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カジxトコ 〜赤猫の鍛治師〜  作者: なな/おたふくろ
第1章
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第百話 長い一日の終わり

 ナーシャさんのおかげでようやく解放された私達は、彼女の案内のもと、マチルダとマリン、そしてエルヴィンのパーティー達と共に今までいた地下の牢獄からいつものギルド受付のフロアに向かって歩いていた。


「ごめんなさいねエトさん。うちのギルマスがすっかり迷惑をかけたみたいで。後でこってり叱っておくから」

「い、いえ、お気になさらず……」


 その道中、ナーシャさんは優しい笑みを浮かべながら、私達に色々と声をかけてくれていたが、私は彼女に謎の圧を感じ取り、必死に作り笑いを浮かべていた。


 なんなの、ギルマスを叱る受付嬢って……。

 たしか生産者ギルドのギルマスのポドルさんに対しても、だいたい似たような感じだったし……。

 なんかナーシャさんの立ち位置、だいぶバグってやいませんか?


 そんな事を考えながら進んで行くと、私達はようやく見慣れた受付フロアに到着した。


「お疲れ様。そっちの話は大体聞いたし、あとはこっちでやっておくわ。あなた達は受付で依頼の報告を済ませたら、そのまま帰って構わないわよ。まあ、とは言っても、後日にまた改めて、神威の話を聞かせてもらう事になるでしょうけど」

「うん。わかった。ありがと」

「あ、でもあと最後に一つだけいいかしら」

「ん?」


 ナーシャはそう言うと、体を私の方からマチルダの方へと向き直した。


「たしかマチルダさんと言ったかしら。あなたにも冤罪やら何やらで随分と迷惑をかけたわね。結局あの大剣も、あなたから没収する様な形になってしまったし」

「いや、知らなかったとは言え騒ぎのきっかけを作ってしまったのは私だからな。気にしないでくれ」


 ナーシャの言葉にそう答えるマチルダ。

 あの大剣は威力もあってそれなりに気に入っていた剣だろうに、文句も言わずに返すとは、やはりマチルダはとても真面目で出来た人だ。


「そう、ありがとう。でも良かったわ。もし渋られたりでもしていたら、ギルドの不思議な力で冤罪が冤罪じゃなくなっていたかも知れないもの」

「あはは、何だそれは。また面白い事を。ギルドがそんな事をするわけが無いじゃないか」

「……ええ、そうね」


 マチルダさん!逃げて!たぶんそれ、そんなに面白い話じゃ無いよ!!

 その笑顔に騙されちゃダメだよ!!


「あと、エトさん」

「は、はい」


 私が心の中でマチルダに危険のシグナルを発していると、急にナーシャさんの矛先がこちらの方へと向いて来た。


 ナーシャは私にニコリとひとつ微笑みかけて、顔を私の耳元まで近づけて来た。


「あの大剣。あの日、あなたがギルドに来た前日に落ちて来た、巨大な紅翼竜の額に刺さっていたものよ。あんな竜を一撃で倒せるような凄い大剣、一体誰が作ったものなのかしらね」

「……」


 そしてナーシャは私の耳元から顔を戻し、再びニコリと微笑んだ。


「それじゃ、お疲れ様。またいつでも生産者ギルドに遊びにいらっしゃい。いつでも待っているわ。明日でも」

「は、はい。明日行きます……」


 それ、遠回しでも何でも無い、ただの召喚命令だよね……。

 心の底から凄く行きたく無いです……。


 そうして私達は、マリンとエルヴィンの依頼報告をサクッと済ませ、そしてようやく、帰路に着く事ができたのだった。





「ふわぁ、疲れた。宿屋のベッドがこんなに気持ちいいとは思わなかったよ」


 あれから私達はギルドを出てすぐ解散し、私は寄り道もする事なく真っ直ぐ自分の宿屋の部屋に戻り、服もそのままベッドの上に倒れ込んだ。


「だいたい、今日一日で色々とイベントが起こりすぎでしょ。しかも、起きるだけ起きて何一つ解決してないし。そんな事あるぅ??もう、何から手をつければいいのかわかんないよ……」


 私はそんな事をぼやきながら、これからやらなきゃいけない事を改めて頭の中で整理していく。


「で、何はともあれ、まずはやっぱりあれからだよね……」


 色々とやる事はあるものの、まず、最初にやらなきゃいけない事は考える前から決まっていた。


 私を庇って粉々になってしまった、トコの修理だ。


「でも、あんなバラバラな状態からどうやって直したものか……」


 私はそう呟きながら、腰のポーチに手を当てる。

 そこには確かにトコの気配を感じるが、まるで眠っているかのようにとても静かだ。

 トコは基本的に口数も少なく、普段から静かではあるのだが、そう言うのとは少し違う。

 たまに出てくる毒舌が聞けないのも、今となっては物足りない。

 あの地下工房だって、私一人じゃ持て余しちゃうよ。


「どうにかして絶対に元に戻してあげるからね。なんたって私は神級鍛治師なんだから。だからもう少しだけ、そこでのんびり待ってなさい」


 とりあえず、当面はトコの修理方法を模索しながら、他の問題について進めていこう。


 なら、次にやる事はゲラルドさんの大工道具の具合の確認かな。

 トコの修理のヒントになることもあるかもだし。

 それに、地下工房のリフォームの進捗も確認したいし。


 それから、マチルダさんの左腕に関してもなんとかしたい。

 エリクサーではダメだったけど、何か方法があるかもしれない。

 その方法を探している間の一時的な対処としてなら、一応やれる事は思いつてる。


 あとは、マリンのレベル上げもあったっけ。

 取り敢えずはそのマチルダさんにも声をかけて、パーティを結成させるところからかな。

 流石に片腕じゃソロは厳しいはずだし、女性のみのパーティーならば嫌とは言うまい。

 私としても、やっぱり私一人じゃあのマリンは手に余るし。


 まあ、取り急ぎやることといえばそんなところか。


 でも実際はその他に、カラミティの企みによる魔王絡みの一件やら、そのカラミティの意識を乗っ取っていた謎の存在についてとか。

 あとは、実はその正体が元NPCであり、神威でもあったガーネットのあれやこれや。

 特に、そこで知った私の帰還に関わりそうな裏クエストの事とかもあるっちゃあるけど、この辺はもう、色々とごちゃごちゃしすぎてよくわからない。


 取り敢えずその辺りの事は、喫緊のあれやこれやが済んでからだ。


「うん。いい感じに整理できたぞ」


 まあ、後半部分の一番面倒そうな問題やらを、ただ単にまとめて後回しにしただけなんだけれども。

 だって今までの感じからして、どうせ望まずとも向こうからやってくるだろうし……。


「じゃあ、今日はもうさっさと寝て、明日からまた頑張りましょうか」


 そうして私は目を閉じて、毛布にくるまり眠りに付いた。


 徐々に意識が薄れていく中、地下工房の寝室にはいいベッドを設置しよう、と考えながら。


 それは、翌朝ナーシャに呼ばれていた事を思い出すまでの、ひとときの安らかな眠りだった。




読んでいただきありがとうございます。


章の区切りの関係で今回は少し短かったですが、この章でようやく物語の核心に少し触れて、エトの具体的な目的が見えてきました。(遅いとか言っちゃダメ)

次の章からはどんどん物語が動いていく予定です。


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