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カジxトコ 〜赤猫の鍛治師〜  作者: なな/おたふくろ
序章
20/106

第十八話 銀髪の少女


 グランベル鉱山。


 ゲーム時代、私もよくお世話になった場所。

 ソレントに住む鍛治師であれば誰でも知っている、とても有名な鍛治素材の採掘場だ。

 当時のソレントに住む鍛治師にとってはもはや常識と言ってもいい程で、この鉱山では、一般的な鉱石から希少な鉱石まで、幅広い種類の鉱石を採掘する事が可能だった。

 更には、採掘ポイントも他の鉱山と比べてダントツに多く、鍛治師にとってはとても便利でありがたい鉱山であった。


 とは言え、採れる鉱石の比率ではやはり低ランクの鉱石が大くを占めるのだが、この鉱山で採れる鉱石はそのほぼ全てが需要の高い素材というのも特徴的だ。


 今ではほとんど魔物は住み着いていないらしいが、ゲーム時代では多くの魔物が出現し、その種類もランクも様々だった。

 そのおかげもあってか、敵の出現エリアも細かく分けられており、低ランク冒険者から高ランク冒険者までがお世話になる、とても良質な『狩場』であった。


 それから500年もの時を経た今となっては、何の変哲もない、ただの鉱山となっているらしいが。


「で、今になってまた魔物が住み着き始めたと。要は、私の知ってるゲーム時代のグランベル鉱山に戻りつつあるって事だろうし、こっちにとっては都合が良い。……はずだったんだけど。問題はあれだよね」


 鉱山の入り口の横に立つ兵士と、関係者以外立ち入り禁止の看板。


「関係者ねえ……」


 ガルカン達の姿が見えないところを見ると、あの集団は鉱山の中に入っていったのだろう。

 恐らく、関係者というのは、例の討伐クエスト受注者の事を指しているのだろう。


 となると、クエストを受注していない私は、ただの一般人という事になる。


「もしかして、私入れない?」


 ここまで来てまさかの門前払いとか、ちょっと勘弁して欲しいんですけど。


「うーん」


 と、考えたところで、当然妙案が浮かぶはずもない。

 ずっとここで悩んでいても仕方がないので、私は一か八か、シレっと関係者っぽく入っていく事にした。


 トコトコテクテク


「……ちょ、ちょ、ちょっとキミ!なに普通に入ろうとしてるんだ。ここは一般人は立ち入り禁止だぞ」


 駄目でした。

 デスヨネー。


「……ん?その装備、キミは冒険者か?」

「え?あ、はい。そうです。冒険者なんです。だから大丈夫です。大丈夫なんです。という訳で、それじゃ」

「って、待ちなさい。それで『はいそうですか』って通せるわけがないだろう。キミ、なんだか怪しいね。ちょっとこっちに来て話を聞かせてもらおうか」

「え」


 あれ、なんか状況が悪化してる。

 どうしてこうなった!?


「ところで」

「は、はい」

「その子はキミの連れか?」

「はい?」


 兵士が突然、私の右肩の後ろ辺りを見ながらそう問いかけて来た。

 何のことだかわからず、私も思わず振り返った。


「……エト、早く」


 そこには、銀髪の小さな女の子が、私の外套の裾をギュッと握り、上目遣いに私の顔を見上げながら、ぼそっと私に呟いた。


 え、誰!?


「エト……さっさと行く」

「え?いや、さっさとって言われても……」


 戸惑う私をよそに、銀髪の少女は私の袖を引っ張るようにして中に入ろうとしていた。


「ん?君はエトと言うのか?」

「え、あ、はい」

「もしかして、彼女の言っていた鍛治師の少女と言うのは君の事か」

「彼女??」


 そう言って私は袖を掴む少女の方を見るが、少女はコテンと横に頭を倒し、不思議そうな顔をしていた。

 どうやら兵士の言う「彼女」は、この少女の事ではないらしい。


「君、『動猛獣の牙』のメンバーの知り合いか?」

「動猛獣の牙?……ああ、あのクマの……って、もしかしてその彼女ってシーラさんのこと?回復術師の」

「ああ。やはり君の事だったか」

「どう言う事?」


 どうやら、シーラさんがここを通る時に、私が臨時の武具修理のサポート要員として遅れてやってくると伝えてくれていたらしい。

 関係者以外の立ち入り制限で私が入れないと考えて、咄嗟に機転を利かせてくれたのだろう。

 実にありがたい。


「そう言う事なら問題ない。彼らはつい先ほどここを通ったばかりだ。すぐに追いつくとは思うが、入り口付近でも魔物が出ないとも言い切れない。気をつけて行くんだぞ」

「あ、はい、ありがとうございます」


 取り敢えず、シーラさんのおかげで鉱山の中に進む事が出来る。

 今度会ったらお礼を言っとかなきゃ。


「ところでキミ」

「はい?」

「さっきの子はどこに行ったんだ?」

「へ?」


 兵士ににそう言われ、振り返ると、そこには先程までいた銀髪の少女の姿はなくなっていた。


「あの子はキミの妹か何かか?」

「いや……私も初めて会った子なんだけど……」

「そうなのか?」

「まあ、あんな小さな子が一人でこんな所に来るはずもないし、恐らく連れて来た者の元に戻ったんだろう。もしもまだ一人でいるようなら、見つけ次第こちらで保護しておく事にしよう」

「はあ」

「引き留めて悪かったな。くれぐれも気をつけて行くように」

「えっと、ありがとうございます」

「うむ」


 先程の少女の事は気になるが、せっかく通行許可も貰えた事だし、私は鉱山の中へと入って行く事にした。



 鉱山内を歩きながら、天井や壁面の様相の変化に思わず声を漏らしていた。


「うわあ…。これは私の知ってる鉱山と大体同じだけど全然違うね。あれがリアルになるとこうなるのか」


 記憶にある鉱山内部は、薄暗く、内部の大半が簡素的な補修しかされていないような岩場の洞窟に近いものだったはず。


 しかし、目の前に映る鉱山内部は見事に改修工事が成されていた。

 やはり、500年の時間の流れはそこかしこに確かに存在していた。


 内部は半円状の地下鉄のトンネルの様に施工され、壁面から天井に掛けて湾曲状に加工された木材が幾重にも敷き詰められていた。

 通路の左右の壁面には火が灯されたマジックランプが設置されていて、その明かりは奥のフロアまで見通せる程、通路を照らしていた。


「ゲームの時は壁掛け松明が並んでたけど、今はマジックランプに変わってる。そりゃ、年がら年中燃えっぱなしってのはおかしいもんね。だいたい、こんな所で火を使っちゃ、すぐに酸欠になっちゃうし」


 ゲームと現実の違いにいちいち感動しながら先に進むと、少し広めの空間にたどり着いた。


「あ、確かこの辺りに最初の採掘ポイントがあったよね」


 そこは私の記憶にもあった場所。

 今回は鉱石の採掘の為に来たわけじゃないけど、一応、覚えているポイントを探していくつか採掘してみる事にする。


 よく考えたら武器も持って来ていないので、採れた鉱石で簡単な武器を作っておくのもいいかもしれない。


「一応、魔剣と神剣は持ってるけど、流石にそれを使うわけにもいかないからね。それに、持ってるところを誰かに見られても面倒だし」


 そんな事を言いながら、結局は単純に鍛治師魂がくすぐられて鉱石いじりをしたくなっていただけなのは、ここだけの秘密だ。


「さて、いっちょやりますか!」


 そう言って私は、自分の記憶からこのフロアの採掘ポイントを思い出し、片っ端から掘り起こして行った。

 気がつげば、時間も忘れて無駄に大量の素材をゲットしてしまった。


「ま、まあ、お店もするんだし素材はいくらあっても困らないよね」


 私は、ポーチに入れた採掘素材の一覧を眺めながら、『ちょっとやり過ぎたかな?』と少し反省しつつ、そんな言い訳を呟いた。


 採れた鉱石は大量の鉄鉱石と、少量の銅鉱石。

 ついでに魔物の骨もいくつか見つかったが、状態からして昔のものだろう。

 魔物の骨から見る、魔物の種類の分布に関しては、ゲーム時代とは大きく違っていなかった。


 とは言え、いなくなったはずの魔物が最近になってまた現れ出したという事は、しばらくすればここにもまた魔物が現れるようになるのだろうか。

 この時代の冒険者達がゲームの頃よりも低レベルだとすれば、それは十分驚異的ではある。


「なるほど。そりゃ立ち入り禁止にもなるわけか」


 そんな事を考えていると、私の後方、高山の入り口の方から数人の人の気配と話し声が聞こえて来た。


 やって来たのは、革の防具やローブをまとった四人の冒険者達だった。


「あれ、なんかあそこに女の子居るんだけど?」

「あ、ほんとだ。鍛治師かな?ちっちゃい冒険者かわいい」

「ホントね。ん?でも一人?」

「おい、お前ら、騒ぐんじゃない。向こうも警戒してるじゃないか」

「「「「はーい」」」」


 その四人のうち、先頭を歩いていたリーダーっぽい若い男の冒険者が、一人前に出て、私に声をかけてきた。


「あの、ちょっといいだろうか?」

「な、なんでしょう」


 その男は、私の警戒心を理解した上で、絶妙な距離をとりながら近づき、私に話しかけてきた。

 物腰も柔らかく、表情も優しく、普通にイケメンだった。


 ちなみに、この男以外の三人はみんな女性で、冒険者としてのレベルはともかく、見た目のレベルはかなり高かった。


 なるほど、これが噂に聞くハーレムパーティーって奴か。

 初めて見た。

 さすがイケメンだね。


「見たところキミは鍛治師のようだが、仲間はどこに行ったんだい?入り口付近とは言え、さすがに一人は危ないぞ」


 どうやらこのイケメンの冒険者は、私の心配をしてくれているらしい。

 イケメンのくせに親切とか、さすがハーレムを作るだけはある。


「一人だけど、そんなに奥には進まないので大丈夫です。戦闘もそれなりには出来るので。適当に鉱石掘ったら帰りますよ」

「ふむ、そうか」

「心配してもらってありがとうございます」

「いやいや、礼を言われるほどのことではないが……」


 それでもこのイケメン冒険者は私の事が心配らしく、少し困った表情をしている。

 気遣いは嬉しいが、私としても、この後はこっそりとソロで魔物狩りをする予定なので、このパーティーにはさっさと先に行ってもらわないと身動きが取れずに困ってしまう。


「わかった。じゃあこうしよう。きみも僕のパーティーメンバーに加わるといい」

「……はい?」

「少し幼い感じはするが、それも今だけだ。きみは既に十分美しい。絶対に僕のパーティーに入るべきだ」

「……は?」


 え、どう言う事?

 もしかして、私もそのハーレムの一員に加われとか言ってる?

 いやまさか、いきなりそんな事。

 でも今のセリフ、どう解釈してもそうとしか取れないよね?

 しかも、キミなら僕のハーレム要員の一員に相応しい的な、謎のマウント発言。

 イケメンで親切なのは違わないんだろうけど、今や、自意識過剰な勘違い野郎にしか思えなくなってしまった。

 普通にドン引きなんだけど!?


「えっと、お断りします」

「そう、お断り……え?……ええええ?!??」


 なぜ驚く。

 どこから出て来るんだその自信は。


「な、何故だ!?キミは僕のパーティーに入りたくないのか!?」

「なんで私が。そもそも今はどこのパーティーにも入るつもりはないですし」

「いや、しかしだな!」


 その後、執拗な勧誘をどうにか断り続けていると、突然、私の外套がクイクイッと引っ張られ、後ろの方から声がした。


「時間かけすぎ。エト、さっさと行く」


 え!?


 突然私の後ろから聞こえて来た、聞き覚えのある声。

 私と粘着イケメン男は突然の事に驚き、思わずその声の元へと顔を向けた。


 そこにいたは、銀髪の小さな女の子だった。


「ロリっ子だと!?どこから出て来た!?」


 驚く男の言動に対し、銀髪の少女は眉をひそめて言い返す。


「……ロリっ子違う。不愉快」

「なっ!?……いや、失礼した。しかし、幼い子供も決して悪くはないんだが、僕の好みとは少し合わないんだ。すまない」

「謝られる意味がわからない。取り敢えずキモい」

「キモ……!?」


 男を軽くあしらう銀髪の少女。

 そんな少女を見ながら、わたしは鉱山入り口での兵士とのやり取りの時の事を思い出していた。


「あ!?!?もしかしてあなた、あの時の!?」

「エト、道草し過ぎ」




読んでいただきありがとうございます。

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