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カジxトコ 〜赤猫の鍛治師〜  作者: なな/おたふくろ
第2章
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第百三話 地下室

「ここは……」


 階段を降りると、そこは小さな小部屋になっており、そこには魔物の影も見当たらなかった。


 ただ、その部屋の中央には大きなランタンのようなものが置かれており、淡い光を放ちながらゆらゆらと部屋の中を照らしていた。


「さっき見えてた光の正体はこれみたいね。これは……何かの照明器具??」


 それはゲームの中でも見覚えのない物だった。

 周りをガラスで覆った容器のような物の中で、クリスタルのようのな大きな魔石がふわふわと漂いながら、常に淡い光を放っていた。


 一見、形だけはランタンのような形状をしているが、しかし、照明器具としては無駄に大き過ぎるし、その割に光がとても弱すぎる。


「まあ、この部屋くらいならこの程度で問題ないけど、もしかしたら照明器具じゃなくて別の何かなのかも?」


 私はそんな事を考えながら、淡い光に照らされた部屋の中を注意深く見渡した。


 見渡した限り、この部屋の壁際には幾つもの棚が隙間なく設置されており、そこにはいろんな物がとても雑多に置かれていた。


「ここは、物置き部屋か何か、かな……?」


 そこには鍛治道具や魔物の素材やいろんな鉱石、日用雑貨にメモ用紙、それに衣類やその他よくわからない物まで色々。


 唯一、本だけは本棚に綺麗に並べて収納されているようだが、それ以外の棚は特に分類で分けられる事なく、取り敢えず空いてる場所に置いておきましたと言った感じで所狭しと並べられていた。


「……本棚と物置き棚と、あとランタンみたいな照明器具。それ以外は特に何もない、か」


 やはりここは、ただの倉庫のような部屋のようだ。

 魔物が隠れて潜んでいる気配もないし、取り敢えず差し迫って特別何かあるといった事は無さそうだ。


 一応、唯一綺麗に整頓されている本棚の書物だけは、後で確認する必要はありそうだけど。

 それ以外のものに関しては……流石にごちゃごちゃし過ぎてどうしたものか。


「でも、雑ではあるけどちゃんと棚の中に仕舞っているあたり、不用品って訳でもなさそうなんだよね……って、ん??あれは……」


 その時、私はその棚に並べられていた物の一つに目が止まり、思わずそれの置かれている棚の場所へと小走りで駆け寄った。


「こ、これって……!?」


 それは、やや大きめな道具箱のような物で、私はこれをいつか何処かで見た記憶がある。

 だが、その記憶はとてもあやふやで、いつ何処で見た物なのか思い出せない。

 そんな、すぐに思い出せないような程度の物であるならば、恐らくそれほど大した物ではないはずなのだが、しかし、何故かこれが私にとって、とても重要な物であるような気がしてならなかった。


「おーい嬢ちゃん、大丈夫かー!?」


 その時、上の階からゲラルドさんのそんな声が聞こえて来た。

 そう言えば、私が先に様子を見て来ると言って、上で待たせていたんだった。

 それをすっかり忘れて、ついつい部屋の中の物色を始めてしまっていた。


「ごめん、取り敢えず大丈夫見たい!降りて来ても平気だよー!」


 わたしがそう声を返すと、程なくしてゲラルドさんが階段を降りてやって来た。


「無事のようだな。なかなか戻ってこないから心配したぞ」

「ごめんごめん、好奇心を抑えられずについ物色し始めちゃってたよ」


 私は頭をポリポリと掻きながらそう言うと、ゲラルドさんは肩を落として苦笑いの顔を浮かべた。


「まったく心配させやがって。まあ、無事だったんならよかったが。……で、ここは何だ?地下倉庫か?」

「多分。取り敢えず魔物の気配はないし安全だと思うよ」

「そうか」


 ゲラルドさんはそう言うと、改めて辺りをぐるりと見渡した。

 一瞬、部屋の中央のランタンのような装置を見て少し首を傾げるが、すぐにまた辺りを見渡し、ふむ、と一言呟いた。


「ゲラルドさん?」

「その変わった照明は少し気になるが、他は特に変わったところは無さそうだな。なら問題ないか」

「?? どゆこと??」


 ゲラルドさんのその言葉に私が首を傾げてそう言うと、ゲラルドさんは私に向かって言葉を続けた。


「いや、嬢ちゃん。上に嬢ちゃんの客が来ているんだが」

「へ?? 客??」

「ああ。取り敢えず危険は無いようだし、ここに呼んでも構わないか?」


 その言葉に私は更に首を傾げる。


「ここに??いや、わざわざこんな狭い所に呼ばなくても。お客さんなら私が上に戻ればいいし。てか、その客って誰よ」

「いや、それがどうもここを見てみたいらしくてな。二人して勝手に降りようとするもんだから止めるのに苦労したんだ。取り敢えず、呼んでもいいか?」


 いや、だからそれは誰なのよ。

 しかも二人って一体誰と誰のことだろう??

 大体、こんな狭い物置き部屋なんか見ても仕方がないだろうに。

 話がまったく見えてこない。


「いやまあ、本人がいいなら、別にいいけど……」

「そうか、助かる。駄目だと言われたらどうしようかと思った。おーい、降りて来ても大丈夫だぞー!」

「??」


 未だ訳のわからない私をよそに、ゲラルドさんは上の階に向かってそう呼びかけると、階段を降りて来る二人分の足音と共に、何やら言い合う声が聞こえてきた。


「ちょっとあなた、早く進みなさいよれ

「こら、押すんじゃないわよ、危ないでしょ、足元が暗くて見えにくいんだから」


 え!? この声って??


 そこから聞こえて来た声はとても聞き覚えのある声で、同時に意外な組み合わせの声だった。


「こんにちは、エトさん。久しぶりね」

「こんにちは、エトさん。昨日ぶりね」


 それは、ゲラルドさんの雇い主でもあるステラ商会の会頭、ステラさんと、今朝私のデバイスにメッセージを送って来た生産者ギルドの受付嬢、ナーシャさんの二人だった。


「ええ?? ステラさんとナーシャさん??」


 意外すぎる二人の登場に、私は驚きを隠せずそう言うと、ステラさんはそんな私にニコリと微笑み、ナーシャさんはパチンとウインクを飛ばして来た。


 なにこれ?どう言うこと??

 私何か悪いことした!??

 こんなよくわからない組み合わせの来客とか、意味不明すぎて怖いんですけど。

 

 そんな戸惑いを見せる私に、ステラさんはそれまでの笑顔を絶やさぬまま、ゆっくりと私に話しかけて来た。


「突然ごめんなさいね。ちょっと近くに用事があったのと、ゲラルドにも話があったから、ついでにここも見ておこうかなって思って。

 それで来てみたら地下の地下があったって言うじゃない?何かお宝のような掘り出し物でもあるんじゃないかと気になっちゃって」

「な、なるほど」


 よかった。別に私に何かあるって訳じゃないのね。

 来たのは本当にたまたまで、単純に商売人としての好奇心に負けたと言う感じね。

 うん。その気持ちはよくわかる。

 でも、それで何でナーシャさんと一緒に??


「私は昨日のギルドでの件でエトさんに話があったからよ。それに今朝のメッセージの件もあったから、どうせだしちょっと覗きに来ようかと思って。

 それで来てみたら地下の地下があったって言うじゃない?元々この工房を管理していた立場の私としては、気にならないわけがないわよね。心踊る新たな発見もあるかも知れないし!」

「な、なるほど?」


 一応二人とも何かの用事があって、そのついでに来たみたいだけど、後半はどちらも私欲が垂れ流しだったような気がする。

 案外この二人は似た物同士なのかも知れない。


「それでエトさん。ギルドの話の前にちょっとこの部屋をいろいろ調べさせてもらってもいいかしら?こんな今まで発見されずに隠された空間とか、何だかすごい発見がありそうなのよ!」

「え、ま、まあ構わないですけど……」


 私はナーシャさんのいつもとはまた違った圧に気圧されながらそう答えると、それを見ていたステラさんからも、似たような圧で詰め寄られた。


「エトさん、私もいいかしら!ここにあるのはどれも数百年以上昔の物ばかりよ!きっと掘り出し物があるに違いないわ!何か見つかれば私が言い値で買い取るから!どうかしら!」

「え、あ、はい。えぇっと……ご自由にどうぞ」

「ありがとう、感謝するわ!ちょっとナーシャ、そこどきなさい」

「何言ってるのよ、今いい所なのよ!」


 ……何なのこの二人。

 似た物同士というか、まるで姉妹みたいだ。


 ナーシャさんは地面や棚の材質を調べながら、劣化具合がどうとか材質の補強具合がどうとか呟きながらいろんな場所をくまなく調べ、

 ステラさんは棚に置かれたものを次から次に物色しながらあちらこちら動き回り、度々ナーシャさんとぶつかっては、「邪魔よ」「そっちこそ」と低レベルな小競り合いを繰り返している。


 二人ともこのソレントでは有名人だし、いくらか繋がりはあるとは思ってたけど、こんなに仲が良いとは思わなかった。

 まあ、ほとんど喧嘩しかしてないけど。


 私はそんな二人を見ながら、隣にいたゲラルドさんにボソリと呟く。


「ねえ、何なのあれ」

「悪いな。商会でもたまに見かける光景だ。慣れてくれ」

「ええ……」


 ゲラルドさんのその返答に私が思わずそう声を漏らすと、ゲラルドさんは「気持ちはわかる」とつぶやき返した。


 まあ、あの二人の間に割って入るとかしたくないよね。


 しかし、あの謎の圧と力を持つナーシャさんに、ステラさんがここまで強く出られるなんて。

 でもまあ言われてみれば、大商会のトップであるステラさんも、謎の権力とか割と普通に持ってそうだし、ナーシャさん同様、ステラさんも敵に回しちゃいけない類の人なのかも知れない。

 うん、気をつけよう。


 そんなやり取りを私がゲラルドさんとしていると、棚の上の物を手当たり次第に物色していたステラさんが、私の方に視線を向けて、なにやら目を輝かせながらこちらの方へとやって来た。


「ねえ、エトさん。その手に持っている箱はなにかしら??もしかしてお宝!?」

「え?」


 ステラさんは私の持っていた箱が気になったようで、目を爛々とさせながらそうこちらに問いかけて来た。


「ああ、いや、なんか気になって手に取っただけだけで、でもまだ中身は——」

「それ、見せてもらっても良いかしら?!?!」

「え、あ、はい。どうぞ……」


 そう言って私は大人しくステラさんに箱を渡す。

 この圧に誰がNOと言えるだろうか。

 まあ、ただ何となくで持っていただけなので、別に誰が開けても問題ない。

 もしも何か珍しいものが入っていれば、どうせステラさんに見てもらう事になるだろうし。


「……ふむふむ。箱自体は至って普通の物のようね。中を開けて見ても?」

「はい。どうぞ」


 私は笑顔でそう答える。

 一応断りを入れる辺り、ステラさんの人の良さが伺える。

 ナーシャさんなら「開けても別に良いわよね?」って笑顔で圧を掛けられそうだし。

 でも、もしダメって言ったらどんな反応するんだろう。

 まあそんな事怖くてとても出来ないけど。

 お気の済むまでご自由にどうぞ。

 

「ありがと。さて、それじゃあ何が入っているのかしら。こう言うのってとってもドキドキしちゃうわよね。でも、きっとこの中身はお宝よ。私の直感が間違いないって言ってるもの」

「ちょっとステラ、そう言うのはいいからはやく開けなさいよ」


 すると、いつの間にかナーシャさんがステラさんの真後ろに立っており、ステラさんの肩口から覗き込むように顔を出して、急かすように催促の言葉を飛ばして来た。


「うるさいわね、黙って見てなさいよ」

「ほら、はやくはやく!」

「わかったわよ。じゃあ開けるわよ」


 そんな二人のじゃれ合いがまた始まるも、ステラさんは目を輝かせながら箱の留め具を慎重に外し、そしてゆっくりとその蓋を開ける。

 しかし、その中身を見たステラさんは動きをピタリと静止させ、そして小さく声を溢した。


「……空っ……ぽ?」


 どうやら箱の中には何も入っていなかったらしく、それを目の当たりにしたステラさんは目をパチクリとさせながら、まるで時がとまったかのように、動きを止めて固まってしまった。


 すると、その真後ろから顔を出して覗き込んでいたナーシャさんが、悪い顔でステラさんに言葉をかける。


「どうやらそのようね。何も入っていないただの箱ね。あら?あらあらあらあら??さっき言ってたお宝の直感とやらは何だったのかしらね?」

「……言ってないわ。気のせいでしょ」


 ステラさんはそう言うと、さっさと私に箱を返して棚の物色に戻って行った。

 そんなステラさんにナーシャさんはピッタリ後ろからついて行き、「言ったわよね」「言ってない」「わたし確かに聞いたもの」「じゃあそれ空耳ね。その耳大丈夫?」と、相変わらず低レベルな言い合いが始まり、喧嘩をしながら仲良くあちこちを物色していた。


「なんなのあれ。仲良すぎでしょ……」


 私はそんな二人を遠い目で見守りながらも、「そう言えば」と、返された箱に意識を戻した。


 ――この箱、何処かで見た覚えがあるんだけどなあ。


 私は心の中でそう呟きながら、一応自分でも中身を確認しておうと箱の蓋に手をかけた。


「まあ、空っぽの中身を確認したってあまり意味は無さそうだけど……って、え?」


 するとその時、突然私の両腕が熱を持ち始め、箱を持つ手の甲にも、再びアザのようなものが現れた。


 さっきの金床を動かした時と同じ感じだ。

 感覚が研ぎ澄まされるような覚醒感と、熱を帯びる両腕とアザ、そして断片的に思い出される夢の光景が、無性に何かを予感させた。


「一体……何が……え?あ、ぐあああぁっ!!」


 その瞬間、両腕の熱が急激に温度を上げ、まるで燃えているかのような灼熱の感覚に襲われ、そしてそれは、そのまま全身へと広がって行った。


「ぐっ……あああっ、な、なに、これっっっ……うぐっ!!」


 私はたまらず膝をつき、その場で崩れ落ちるのをなんとか気力で耐え忍ぶが、しかし、全身の灼熱はまるで収まる気配はなく、やがて身体を動かす事もままならなくなってゆき、遂にはそのまま悶えながら、地面に倒れ込んでしまった。


「お、おい嬢ちゃん!?どうした!?!しっかりしろ!!」

「エトさん!?!?」

「え?!?!ちょっと、何があったのゲラルド!!」


 そんな私を見て驚き叫ぶ三人の声も、次第に聞き取れなくなって行き、私は空っぽの箱を抱えてうずくまりながら、徐々に意識を途切れさせる。

 そして、そんな今にも手放しそうな意識の中で、とある景色が映し出された。


 こ……これ……は……。


 何処かで見た、私の知らない不思議な景色。

 そこには私の姿があり、そしてその私の目の前には、一人の男が立っていた。


 だれ?

 その男……私は何処かで……

 確か……


「……ギルド……ラン……?」


その男は言う。


『私の力を君に預ける』


 あ……。


 その瞬間、全身を駆け巡っていた灼熱が身体の中心に集まりだし、そして、“ドクン”と大きく私の鼓動が跳ね打たれると、同時にその熱は、つゆのようにと消えていった。


 そしてその直後、私の中で何かが“カチリ”と音を立てた。


「え……、こ、これって……」


 この感覚は、まるであの時と同じ……それってまさか……


「お、おい!嬢ちゃん!!大丈夫か!!しっかりしろ!!」



 ――そして私は、そのまま意識を手放した。




読んでいただきありがとうございます。

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