、重すぎて動かせない。それに、攻撃には耐えられるけど、普通に痛いし」
「ええ……」
確かにトコの足元には大きなクレーターが出来ていた。
そのクレーターは鈍色の塊だった時の形に陥没しており、かなりの重さだった事がうかがえる。
重すぎて動かせないというのは本当らしい。
でも、人型の時はずいぶん身軽な感じで重さは全く感じられなかったのに、質量保存の法則とか一体どうなっているんだろう?
まあ、鈍色の金床が人型に変形とかして、意思を持って喋り出してる時点で法則もクソもないか。
だったら重くなっても動けたっていいと思うんだけど!?
「じゃ、頑張って」
「あ!ちょ!!」
そんな私の心の叫びも虚しく、トコはさっさとポーチの中に入ってしまった。
アイテムが、まるで猫型ロボットの秘密道具を出し入れするようにポーチの中へ入ってしまう様子は何度見ても不思議だ。
「ええ……」
まあ、戦えないって言うんなら仕方ないか……。
気は進まないけど、やっぱり神剣を使うしかないみたいだ。
キングスコーピオンは未だ様子を窺っているようだが、いつ飛びかかって来てもおかしくない状況。
このままぐだぐだ考えている暇はない。
私はポーチの中に手を入れ、意を決して神剣を掴む。
「……!?!?」
私が神剣を握ったその瞬間、神剣は突如激しく振動し始め、ポーチの中で暴れ出した。
え?!なに?!どういう事?
私はすぐに手を離し、ポーチの中から手を抜き出した。
真剣は鞘には収まっていない剥き身のままの状態だ。
もしあのまま神剣を握っていたら、神剣が更に暴れ出して手が血だらけになっていたかも知れない。
この神剣は帯剣するつもりはなかったので、別にいらないだろうと面倒くさがって鞘を作らなかった自分に心底に後悔する。
「ど、どうしよう……!!あ、そうだ!」
私は慌てながら目の前にメニュー画面を表示させ、アイテム欄から神剣エターナルを探した。
まずは状況確認だ。
こんな時こそ焦っちゃダメだ。
トラブルは重なるもの。
そんな時こそ、より冷静に。
ゲーム時代に学んだ事だ。
「えっと、あった!……って、ナニコレ!?」
武器名:神剣エターナル(不整合・欠陥)
攻撃力:6361
耐久力:3809
武器ランク:S
生産者:エト
アイテム欄の神剣エターナルの項目は何故か赤色で表情されており、詳細表示の画面を出すと、名前の横に、とてつもなく不穏な文字が表示されていた。
「え?不整合?欠陥?なにそれ??」
もしかして、バグ!?!?
確かにこの世界はゲームの世界とそっくりだけど、そういう所まで似せなくていいのに!!
この流れ、ポーチから出したらまた変な事が起きる系のやつだよね!?
もうこれ以上トラブルとか要らないんですけど!?
『ギギギ!!』
「!?」
その時、今まで様子を窺っていたキングスコーピオンが、完全に油断をしていた私に向かって勢いよく突進して来た。
キングスコーピオンはあっという間に距離を詰め、二本の大きなハサミと鋭い毒針のついた尾を次々と繰り出す。
「ちよ!わ!!無理無理無理!!」
そんな軽口を叩きながらも私は右手に星砕の槌で、その全てを躱していく。
一瞬も気を抜けないその戦いの中で、私の身体には次々と浅い傷が作られていく。
ダメ、このままじゃ絶対に負けちゃう……!?
つい、そんな事を考えてしまったその瞬間、私の僅かな機微を感じ取ったキングスコーピオンが、今までで一番速い毒針の一撃を私の足元へと繰り出した。
まずい!!!
私は全力の力で大きく上に高く飛び、間一髪でその攻撃を躱す。
だが、その動きは織り込み済みだったと言わんばかりに、キングスコーピオンは私の真下へと潜り込み、真上に飛んでいる私目掛けて2つの大きなハサミを突き出した。
こうなる事は、飛んだ瞬間に理解していた。
しかし、私にはあの場面で退路はほぼ無く、出来る限り高く、真上に飛ぶ以外の選択肢は無かった。
私がもし、生粋の戦闘職であれば、ここまでいいように翻弄はされなかっただろうが、生産職である私と、戦う事が日常となっている魔物とでは、戦闘センスの差は歴然だった。
「くそおお!!でも!戦闘のセンスでは負けても、諦めの悪さは負けないんだから!!!」
私はそう叫んで持っていた星砕の槌を捨て、ポーチの中に手を突っ込み、覚悟を決めて神剣エターナルをガッシリと掴む。
掴んだ瞬間に激しく暴れだす神剣を、私は力強く握りしめ、力ずくて抑え込む。
「良い子だから、大人しく……しなさいっ!」
そう言って、暴れる神剣を無理やり力でねじ伏せ、そのまま勢いよくポーチの中から取り出した。
しかし、真下から迫る2つのハサミは既に足元まで到達しており、気付いた時には、せっかく取り出した神剣を構える時間もほぼ無く、もうあと数cmのところまで迫っていた。
くそ!遅かった!間に合わない!!
この追撃を予想できていたのなら、飛んだ瞬間に神剣を取り出しておくべきだった。
神剣を出した後の面倒事が頭をよぎり、ほんの少し、行動が遅れてしまった。
そんな後悔をしている間も無く、私を貫かんとばかりに突き出された大きなハサミが、ついに私の腹部に接触した。
その瞬間。
“……ドオオオオオン!!!”
「え!?」
私に向かって突き上げられた大きなハサミは、突如動きを止め、私は超反応で体を捻る。
少し間を置いて鳴り響いた轟音に驚きつつも、そのハサミをなんとか躱しきり、そのまま重力に身を任せ、落下を始める。
私がキングスコーピオンの突き上げられたハサミの横を落下しながら通り過ぎたその時、視界に予想外の光景が飛び込んで来た。
「え!?」
私の真下にいたキングスコーピオン。
その背中の硬い攻殻には大きなクレーターが出来ており、その中心には、とても見覚えのある、大きな鈍色の塊が鎮座していた。
「トコ!?!?」
私の呼び掛けに呼応するかの様に、その鈍色の塊はグニャグニャと形を変え、お馴染みの銀髪の幼い少女へと姿を変えた。
「一番おいしいタイミング。控えめに言って100点。褒めるべき」
私を見上げながらドヤ顔でそう語るトコに、私のテンションは一気に上がる。
「エライ!!トコ最高!!愛してる!!」
「ふふん」
私の賛辞にすっかりご満悦なトコは、キングスコーピオンの背中からピョンと飛び降り、再び声をかけてくる。
「動きは止めた。でもまだ死んでない。あとは任せた」
「うん、任せて!!」
私はそう言葉を返すと、相変わらず暴れている神剣を力ずくで抑え込み、大きく頭上に振り上げた。
そしてそのまま落下の勢いを利用して、キングスコーピオンの頭部に全力の一撃を打ち放った。
『グギギギギギギギギギ!!!』
私の渾身の一撃を受けたキングスコーピオンは、大きな呻き声を上げ、やがて、その動きを完全に止めた。
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