第十四話 古代の素材
翌日。
私は部屋の中で頭を悩ませていた。
「もしかしたらと思っていたけど、やっぱりそういう事ね」
私はゲラルドさんから預かった工具達を机に並べ、更に、つい先ほど商店街道を回って買い集めた修理用素材も並べる。
ちなみに、昨日貰ったお店の住居スペースは流石に使えなかったので、昨晩は近場の宿屋に部屋を取り、朝イチで素材の買い出しに行ってきた。
「取り敢えず思いつく限りの修理用素材は買い集めたけど、肝心の【活力の魔石】がないとはね。
この時代には存在しないのか、あるいは、この素材を持つ魔物がこの時代では絶滅していて、古代武器の様に古代素材となっているとか。
どちらにしろ、それ無しで修理とか、そりゃ無理だわ」
むしろそれ無しでどうやって修理してたんだろう。
この時代の修理技術は私のいた頃より進んでいるのかもしれない。
「とはいえ、この時代の修理技術でもゲラルドさんの道具達を直せないって言うのなら、もうお手上げなんじゃないの?
もし、【活力の魔石】が手に入れば、ワンチャンあるかもってくらいか。出来れば、もっと上のランクの復元系のレア素材が欲しい所だけど、現状ではかなり望み薄だなあ」
残念ながら私のポーチのなかには、そのレア素材はおろか、【活力の魔石】も入っていない。
全部、自宅の倉庫の中に入れちゃってたから、ほとんどの素材は500年前に置いて来た事になる。
「ん?自宅?倉庫?……あ!武具店赤猫!」
そう、ゲーム時代の私の自宅は武具店赤猫だ。
この時代の街並みはだいぶ変わっていたけど、武具店赤猫は今も現存していた。
「ということは、倉庫が残っている可能性も!?」
その倉庫は隠し倉庫とかいうわけでは無い、普通の倉庫だったので、流石に500年ものあいだ手付かずで残っているとは思えないが、一応確かめてみる価値はある。
「案外、あの店主が持っている可能性だってあるかも知れない。とにかく、行ってみよう」
◆
「こんにちわー」
「いらっしゃい。……って、お前さんは昨日のエト好きのエトじゃないか」
「エト好きのエトって……、まあ、別にそれで良いけど」
エト好きって言うか私がそのエトなんだけど、説明のしようもないのでスルーだ。
「で、今日は何か用か?」
「うん、ちょっとね。えーっと」
あ。
そう言えば完全にノープランだった。
流石にいきなり倉庫を見せてくれなんて言えないよね。
今もその倉庫があるのかもわからないし。
「どうした?」
「え、いや、えっと、そうそう、修理についてちょっと聞きたいんだけど」
「修理?なんだ、お前も修理して欲しい道具があるのか?」
「うん?まあ、そんな感じかな」
「別に修理は構わんが、お前さんも鍛治師なら自分でやれるだろう。まさか、鍛治師のくせに修理スキルがないのか?」
「いや、あるにはあるんだけど……」
この時代での修理の方法を聞こうと思ってたけど、よく考えたらスキルはあるのにやり方を知らないって変だよね。
別に修理の依頼に来たわけじゃ無いけど、そっちから話をもっていくのもありかもしれない。
「実は、知り合いから修理を依頼されたんだけど、ちょっと困ってて」
「ん?どう言うことだ?」
「これなんだけど」
そう言って、ゲラルドさんから預かった道具のいくつかを、店主の前に取り出した。
「……なるほど。そう言う事か」
「え?」
店主は私が取り出した道具を手に取り、軽く状態を見ただけで何か納得した表情でそう言った。
「これはゲラルドのもんだろ?ちょっと前に俺のところにも来た。流石にこれは無理だから断ったがな」
「あ、そうなんだ?」
「ああ。しかし、驚いたな」
「なにが?」
「あいつは滅多な事では自分の道具を人に預けたりはしないからな。修理の時も基本的にはずっと終わるのを店内で待っているくらいだ」
「え、待ってるの?ずっと?」
「ああ。ずっと見られてる気がして、やりにくいったらありゃしねえ」
「ほええ」
もしかして私、安請け合いしちゃった?
こんな話聞いちゃったら、やっぱり出来ませんでしたなんて言えないじゃない。
「で、どうするんだ?流石にこれは無理だぞ?」
「うーん、やっぱりそうだよねえ。何か方法はないかな?」
「あれば俺がやってるしな」
「だよね」
うーん、困った。
この店の商品を見る限り、この店主の鍛治スキルはかなり高いのは見てわかる。
そんな人が無理だって言うんなら、この時代の技術でも多分無理なんだろう。
「まあ、【活力の魔石】みたいな古代素材があってもなかなかこれを直すのは無理だろうな」
「え!?【活力の魔石】あるの!?!?」
「いや、無いから困ってるんだろうが」
「あ、そうだったね」
やはり【活力の魔石】は持っていないようだが、存在はしているらしい。
「ちなみに、それって手に入れる事は可能?」
「あ?無理に決まってるだろ。古代素材だぞ?」
「ですよねー」
うん。そだよね。
一応、念の為聞いてみただけだよ。
「昔、この店の倉庫から古代の素材や装備品が大量に見つかったって騒ぎがあったらしいから、そこに【活力の魔石】が入ってたのなら、今は王宮の保管庫あたりにあるかも知れんがな。
まあ、どのみち俺達が手に入れる事は不可能だ」
「そっか」
倉庫の中身もしっかりと回収されちゃってるらしい。
こりゃ完全に手詰まりっぽいな……。
素材が取れる古代の魔物がいないんじゃ、もうどうしようもない。
「まあ、古代の魔物なら最近各地で目撃されてるようだがな」
「えっ??」
「早まるな。ただ古代の魔物が現れたってだけだ。
そもそもそんな都合よく、その魔物から【活力の魔石】が取れるわけが無いだろ。
もし取れたとしても、古代素材の魔石が市場に出回るわけがない」
「むう」
確かにそうだ。
なら、自分で行って自分で倒して自分で取ってくればいいんじゃない?
まあ、その魔物が【活力の魔石】を持ってるとは限らないけど。
「ちなみに、それってどんな魔物かわかる?」
「さあな。目撃された場所も複数らしいし、それぞれ別種って可能性もある。気になるなら中央区の冒険者ギルドで聞いてみればわかるんじゃ無いか?」
「冒険者ギルドで?」
「ああ。古代の魔物の討伐クエストが出されているはずだ。多少の情報はあると思うぞ」
「なるほど!」
◆
そしてやって来ました冒険者ギルド。
朝からあちこち行き過ぎでしょ、私。
なんか、ゲームのお使いクエストみたいだ。
「ほうほうほう、あるねー。しかも3つも。さらにその一つは鉱山じゃない!これは勝ったね!」
掲示板に貼られていた古代の魔物の討伐クエストは3種類あり、それぞれの場所は、山と海と鉱山だった。
地形的に、各地の古代の魔物はそれぞれ別種の魔物である可能性が高い。
その中でも、【活力の魔石】を持つ魔物がいそうなのは鉱山の方だ。
依頼書に書かれている魔物の特徴も、私の知る【活力の魔石】を持つ魔物と合致している。
「もし手に入らなくても、鍛治素材の鉱石の採掘も兼ねれば、完全な無駄足にはならないよね。まあ、ゲーム時代の【活力の魔石】自体はレア素材でも無いし、むしろハズレ素材と言ってもいいくらいだし、まず大丈夫だろうけど」
ゲーム時代の設定では、鉱山に現れる魔物は基本的に鍛治関係のアイテムをドロップする。
各魔物にはそれぞれにレア素材が低確率でドロップするように設定されており、その抽選に漏れたハズレ枠の一つとして【活力の魔石】が設定されている。
鍛治師以外の人にとってはまさにゴミアイテムと言ってもいいアイテムが、まさか貴重な古代素材になっているとは思いもよらなかった。
「でも良かった。案外なんとかなりそうだ」
私は掲示板から依頼書を剥がし、受付へと持って行った。
「これ、お願いします」
「依頼受注ですね、かしこまりました。デバイスの提示をお願いします」
「はい」
何気にこれが、私のこの時代での初クエストだ。
まさか最初のクエストが魔物討伐クエストになるなんて、鍛治師としてどうなのかと思わなくもないが。
ま、細かい事はいーんだよ。
「あの、申し訳ありません」
「はい?」
受付嬢がちょっと困った様子で話しかけて来た。
なにか、問題でもあったのかな?
「こちらはランクC以上の依頼となりますので、ランクFの方にはちょっと……」
「あ……」
忘れてた。
私、駆け出し冒険者だった。
どうしよ……。
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