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カジxトコ 〜赤猫の鍛治師〜  作者: なな/おたふくろ
序章
15/106

第十三話 修理依頼


 井戸から続く長い階段を降りると、そこには予想外の光景が広がっていた。


「おいおい、凄いなこりゃ」

「うん。凄い」


 そこにあったのは思ったよりも広い空間。

 そして、奥の方にはなかなかの年季が見られる鍛治道具や様々な設備が備わっていた。

 中でも一際目を奪ったのは、耐火煉瓦で作られた立派な火床(炉)と、その近くに置かれていた大きな金床だった。

 辺りはいろんな残骸が散らばっていてとにかくごちゃごちゃしていたが、火床と金床だけは不思議な存在感を出し、思わず見惚れてしまうほどだった。


「嬢ちゃん、こりゃとんでもないのを貰っちまったな。今は随分と瓦礫やらで荒れ果ててはいるが、これはガチもんの設備だぞ」

「や、やっぱそうだよね。それに、想像以上に広いし、嬉しいは嬉しいけど、思ってたのとちょっと違うんだよねえ……」


 もっとお店っぽいのを想像していた私は、無駄に本格的すぎる鍛治工房を目の前に、半ば放心状態となっていた。


 しかも広さもかなりのもので、地下にこんな広すぎる空間があって、上から崩れてこないのか心配になってくるほどだ。

 多分、「武具店赤猫」の数倍の広さはあるかもしれない。


「確かに凄いけど、でもこれ、お店というよりも工房だよね。無駄に広いけど」

「確かにな。だが、店舗ではないかもしれんが、鍛冶屋って意味じゃ間違ってはないぞ」

「あー。商品は置かずに、注文を貰って作るって感じ?」

「ああ」


 まあ、確かにそれも鍛治師としての商売の一つのやり方ではあるけど、私がやりたいのはそう言うのじゃない。

 お客さんと絡みたいのだ。


「まあ、鍛冶場は火も使うし、騒音の問題もあるしで、そもそも街中には建てられないからな」

「え!?そうなの?!」

「だが、今は耐火や防音のマジックアイテム設備が普及して街中でも建てれるようにはなったが」

「ほう!」

「とは言っても、かなり高価な設備だから、街中の店舗と郊外の工房の両方を持ってる鍛治師は割と多いらしい」

「な、なるほど」


 なんというか、リアルとファンタジーが混ざるといろいろ面倒くさいんだね。

 まあ、大体はファンタジー理論でねじ伏せちゃってるみたいだけど。


「だが、ここは工房としてはちょっと広すぎるな。これだけ広いなら、間に仕切りを作ればちょっとした店舗部分も出来そうだぞ」

「え!?本当に!?!?」

「ああ。問題ない」

「おおおお!!!!」


 鍛冶場があるのは部屋の一番奥なので、この部屋を半分に仕切れば、確かに鍛治場と店舗に分けられそうではある。

「武具店」ではなく、まさに「鍛冶屋」だ。


「まあ、客が来るかは分からんがな」

「のおおおおお!!!」


 忘れてた。

 この特殊すぎる立地を。

 もはや立地と言っていいのかすら怪しいが、かなり辺鄙な場所にある上に、しかも地下だ。

 地下。地下だよ?なに地下って。

 しかも挙げ句の果てに入口は井戸とという始末。


「隠れた名店には持ってこいじゃないか」

「いや、隠れ過ぎでしょ!!」


 取り敢えず、文句ばかり言っていても仕方がない。

 私とゲラルドさんは、散らばった残骸を動かしながら部屋の隅々を物色する。


「なるほどな」

「ん?どうかした?」


 部屋に配置されている設備を一つ一つ調べていたゲラルドさんが、ふとつぶやいた。


「ここにある設備だが、どれも一級品ではあるが、かなり古い物のようだな」

「ほう」

「多分、500年くらいは前の物だろうな」

「500年!?え、それって」

「ああ。古代の武具やらがまだ作られていた時代のものだ。ナーシャのやつ、とんでもない物件を寄越しやがったな」

「古代の……」


 古代の武具。

 そう、いわゆる神装備の事だ。

 ここは、私のゲーム時代からある場所という事になる。


「案外、嬢ちゃんと同じ名前の、伝説の鍛治師エトの使っていた工房かも知れんな」

「……」


 それはない。

 私はこんな場所は知らないし、こんな設備も使った事はない。


「てか、エトの事知ってるの?」

「まあ、俺は鍛治師じゃないが、一応生産職だからな。流石に深い部分までは知らないが、名前とどういう人物だったかくらいは知っている」

「そ、そうなんだ」

「会頭に嬢ちゃんを紹介された時に、名前がエトだって聞いたときはそれなりに驚きはしたが、あのナーシャにまで目をかけられているって言うのなら納得だ」

「納得?」

「あの二人に認められたって事はかなりの腕利きなんだろ?エトが世襲制だとは知らなかったが、もともと謎の多い人物だったからな。恐らくギルドが秘蔵していたであろうこの工房を嬢ちゃんに与えたって事はそういう事だろう」


 そういう事って、どういう事?


 要するに、私はエトの後継者で、代々エトの名を引き継いでいるって思われてるって事で良いのかな?

 引き継ぐも何も、本人なんだけどね。

 まあ、そんな事は言えないし、それで納得してくれてるならそういう事にしとこうかな?

 また何かやらかしても誤魔化しやすそうだし。


「ま、それでいい工房を貰えたわけだし、そういう事でいいよ」

「やっぱりそうだったか。いやあ、まさか伝説の鍛治師の後継者と知り合いになれるとはな。人生いつ何が起きるか分からねえな」

「でも、あんまり言いふらさないでくれるとありがたいかな」

「安心しろ。そんな事をしたら会頭達、特にナーシャに何言われるかわかったもんじゃねえ。そんなおっかねえ真似はしねえよ」

「まあ、それならいいけど」


 うん。ナーシャさんを引き込んでおいて良かった。

 てか、本当にあの人は何者なの??


「で、だ。嬢ちゃん」

「ん?」


 突然、真面目な顔で私に向き合うゲラルドさん。

 なになに?どうした?


「この店の事だが、俺が責任を持って嬢ちゃんの望む店に作り直そう」

「え?いきなりどうしたの?」

「その代わり、エトの後継者である嬢ちゃんに一つ頼みがある」

「頼み?」

「ああ、これだ」


 そう言って私の目の前に出されたのは、製図版や各種定規、更にはトンカチやノコギリ、カンナなど、ゲラルドさんの仕事道具の数々だった。

 どうやらゲラルドさんは、建築士でもあり、大工士でもあるようだ。


「どれもなかなか年季の入った道具だね?この道具がどうかしたの?」

「ああ。こいつらは俺が職人として独り立ちした時から使っていた物でな。特に何か性能が良いとか、別にそういう訳じゃないが、苦楽を共にした相棒達のような存在だ」

「なるほど。うん、わかるよ」


 合理的に考えれば、使い慣れた道具よりも性能の良い道具を使った方がいいのは当然だ。

 どんな物でも、使っていればいずれ慣れてくるもんだし。

 でも、ゲラルドさんはそんな事は分かった上で、自分の道具を大事にしている。

 ただの道具を相棒なんて言い方をするのが、その最たるところだ。

 かく言う私も、がっつりゲラルドさん寄りの考えの持ち主なので、その気持ちはよくわかる。


「だが、流石にそろそろもう限界のようでな」

「あー」


 見れば、確かにどれもかなりくたびれていて、何度も修理をした跡が見える。

 ゲラルドさんが独り立ちしたのがいつ頃なのかは分からないけど、相当長く使っているのは間違いない。

 人間だっていつかは死ぬんだから、道具だっていつかは壊れて使えなくなる。


「ただの道具だと言ってしまえはそれまでだが、こいつらには色々と思い出もあるし、もうちょっと一緒に居れたら、なんてな」

「なるほどね。もしかして、それを私に修理して欲しいとか?」

「そう言う事だ。無理なら無理で構わない。こいつらがとっくに限界なのは分かってる。ただ、伝説の鍛治師の後継者である嬢ちゃんに無理だと言われれば、俺も納得できるかも知れないと思ってな」

「そっか」


 本当に大事にしてるんだね。

 ゲラルドさんの道具への思いには、愛着以上のものを感じる。

 きっと、この道具達自体にも何か思い出があるんだろう。


 所詮、道具だと割り切れないでいるゲラルドさんは、とても不器用だけど、とても素敵だと思った。


 私はそんなゲラルドさんを見て、



 直したい。



 そう思ってしまった。


 パッと見ただけで、とても修理なんて無理なのは一目瞭然だったけど、それでも、直してあげたいと思ってしまった。


「わかった。絶対に直せるって約束は出来ないけど、たぶん無理だとは思うけど、やれるだけやってみるよ」

「……そうか、感謝する」


 ゲラルドさんはそう言って、少しはにかんだ表情を見せた。

 そんな顔されたら、意地でも直したいって思っちゃうじゃない。


「それじゃ、ちょっと見させてもらうね」

「頼む」


 私は目の前に並べられた道具の中でも、特に状態の悪そうなノコギリを手に取り、【鑑定】スキルを使って見る事にした。



 名称:魔動力式ノコギリ(壊)

 ランク:C

 耐久度:0

 製作者:ステラ・フローレンス



「……え?」


 この製作者、これってもしかして、ステラさん?!


「どうした?」

「いや、これって……あ、ううん。何でもない」


 っと危ない。

 【鑑定】スキルはこの時代にはないんだった。

 ここでステラさんの名前を出すのは色々とややこしい事になりそうだ。


「やっぱり駄目そうか?」

「うーん、確かにこれは修理でどうにかなる感じじゃないかな……」

「そうか……」


 めちゃめちゃ気になるけど、取り敢えずステラさんの事は置いとこう。気になるけど。


 それよりも、このノコギリの状態だ。

 はっきり言って、手の施しようが無い。

 壊れているだけならともかく、耐久度も0だ。

 耐久度が1でもあれば補強や能力付与も出来たけど、0じゃどうしようもない。

 数字の0に何を掛け算しても0にしかならないのと同じだ。


「やっぱりそうか。ま、仕方ないか……」

「うーん……ん?」


 あれ?


 そう言えば、どうしてこれ、形を留めているんだろう?

 普通なら、耐久度がゼロなったアイテムは粉々に砕けるはずなんだけど。


 もしかして、小数点以下のレベルで耐久度が残ってる!?


「どうした、嬢ちゃん」

「えっと、この道具達、一旦私が預かっても良いかな?」

「……まさか、直せそうなのか?」

「どうだろう。多分無理だと思うけど、じっくり調べれば何か出来る事がみつかるかも。なんていうか、ちょっと悪あがきがしたくなってね」

「嬢ちゃん……」


 私の言葉に、ゲラルドさんはとても意外そうな表情をしていた。


「ダメ元って事でどうかな?」

「……なるほど、会頭達が気に入るわけだ」

「え?」

「俺も嬢ちゃんの事は気に入ったぜ。悪あがき、やってみてくれ。もし駄目だったとしても気にすんな。どんな結果になったとしても、この店は俺がソレントで一番立派な店にしてやるよ」

「大きく出たね」

「ああ、大きく出るさ。でなきゃ俺も大きくなれないからな」

「なるほどね。ちょっと暑苦しいけど、そう言うの嫌いじゃ無いよ」

「そりゃどうも」


 こうして私はこの日、自分のお店を手に入れた。







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