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カジxトコ 〜赤猫の鍛治師〜  作者: なな/おたふくろ
序章
14/106

第十二話 訳あり物件


 私は今、商業区の中心部、『商店街道』に来ている。

 そう、先程ゲットした自分のお店をこの目で確認する為、早速現場へと向かっていた。


 もともと、あの試験を受けた理由は自分の店を手に入れるためではなく、単にその日の宿泊代をどうにかするためだった。

 それが何故か試験を受ける流れになり、そこで私は初めてちゃんと鍛治打ちをする事になった。

 もちろん、ゲームのシステム要素を多分に含んでいた鍛治打ちだったとは言え、ただ指先でマウスをクリックするだけのそれとは違い、初めて体験するリアルな鍛治打ちだった。

 私はそれに衝撃と感動を覚え、思わずかなりの羽目を外し過ぎてしまった。


 確かに、直前に武具店赤猫が他人に取られていた事を知ったばかりという事もあり、新しく自分のお店が欲しかったのは間違い無い。

 だが、まだこの世界について右も左もわからないこの状況で、魔剣なんて物を作ってしまったのは軽率過ぎるにも程があった。


 あの2人だったから、何とか騒ぎにならずに済んでいるが、一歩間違えば大変なことになっているところだった。


 私は心の中で2人に改めて感謝をしつつ、気づけばもう、商店街道のメイン通りまでやって来ていた。


 元の世界に帰るまで、どのくらいの期間をこの世界で暮らすことになるのかは分からない。

 だが、それまでの暫くの間は、ここにはお世話になることだろう。


「うん、やっぱり商店街道に来るとテンションが上がるね。しかも、ここの何処かに私の店があると思うと、いやぁ、もう、堪らないね!!」


 ゲーム時代も、この街は私のホームのようなものだった。

 もはや試験の疲れも忘れ、活気のある街並みにすっかりゴキゲンになり始める私。

 何だかんだ言っても、自分の店を持つという事は嬉しいことだ。

 内装のコーディネートや品揃えなど考えるだけでも楽しくなってくる。

 現実世界の私の部屋も、よく模様替えをしたりしていた。

 壁紙も総張り替えするほどの徹底ぶりで、家族にもよく呆れられていたくらいだ。


「そうだ!内装とか家具はステラさんの所にお願いしよう!」


 この世界にも百均の壁紙シールが売ってれば、いつも通り自分で全部やっちゃうんだけど、もちろんそんなものがあるわけがないし、業者に頼むしかないはず。

 だったら家具屋さんをやってるステラさんにお願いする以外の選択肢はないよね!

 前回はただの冷やかしで終わったけど、今回は違うのだ!!


 ステラさんはこの世界で最初に仲良くしてもらった人だからね。



 という訳で、先にステラ商会の方に寄り道してから行く事にした。


「こんにちわー」


 私はそう言いながらステラ商会のドアを開け、意気揚々と店の中に入って行く。


「いらっしゃいませ。って、あら、エトさん?」

「こんにちわ、ステラさん。昨日ぶりです」


 店の中に入ると一人の女性が笑顔で対応してくれた。

 このステラ商会の会頭、ステラさんだ。

 相変わらずこの人、店内で接客をしているようだ。

 暇なのかな?


「また接客やってるんですか?」

「ええ。やはり楽しくて」


 なんて屈託のない笑顔。

 くそう、可愛いなおい。


「それで、本日はどうなさいましたか?」

「うん、えっとね、今日はちょっとした報告と、あとは商談?をしに来たかな」

「……ほう」


 おっと、一瞬ステラさんが商人の顔になったね。

 すぐにいつものニコニコ顔に戻ったけど。


「簡単に言うと、この街にお店を持つ事になったので、その内装や家具の手配をお願いしたいなって」

「おお!!お店ですか!それはおめでとうございます。さすがエトさんですね」


 何がさすがなのかはよく分からないが、取り敢えず褒めてくれてるっぽい。

 一緒に喜んでもらえるのって、なんか嬉しいよね。


「実は、色々あって私もまだ物件を見てないので、何がどれだけ必要かはわからないんだよね。だから、詳しくは後日。今日は一応前もって話だけは通しておこうと思って来たんだ」

「なるほど。わざわざありがとうございます」

「いえいえ」


 取り敢えずステラさんの所で買うのは決定事項だ。

 今の私は昨日までの私とは違い、所持金10万Gだ。

 日本円にして約100万円。

 開店資金としてはかなり心許ないが、この後に向かう私の店にどれだけの設備や家具が残されているかは分からないし、いきなり全部を揃える必要も無いし、取り敢えず10万Gあればある程度はなんとかなるだろう。

 最悪、鍛治を打てる環境さえ確保出来れば、あとはどうとでもなる。


「であれば、当店の専属を一人同行させましょう」

「はい?」


 そういうとステラさんは近くの店員に声をかけ、誰かを呼んでくるように指示を出していた。


「専属を同行?」

「はい。当店で専属契約をしている建築士の男です。

ちょうど生産品の納品に来ていたはずなのでまだ居るでしょう。

 どの道、一度は実際の間取りなどの確認をする必要がありますので、彼に確認してもらいましょう」

「な、なるほど」

「大丈夫ですよ。彼は建築スキル以外にも、高レベルな家具工スキルや土木工スキルも持っていて、万能かつ優秀な職人です」

「へえ」


 確かに、内装や家具の発注をするにも、私はその専門ではないので正確に伝える事は難しい。

 受注する側としても後から変更だの作り直しだと言われるくらいなら、最初から素直に現状を確認しておいた方が断然いい。

 それに、ステラさんが優秀だって言う人なら、まず間違いはないだろう。


「会頭、評価してくれるのは嬉しいが、ちょっと持ち上げ過ぎだ。やりにくくなるからそれくらいにしておいてくれ」

「来ましたか。わざわざ呼び出してごめんなさいね。でも、優秀なのは事実ですから。そろそろ慣れて下さい」


 私とステラさんの話に割り込んで来たのは、一人のトカゲ風の大男だった。

 どうやら、この大男が、今話していた優秀な建築士のようだ。

 名前はゲラルド。種族は蜥蜴族。

 ゲームの時はリザードマンという種族名で呼ばれ、その種族のNPCは主に、ショップ系のNPCとして登場していたと思う。


 ステラ商会専属職人である蜥蜴族の建築士ゲラルドさんは、その職業柄、体はかなりガッシリとしていて身長も2メートルくらいはありそうな、偉丈夫な大男だ。

 威圧感もあり、なかなかの強面ながらも、どこか生真面目さを感じる。

 年齢は種族的によくわからないが、何となく雰囲気が私の父親に似ているような気もする。


「やれやれ。で、会頭がわざわざ俺に何の用です?」

「ええ。貴方にちょっとお願いがあってね」


 そう言って私の方をチラリと見るステラさん。

 そして、それに釣られるようにゲラルドさんも私の方を見て、視線を戻す。


「そちらのお嬢さんは?」

「エトさんよ。見てわかるとは思うけど、武具鍛治師ね。エトさんとは最近仲良くなって、今日は仕事の依頼を持って来てくださったのよ」

「ほう……」


 そう呟いて私を見るゲラルドさん。

 なんか、目力が凄くてちょっと怖い。


「で、その仕事の担当を貴方にお任せしたいのだけど、ダメかしら?もちろん、その分の手当ては出すわ」

「俺が?」

「そう。仕事内容は、エトさんの新しいお店の内装と家具の発注のお手伝いね。うちの職員に担当させるより、貴方が直接見た方が早いでしょ?」

「まあ、そりゃそうだが、そんな事言ったら他の案件だって全部そうなるぞ?」

「いいのよ。エトさんは特別」

「まあ、俺は別に構わんが……。おい、嬢ちゃん」

「は、はいっ?!」

「そういう訳だ。よろしく頼む」

「え?あ、ハイ!こちらこそよろしくお願いします」






 その後、私とゲラルドさんは店を後にし、目的の私のお店へと2人で向かっていた。


「さて、私のお店はどこかな~?どこかな~?」


 私はポーチから冒険者用デバイスを取り出し、画面にマップを表示させた。

 そのマップには、ナーシャさんが付けてくれた私のお店の印が表示されている。


「嬢ちゃん、随分とご機嫌だな」

「そりゃ、自分のお店だからね。テンションが上がらない方がおかしいでしょ」

「まあ、気持ちは分かるけどな」



 地図の印があるのは商業区のはずれの、ちょうど城壁のあたり。

 商業区G29と書かれた場所だった。

 マップには私のお店の場所に「目的地」と表示されたアイコンがあり、私の現在地と思われる場所には人型のアイコンが表示されている。


「その目的地が嬢ちゃんの店か?随分遠いな」

「まあ、立地のいい場所は大体埋まってるだろうしね。貰えるだけありがたいと思うしかないかな」

「あ?貰った?」


 確かにこの場所はお世辞にも良い立地とは言えない場所だが、別にお金儲けがしたい訳でも無い。

 むしろ、隠れた名店みたいになればそれはそれで面白そうだ。


「大丈夫!美人女将がやっている、知る人ぞ知る人気旅館みたいになれば良いのよ!」

「自分で美人とかよく言えるな。てか、旅館と鍛冶屋は違うと思うぞ?」

「いーのいーの」


 ぶっちゃけ、武具店赤猫も立地の良い場所では無かったし、それでもそれなりに繁盛はしてたから問題ないでしょ。


 商業区を歩きながら色々と見ていると、一件の美味しそうなスイーツを販売している店が目にとまった。

 外観も内装もカラフルな感じで可愛らしい。

 どうせなら、こんな可愛い店が良いよねー。

 でもあんな風にするには、かなりお金がかかりそうだし、多分手持ちのお金じゃ足りないだろうから、おいおいかなあ。

 ま、そういうのも楽しそうだからアリ!

 育成系とか発展系のゲームはわりと好き!


「そう言えば嬢ちゃん」

「ん?」

「さっき、店を貰ったとか言ってたような気がするんだが、その店は自分で買ったんじゃ無いのか?」

「えっと、生産初心者補助制度とかいうやつで、なんか貰えた」

「なんかって、オイ……」

「まあ、本来はお金の融資だけらしいんだけど、ナーシャさんが強引にねじ込んでくれたみたいで」

「ナーシャって、もしかしてあのナーシャか!?」


 なんか驚いてる。

 ナーシャさんってそんなに有名なのかな?

 いや、有名だろうな。あの感じだと。


「ゲラルドさんがどのナーシャさんの事を言ってるのかは分からないけど、多分そのナーシャさんだと思うよ」

「マジか。あれに気に入られるとか、嬢ちゃんは一体何者だ?うちの会頭にも目をかけられてるようだし」

「べ、別に、普通の鍛治師だよ?」

「普通ねえ……。まあ、そういう事にしとくか」


 全然納得してない感じだね。

 まあ、言いたいことはなんとなくわかる。

 取り敢えず、ナーシャさんはヤバいって事は分かった。

 いや、知ってたけど。



 中央通りを通りすぎると「武具店赤猫」が見えてきた。


 懐かしいね。

 この店も立地が悪くて最初は苦労したっけ。

 品揃えを考えたり、冒険者と交流を深めて一見さんを獲得したりしたのを覚えてるなー。

 私は、始めて店を持った時を思い出しながら「武具店赤猫」の前を通り過ぎた。

 落ち着いたらまた顔を出しに来よう。

 鍛治師繋がりは広げておくに越した事はないからね。


 そんな事を考えながら、私は地図に従って歩き進める。


 商店街道のだいぶ奥の方まで来ると、空き地や建設中の家等が目立つようになってきた。

 そろそろかな?この辺りに私の店があるのかな?

 デバイスの地図を確認すると、目的地はまだ先を示していた。


「おい嬢ちゃん、もう商店街道はおわっちまうぞ?」

「う、うん。あれ、おかしいなあ……」


 地図を頼りにもうしばらく歩くと、辺りは空き地ばかりで、どんどん人の気配すら感じられなくなる。


 どういう事?もう、店らしい店なんて一軒も見えないんですけど?


 それでもしばらく印に向かって歩き進めると、目の前には木々が生い茂った緑地公園のような場所が見えて来た。


「あっ……」


 デバイスを確認すると、その緑地公園の真ん中に目的地の印が表示されていた。


「どうした?」

「……なんか、ここっぽい」

「あ?ここ??いや、ここって言われても何もないぞ?」

「だよねえ……」


 私の目の前にあるのは木々の生い茂った緑地。

 よく見るとベンチや歩道のような物は一切なく、公園というよりは、何の手入れもされていない、ただの未開発区域といった感じだ。

 本当にここであってる?

 お店ないんですけど。


「おい、嬢ちゃん、あれ」

「ん?……なにあれ?」


 ゲラルドさんの指差す方を見て、思わず疑問の言葉を漏らす。


「あれは井戸だな。で、すこし離れたあそこにあるのが……多分、煙突だ」

「煙突?地面から??」


 そこにあったのはこの一帯で唯一の人工建造物。

 井戸はともかく、地面から煙突が出てるとか意味がわからない。

 普通に考えてそんな事はまずあり得ない事だけど、建築士であるゲラルドさんが言うのであればきっと煙突なんだろう。


「どういう事?」

「知るか。むしろ俺が聞きたいわ。なんで店じゃなくて井戸と煙突があるんだ?」

「いや、私だって分からないよ」


 どういう事?

 何かの手違い?

 でも、あのナーシャさんがそんなミスをするわけが……あ。


「ねえ、ゲラルドさん」

「なんだ?」

「この物件って、いろいろあってなし崩し的にこれにきまったんだけど」

「ふむ。そこで何か手違いが?」

「ううん、その色々っていうのがナーシャさんきっかけなんだけど、それってどう思う?」

「……」


 私を見たまま固まるゲラルドさん。

 そして、どんどん苦い表情になって行く。


「アレがこんなミスをするとは思えねえ。多分、なんかあるぞこりゃ」

「だよね……」


 これ、絶対にナーシャさんの差し金だよね。

 もう、嫌な予感しかしない。


「と、取り敢えず調べるか」

「うん」


 そうして井戸と煙突を調べる事数分。

 それはすぐに見つかった。


「井戸の中に……階段?」

「ああ、どうやらこれは『入口』のようだな」

「ど、どういう事?」

「嬢ちゃんの店は、多分、地下だ」

「え……」


 地下??

 地下ってなに!?

 ああ、デパ地下的な?

 いやいや!そうじゃないでしょ!

 デパートどこよ!


 じゃあ、あれだ。

 元々ここにお店はあったけど、地盤沈下かなんかで埋まってるとか!

 いやいや、それただの事故!!

 いや、わりとでっかい事故だよ!!

 じゃあなに?これ事故物件!?

 違う!地下物件!!

 いやいやそういう事じゃなくて……。


「おい、嬢ちゃん大丈夫か?気持ちはわかるがそろそろ帰ってこい」

「え、あ、ごめんなさい。ちょっとバグってました」


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