第十六話 ソレントの冒険者
「ひゃっほう!これはいいね!」
バジリの乗り心地は想像以上に快適だった。
超楽しい!
恐らく、乗りこなすにはかなりのバランス感覚が必要とされるのだろうが、ゲーム時代で散々乗りまくっていただけあって、このエトの体はその扱い方を完全に覚えているようだった。
「これはいい!車より速いし、何より気持ちいい!」
先程のおセンチ気分からは一転して、すっかりゴキゲンになった私は、バジリと共に広大な草原を颯爽と駆け抜けていた。
気持ちの切り替えというか、適応能力の高さは、幼い頃からの私の取り柄の一つだ。
「あ、そうだ」
私はバジリに乗りながら、ある事を思い付いた。
「メニューウィンドウ、オープン!マップを表示!」
念のためソレント周辺の地図を確認しておこうと、目の前にメニューウィンドウを開き、マップを表示させる。
ちなみに、わざわざ別に声に出して言う必要はない。
完全にノリだ。
「ふむふむ、まだもうちょっと先か」
しかし、このメニューウィンドウはやはり便利だ。
これを使えば、地図を出すだけの為に、わざわざポーチからデバイスを取り出す必要がない。
一見、地味ではあるが、両手を塞がずに済むと言うのはかなり大きな利点だ。
しかも、その所作を他人に知られる事なく行えると言うのも、今後の私の行動にとっても有利に働くだろう。
地図を確認しながら街道沿いにバジリを走らせていると、草原には先ほどから、幾つかのモンスターらしき影が確認できていた。
そのモンスターをじっと見つめていると、ひょこっと詳細ウィンドウが表示された。
【鑑定】スキルを使わなくても、一定時間見つめているだけで対象の詳細が表示される様だ。
モンスター名:マンドラゴラ
種族:植物 Lv1
HP:8/15
MP:0/0
STR:7
VIT:5
DEX:10
INT:2
スキル
体当たりLv1
ゲーム時代では最初の町の周辺に居た、初心者向けの雑魚敵だ。
よくわからないけど、なんとなくホッコリする。
マンドラゴラのHPが減っているところを見ると、どうやら戦闘中のようだ。
よく見ると、レザー装備に身を包んだ一人の戦士職の冒険者が片手剣を振り回し、このマンドラゴラ相手に戦闘をしていた。
マンドラゴラ自体は最弱モンスターで経験値もほとんど無いが、ポーションの製作に必要な素材を落とす為、それ目的でマンドラゴラを狩る冒険者は少なくない。
本来、辺境都市の周辺だけあって近くには高レベルな魔物が相当数生息しており、高レベル冒険者の狩場として有名な場所だった。
しかし、500年の時を経て、強力な魔物は森の奥の方へと移動し、ソレントの周辺の街道付近に現れるのは、とても弱い魔物ばかりになっていた。
街道から離れた場所にある森の中にまで行かなければ、強力な魔物に遭遇することはない。
逆に言えば森の奥まで進めば強い魔物が現れる為、、この辺境にある城塞都市ソレントは、ベテラン冒険者から駆け出し冒険者まで、様々な冒険者が滞在する「冒険者の街」として知られるようになっていた。
道中では、先程の冒険者以外にも、魔物と戦う冒険者パーティが度々見かけられた。
ゲーム開始直後のあの頃を思い出す。
そんな光景を横目で見ながら、気付けば道程はグランベル鉱山まで三分の二くらいのところまで来ていた。
この後は少し勾配のある山岳エリアだ。
「もうちょっとで到着だから、頑張って」
私はバジリの身体をさすりながら声をかける。
バジリは嘶くとその強靭な脚力で足場の悪い坂道を一歩一歩力強く駆け上って行った。
◆
しばらくすると、グランベル鉱山の入り口を遠望できる位置にまでやって来ていた。
ゲームではすっかり見慣れた道のりも、今はどれもこれが新鮮だ。
そんな時、後ろの方から地響きのような大きな音が聞こえてきた。
「ん?なんの音?」
私は頭の上の猫耳をピクピクとさせながら、バジリの速度を少し上げつつ、音のする後ろの方に首を回す。
″ドドドドドドドドドド!!″
「え!?な、何か来てる!?」
振り返った先に見えたのは、大きなバジリに乗った熊獣人の戦士らしき冒険者。
その冒険者を先頭にして、数十人のバジリに乗った冒険者達の集団が、物凄い勢いで迫って来ていた。
先頭の熊獣人はミスリル製のフルアーマーに大剣といった出立で、見るからにパワー系の戦士。
その装備品はゲーム時代ではLv30以上で装備できるなかなかの代物だった事から、中身もそれなりのレベルの冒険者であろう事は推測できた。
「おい!そこのチビ!道を開けろ!!」
その熊獣人の戦士は何やら先を急いでいる様子で、私を見つけるや否や大声で罵声をぶつけてきた。
なに、あの偉そうなクマ。
私はその横柄な物言いに少し腹を立てながらも、特に急いでいる訳でもなかったので素直に道の端に寄り、適当にやり過ごす事にした。
それを見た熊獣人の戦士は、私をジッと見つめ、そして頭の先から足元まで見定めする様に一通り見回した後、追い越し際に私の胸元を見て「ペッ」と唾を吐いてそのまま駆け抜けて行った。
は!?なに今の!?ケンカ売ってんの?!
せっかくバジリで爽快ドライブ中だったのに、今ので一気に水を刺された気分だ。
なに、なんなの?
私の胸、別に無い事ないよ!?普通だよ!?
てか、猫耳族ならかなりある方だよ!?
まあ、リアルの私は中々慎ましい感じではあったけど。
だいたい、デカけりゃ良いってもんじゃないよ!?
そんな事を考えながら走り去るクマを視線で追いかけていると、クマは私を追い抜いた後にわざわざこちらへ振り返り、まるで人を馬鹿にするような嘲笑を浮かべ、もう一度唾を吐いた。
「はぁ!?あったま来た!追いかけて文句言ってやる!」
私は手綱を握り直し、全力でクマを追いかけ始めた。
私は環境に適応する能力は高いが、煽り耐性は低いのだ。
「まてーー!コラーー!」
全力で追いかける私。
しかし、完全にスピードに乗り切っているクマのバジリには追いつけるはずもなく、ジリジリと距離を離され、後続の集団達にも次々と追い抜かれていっていた。
「くそー!覚えてろよー!」
私はあっという間に集団の全員に追い抜かれ、これ以上追いかけても無駄にバジリの体力を消耗させるだけだと考え、追いかける事を諦めた。
「クマのくせに早いな!!……って、おや?」
そんな時、遠くなっていく前方の集団の最後尾から、一人の女性冒険者が、バジリの速度を落としながら集団から離れ、そのままどんどん私との距離を詰めて来た。
その女性は、大きめの杖を背負った白いローブ姿の魔術師系冒険者。
歳は私と同じか少し上くらいの人族の女性で、装備している杖やローブを見るからに、おそらく回復術師と思われた。
そんな彼女の乗るバジリはついに私の隣までやって来て、私のバジリと並走しながら、私に声を掛けて来た。
「ごめんねー。うちのリーダーあんなんだからー」
あら、なんかいい人っぽい。
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