閑話・女子会
前回で第1章が終わり、後日談の話で書き始めたものの悪ノリが過ぎてしまったので閑話として投稿です。
楽しんでいただければ幸いです。
エトが束の間の安眠を過ごしていたその頃。
エトの宿泊している宿屋とは別の宿屋の一室では、何故か女子会と言う名の酒宴のようなものが行われていた。
そのメンバーは、桃源郷ハーレム要員であるアラン、エイナ、サラの女子3人と、それに無理やり連れてこられたマチルダ。そして、これまた何故かその会場にさせられたその部屋主のマリンの計5名。
彼女達は、途中で買い込んで来た大量の酒とおつまみをそこら中に広げて、各々好き勝手に盛り上がり始めていた。
◆
「それでマチルダさん!実際のところどうなの!?エルヴィンは私のだからあげないわよ!」
「だからいらんと言ってるだろうが。アラン、お前は少し飲み過ぎだぞ」
私の部屋で飲み始めてまだ30分も経っていないというのに、早くもすっかり出来上がって、マチルダさんに絡み酒を始めてしまったアランさん。
そんなアランさんに、マチルダさんは心底めんどくさそうな顔をしながらも、律儀に相手をしてあげていた。
「はあ??いらないってどういう事よ!エルヴィンはすっごくすっごくいい男なのよ!!具体的にどこが良い男なのかって言うとね」
「ああ、もう、わかったから。何度目だその話は。おいちょっとサラとエイナ、この酔っぱらいをどうにかしてくれ」
ここまで根気強く相手をしていたマチルダさんも、流石にそろそろ限界らしく、アランさんと同じパーティーメンバーのサラさんとエイナさんに、とうとう助けを求めはじめた。
「ねえねえ、このお酒美味しいわよ。サラも飲んでみなさいよ」
「うむ。美味。こっちのおつまみもなかなかイケる。多分エイナの好きな味」
「あら、ほんと?じゃあ一ついただくわ」
しかしエイナさんとサラさんは、そんなアランさんの酒癖の悪さを知っていたのか、全力でスルーを決め込む方向でマイペースにお酒を楽しんでいた。
そしてそんな二人に気を止めることもなく、アランさんはマチルダさんへのダル絡みを、より一層エスカレートさせていた。
「ちょっと、チルちゃん!!私の話を聞いてるの!ねえ!」
「わかったわかった、聞いてるから……って、ちょっと待て。そのチルちゃんと言うのは誰のことだ? まさかとは思うが、私の事じゃないだろうな!? やめろ、そんな恥ずかしい呼び方は!私の名前はマチルダだ!!」
「ええー。可愛いのにー。チルちゃん。マリンさんもそう思うでしょー?ねー?」
「え?あー、えっと……』
いや、いきなり私に振られても。
出来れば私を巻き込まないでください。
◆
――そしてそれから数時間後。
「ううーん、ムニャムニャ……」
アランさんは何故かマチルダさんの膝の上で、気持ちよさそうに寝息を立てて終了していた。
「やれやれ、酷い目にあった……」
「お疲れ様です、マチルダさん」
私はそんなマチルダさんに労いの言葉を一つかけ、水の入ったグラスをそっと差し出す。
「ん?ああ、すまないな」
「いえ」
マチルダさんは私からそのグラスを受け取ると、それをぐいっと一気に飲み干し、そして大きく息をついた。
「ふう。思いのほか私も随分と飲み過ぎていたようだ。こんな事は久しぶりだな」
「そうなんですか? じゃあきっと、今日はとても楽しいお酒を飲めたって事ですね」
私がそんな言葉をマチルダさんに返すと、マチルダさんは私の顔を見ながらキョトンとし、そしてゆっくり辺りを見渡して、ハハっと小さく呟いた。
「なるほど。そうかも知れないな」
「はい」
テーブルの上には何本ものお酒の空き瓶やおつまみの残骸が散らばり、その奥ではサラさんとエイナさんが仲良く頭を合わせながら眠っている。
そしてアランさんは相変わらずマチルダさんの膝の上で、ムニャムニャと寝言を言いながら幸せそうに眠っていた。
「まったくコイツらは。半ば強引にこんな飲み会を開いておいて……流石に自由過ぎるだろ」
「あはは。まあ、冒険者やってる人なんて、みんなそんなものですよ。むしろこのくらいは可愛いもんです」
「そうなのか?? ああ、そう言えばマリンは昔、ギルドで働いていたのだったか」
そう。私が魔力欠乏症で動けなくなる以前は、サフィアの留守中によく冒険者ギルドの手伝いをさせてもらっていた。
なので、ギルドや冒険者の事については、人より少し詳しかったりする。
「はい。とは言ってもお手伝い程度ですけどね。でもまさか、自分がその冒険者になるとは思わなかったですけど」
「それだ。私も驚いたぞ」
マチルダさん曰く、今日の午前中にエトさんからパーティー勧誘のメッセージがデバイスに届いていたらしく、そこには私もパーティーのメンバーである事が書かれていたらしい。
ただ、そこにはトコちゃんの名前もあったので、私もそれと同じオマケの同行メンバーだと思っていたようで、本当に冒険者になっているとは思っていなかったらしい。
「確かにあの付与術を見る限り、冒険者としての素質はあるのだろうが、だからと言って別に冒険者にらならないといけないというわけでもないんだぞ?」
「はい、わかってます。でも、私も冒険者には少し憧れていましたので」
それでも、以前までの私ならとても冒険者になろうとは考えなかったが、でも、私に付与術の才能があるとわかった瞬間から、その思いがとても強くなっていった。
もし冒険者になれば、私が今までやりたかったいろんな事が気が済むまで出来るかも知れないと、そう思ったからだ。
「そうなのか?なら別に構いはしないんだが。しかし、マリンが冒険者になるなんて、あのサフィアがよくそんなのを許したな」
「はい。私も反対されるかと思ったんですけど、上目遣いにあざとくお願いしたら一発でした。うちの兄は割とチョロいので」
「そ、そうか……」
そう言って苦笑いの表情を浮かべるマチルダさん。
そして「あんまり無茶を言ってやるなよ」とそう言って、また一つ、苦笑いを浮かべて小さく笑った。
大丈夫ですよ。こう言うのはサフィア相手にしかやらないので。
「でも、いくつか条件は付けられましたけどね」
「ほう?条件??」
そう。マチルダさんが言うように、私に対しては“超“が付くほど心配性なあのサフィアが、素直に私を放任するはずがあるわけも無く、私は冒険者登録の前に幾つかの条件を出されていた。
「はい。まずは絶対に無理をしない事と言うのは大前提で、」
「それは、そうだな」
「そして、必ずパーティーを組んで、ソロでは活動しない事」
「なるほど。少し心配し過ぎな感もあるが、まあ、わかるか」
「それから、知らない人とはパーティーを組まない事」
「うーん……、もはや冒険とは何なのかとも思えて来るが、まあ、気持ちはわからなくもない」
「あと、エルヴィンさんには極力近づかない事。だそうです」
「うむ。それはとても大事な事だな」
マチルダさんはそう言うと、ウンウンと大きく二つ頷いた。
どうやらこれは、過保護には当たらないらしい。
むしろ大事な事とまで言われてしまった。
マチルダさんにそこまで言わせるエルヴィンさんて一体……。
私には普通の冒険者にしか見えないんだけど。
「エルヴィンさんて、そんなにもなんですか?」
「ああ。そんなにもだな。別に軟派なわけでは無いが、普通にタラシだ。恐らくあの常時発動型の予見のせいもあるのだろうが」
「予見の??」
私はマチルダさんのその話に首を傾げる。
エルヴィンさんがタラシと呼ばれるその原因が、予見のせい?
確かに凄い能力だけど、それとどう関係が?
「たぶんエルヴィンとしても無意識なのだろうが、その能力のせいで良くも悪くも、その時に相手の求めている言葉や態度、反応を瞬時に理解して行動してしまうのだろう」
「ほう」
「そしてそれはエルヴィンの思惑とは関係なく、相手を気持ち良くさせてしまう。そしてそれが男女間ともなれば、いずれ好意や恋愛感情に発展してもおかしくない」
「なるほど……」
確かに、女性は答えよりも共感を求める生き物だというような事を聞いたことがある。
そう言う事なら、エルヴィンさんが女性にモテるのも納得できる。
「所詮、恋愛なんて言うものは、好みや相性というものも勿論あるが、大体は互いの思い込みと勘違いでしかないからな。それを無意識に上手くやれてしまうのが、エルヴィンがタラシと言われる所以だ」
「凄いですね……」
「ん?まあ、確かに凄い能力ではあるな」
「いえ、マチルダさんがです」
「は?私が??」
「はい。今の分析とか、さすが“慈しみの愛剣姫”と言われるだけのことはあります!」
「ちょ!?どうしてその二つ名を!?!?」
これは思わぬ収穫です。
てっきりマチルダさんは、その硬派なイメージから恋愛とかにには疎い方かと思ってたのに、まさかこんな冷静な分析力や一家言を持っていたとは思わなかった。
やはりその二つ名は伊達じゃなかった!
「マチルダさん!そんなマチルダさんに一つ協力してもらいたいことがあるんですけど!!」
「な、なんだ突然?!?!」
私が身を乗り出しながら勢いよくそう言うと、マチルダさんは思わず驚き身体をびくりとのけぞらせた。
「私、兄とエトさんをどうにかくっ付けようと思ってるんです!どうか一緒に手伝って貰えませんか!!」
「……は? サフィアと……エトを???」
そう、私はエトさんとパーティーを組むにあたり、そんな目論みを考えていた。
今日の冒険前にもエトさんを連れてメイク道具も買い込んだし、着々とその目論みの準備は進めている。
マチルダさんはそんな私の突然の言葉に、あんぐりと口を開けながら目を丸くし、そして、まるで理解が追いつかないと言ったような表情をさせながら、右手に持っていた空のグラスを取り落とした。
「あうっ」
そのグラスはマチルダさんの膝の上でスヤスヤ眠るアランさんの額に直撃し、左右にバタバタと転がるように額を押さえて悶絶するが、マチルダさんはそんなアランさんにも気を留めず、私の顔を見つめながら、やがてコテンと首を傾げた。
「なぜ??」
「これは私なりの恩返しなんです」
「恩……返……し??」
「はい。サフィアは私の病気のせいで何年もの長い時間を無駄に過ごし、ほんの少しの幸せな時間すらも無かったんです。だから、こうやって私が元気になった今、今度は私がサフィアの為に、幸せな時間を作ってあげたいと思ったんです」
「……な、なるほど……??」
マチルダさんはそう言うと、惚けた顔でずっと私を見つめたまま動きを止め、そしてやがて、再び首を横に傾げた。
どうやら理解できなかったらしい。
「マチルダさん?」
「……あ、いや、すまん。大丈夫だ。ちゃんと話は聞いていた。そうか。マリンの気持ちは良くわかった。その想いも、情熱もな」
「それじゃあ!」
やっぱりマチルダさんだ。ちゃんとわかってくれていた。
きっとさっきの表情は、お酒を飲み過ぎてちょっと眠気が来ていただけに違いない。
「いや、だがしかしだなマリン。マリンが兄を思うその気持ちは理解したが、それで、なぜエトなんだ?恩返しというかむしろ、サフィアにとってはただの罰ゲームでしかないような気が……」
「え?」
「え?」
罰ゲーム??
どうしてそれが罰ゲーム??
マチルダさんのその言葉に私は思わず疑問の声を返すと、同じくマチルダさんも不思議そうな顔で、疑問の声を返して来た。
一体どういう事だろう?
エトさんはあんなに強くて優しくて、当のサフィアも私の事を預けてもいいと思えるくらいには信用している。
それに、サフィアの気持ちもエトさんはちゃんとわかってくれていて、そして何よりめちゃくちゃ可愛いあのエトさんなのに。
むしろサフィアには勿体無いと言うならまだしも、罰ゲーム扱いとは……。
は!?!? もしかして、嫉妬!?
まさか、マチルダさんはサフィアの事が……。
「だ、ダメですよ!サフィアはエトさんとくっつけるんだからマチルダさんにはあげませんよ!!」
「いらんわ!!というか、似たようなくだりをさっきもやったわ!!」
「そうですか。ならいいです」
まあ、違うというならそれでいいです。
サフィアが泥沼の三角関係に巻き込まれるとかごめんですし。
「じゃあ、手伝って貰えますか?」
「いや、だからどうして私が」
「あ、やっぱりマチルダさんはサフィアの事が……」
「違う!ああ、もうわかった、協力すれば良いのだろう」
「本当ですか!?ありがとうございます!!」
「まったく……」
やりました!
これでサフィアが軍の遠征から戻ってきたら、さっそく作戦実行です!
「で、どんな作戦で行けばいいですか?」
「……は?それを私が考えるのか??」
「え?違うんですか?今、協力するって」
「いや、それはそうだが……」
何やら困った様子のマチルダさん。
どうやらすぐには思い浮かばない模様。
大丈夫です。夜はまだまだ長いんですから、私はいつまでも待ちますよ。
そうして、私が目を輝かせながらマチルダさんの言葉を待っていると……。
「――随分と面白そうな話をしてるじゃない」
そんな言葉が、マチルダさんの膝の上から聞こえてきた。
「な!?」
「あ、アランさん!?」
するとアランさんはマチルダさんの膝の上からムクリとそのまま体を起こし、私を見つめてニヤリとした。
「私達も混ぜなさいよ」
アランさんはそう言ってパチリと一つウインクすると、その直後、テーブルを挟んだ向かい側から、また別の声が聞こえて来る。
「取り敢えず、やっぱり色仕掛けは鉄板よね」
「ええ。でも胸と色気はちょっと残念な感じだから、ここは強引にラッキースケベ的な展開に持っていくのが定石ね」
気付けば、仲良く床で眠っていたはずのサラさんとエイナさんも、何やらテーブルの上に紙を広げてあれこれと作戦を書き出していた。
そしてそのまま三人は、キャッキャうふふとこの日一番のいい笑顔で、すっかり大盛り上がりをし始めた。
「皆さん、ありがとうございます!!」
「いいのよ、大船に乗ったつもりで私達に任せなさい!」
「はい!!」
なんて頼もしい!
わかりました!ここで立てられた数々の作戦は、私が何としても実行まで持っていきます!
そして二人を、必ず幸せにして見せます!!
待っててね、二人とも!!
「いや、お、おい、お前たち少し落ち着け!!その船は本当に大丈夫なのか!?!?私はとても不安なのだが!?!?」
「大丈夫よ!たとえ嵐が来たって私達が沈まなせないわ!」
「そうね、それなら水着もありかも知れないわね!」
「いいわね!そしてそこで偶然ポロリと!!」
「はっ!!それ天才!!」
――かくして、この大作戦は今後多くのトラブルを生み出す事になるのだが、
それはまた、別の話。
読んでいただきありがとうございます。
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