第九十九話 囚われのマチルダ
このアークライト大陸にある三大国のうちの一つ、ヴァルシーザ王国。
城塞都市ソレントは、そのヴァルシーザ王国の中でも魔族領に面しており、そこに多くの冒険者が集まることで急激に発展した、とても大きな都市の一つだ。
そんなソレントの中心にある冒険者ギルドの近くに、ある日、巨大な紅翼竜が、遥か上空から墜落して来た。
その事件にソレント中は大騒ぎとなったが、さすがにそこは冒険者の街と言うべきか、すぐに冒険者ギルドから被災地復興のクエストが多数発布され、それらを受けた多くの冒険者達の働きの甲斐もあって、ソレントはあっという間に元の街の姿に戻りつつあった。
むしろ、復興クエストによって多くの報酬を得た冒険者達により、今のソレントはこれまで以上に好景気となっている程だった。
ちなみに、その復興クエストは冒険者ギルドが依頼主という形で発布されており、その報酬は全てギルド負担となっていたが、国と各職業ギルドとの話し合いの結果、冒険者ギルドが紅翼竜を引き取り、冒険者への報酬はその紅翼竜の素材の売却益から出されると言う事になっていた。
◆
「てな訳でだな、ギルドは今、色々と忙しい訳だ。素材の売却も、あのランクの素材ともなると競売にかけたり何なりで、すぐに現金化される訳でもないからな。一時的に自転車操業みたいな感じになってるわけだ」
「……おい、ギルマス。これは一体何の真似だ。いきなり私を捕えてこんな所に放り込んで、それでそんな訳のわからん話を」
私は今、目の前のギルマスに訳もわからず捕らえられ、問答無用で牢屋へ放り込まれた後、鉄格子の向こう側から一方的によくわからない話を聞かされていた。
「いいから黙って聞いてろ」
「そうは言うが……」
まったく何だと言うんだ。その竜の一件はソレントに住む者ならば、もちろん誰でも知っている話だが、そんなギルドの金のやりくりの苦労話など、私に話されても知らん。
そもそも私がなぜこんな牢屋なんかに放り込まれなければならないんだ??
私が一体何をやったと言うんだ。
「で、そのクエスト報酬のためと言う条件で引き取ったのは、実は紅翼竜だけではなくてだな」
「……はぁ」
「その竜の額には一本の大剣が刺さっていて、そいつがかなりのレア物らしくてな。国がそれを国宝扱いで高額で買い取ることになっていたんだ」
「そ、そうか。それは凄いな……」
なんだ?だからなんなんだ??
結局、ギルマスは私に何が言いたいんだ。
いや、そう言えば、ギルマスは私の持っていた大剣をやたらと気にしていたような気がする。
もしかして、私の持っていた大剣がそれと何か関係があると言うのか??
例えばその剣は何か訳ありで、私の持っていた剣がそれに似ていたとか、そんな感じか??
と言う事はやはり、私が捕まったのはそれと何か関係があったと言う事なのだろうか??
「で、その国宝級の大剣が今朝、ギルドから盗まれてしまってな」
「……盗まれ……は?」
「盗んだのはあの悪名高い盗賊集団。“神威“の奴らだ」
「!?!? 」
神威、だと!?
神威って……あの神威の事か?
噂に聞く話によれば、その手口はとても狡猾で、どれだけ厳重に警備していようと関係なく、それこそ王族の中でもごく一部しか知らないような隠し通路を使わないと行けない場所にでさえ、神威は突然現れ、一瞬にして目当ての物を盗み去って行くと言う話や、
時には百人を超える警備部隊をもたった数人で全滅させ、その圧倒的な戦闘力で奪い去って行ったとか言う逸話も聞いたことがある。
流石にどれもデタラメ過ぎて、もはや誰かの作り話か何かだと思っていたが、しかし、このギルマスの様子を見るからに、それはただの噂ではないのだろう。
確かにそんな国宝級の大剣を盗もうとか考えるような、頭のオカシイ奴がいるとすれば、神威くらいしか考えられんが……。
だがその話が、今の私と何の関係あると言うのだ。
「で、ついさっき、お前さんが持っていたあの大剣が、まさしくその盗まれた大剣そのものだったと確認された訳だが」
「……は??」
いやいや、ちょっと待て、え? え?
あの大剣が、神威の盗んだその大剣??
は?? そんなわけが、え?え?
「ちっ、まさか冒険者の中に神威の一味が混ざり込んでいたとはな」
「……な!? ま、まて!それはどう言う意味だ!!まさか私がその神威だとでも言うつもりか!!いや、私は知らんぞ!!」
どう言う事だ!展開がいきなり過ぎてさっぱり意味がわからないんだが!?!
どうしてそう言うことになる?!?!
なぜ私が疑われている!?!?
私が神威なわけがないじゃないか!!
「ふん、隠しもせずに堂々とひけらかしながらギルドの中にまで入って来ておいてよく言う。俺たちギルドも随分と舐められたもんだな」
「いや、だから人の話を聞け!!私は知らんと言ってるだろうが!!だいたいあの剣は、」
「言い訳は聞かん。まあ、罪人は大体決まって知らんと言うもんだが、聞くだけ時間の無駄なだけだ」
「いや、だから違うと!!」
このギルマスめ、どれだけ頭が硬いんだ!
もし仮に私が神威だったとしても、わざわざそんな馬鹿な事をするわけが無いし、そもそも、本当に神威ならこんなにあっさりと捕まったりするわけが無いじゃないか!!
大体、あの剣がもともと私のもので無い事は他のみんなも……あ!
「そうだ!!一緒に来ていたマリンとエルヴィン達を呼んでくれ!!きっと誤解が解けるはずだ!!」
「ああん?なんだ、アイツらも神威の一味か?いや、流石にそれは無理があるだろう」
「どうしてそうなる?!?!あんたはアホか!!取り敢えずその思い込みを一旦捨てて私の話を聞いてくれ!!」
「あ?誰がアホじゃコラ」
◆
そうしてお互い何度も声を荒げながら、私はギルマスとの不毛なバトルを最後までなんとか乗り切り、ようやくマリンとエルヴィン達との立ち合いにまで漕ぎ付けた。
奥の入り口からマリンとエルヴィン達が入って来るのを見て、私は思わず両手を広げ、そして安堵の表情を浮かべた。
「マチルダさん!!」
「おお、マリン!」
「マチルダさん、神威だったんですか!?!?」
「違う!!!!!」
「え!?」
え!?じゃないよ、え!?じゃ。
何を真面目に驚いている。
マリンは私の事を一体何だと思っているんだ?
ついついギルマスを相手にしていた時の流れで思わず叫んでしまったじゃないか。
「まあまあ、落ち着けってマチルダ。今のはマリンの軽いジョークだ。俺達はちゃんと分かってるから」
「おお、エルヴィン。そう言ってもらえるとありがたい。何だかずっと面倒事に巻き込んでいるようですまないな」
「いいって、気にすんな」
やはりパーティのリーダーを張っているだけあっ、てエルヴィンの対応にはどこか安心感すら感じられる。
だがエルヴィンよ、あのマリンの発言はたぶん素の言葉だ。
見てみろ、マリンの「え?違うの?」と言う表情を。
素直すぎるのもあそこまで行くといかがなものか。
「で、さっきギルマスからも軽く話は聞いたけど、マチルダの持ってた剣が、神威の盗んだやつなんだって?」
「らしいな。その剣をくれたガーネットからもそんな話は聞いていないし、奴こそそんな剣をどこで手に入れたんだか」
「あー、うん。まあ、そうだな」
私の答えに、何故か微妙な顔をするエルヴィン。
その後ろのハーレムメンバー達も、揃って似たような表情を浮かべていた。
ちなみに、マリンは相変わらずキョトンとしている。
「ん?みんなどうした?」
「いや、それってどう考えても……」
私の疑問の問いかけに、エルヴィンが何やら困った顔をしていると、その話を聞いていたギルマスが少し驚いた顔をしながら話の間に割り込んで来た。
「お、おいお前、あの剣を貰ったと言うのはどう言う事だ!?俺はそんな話聞いてないぞ!!」
「どうも何も、私は何度も言おうとしたが、まるで聞く耳を持たなかったではないか」
「ぐっ!?」
私のその返答に、ギルマスは一瞬苦い顔をして少しのけ反ると、その直後、顔を真っ赤に染め上げながら徐々に怒りの表情へと変化させた。
そして、そのまま堰を切ったように叫び始めた。
「う、う、うるさい!!だったら今言え!どう言う事だ!言え!ほら言え!!」
「ちょ、ちょっと……」
な、なんなんだこの人は、煽り耐性なさすぎだろ。
いきなり怒鳴り散らすとか大人気ないにも程がある。
だからあれほど話を聞けと、何度も言っていたと言うのに……。
冒険者ギルドのギルマスがこんなので大丈夫なのか?
「ほら、どうした!早く言わんか!!まさかそいつは神威と繋がりのある奴じゃ無いだろうな!!」
「いや、だから、」
「そうだ、ああ、そうに違いない!!あの剣を持っていたと言う事は、もしかしてそいつは知っているんじゃないのか!?」
「ちょっと、少し落ち着いて……」
「神威について!特にあの、リーダー格である白い仮面を付けた男の事を!!」
「いや、だから……って、え?」
ギルマスのその言葉に、私は思わず言葉を失う。
白い仮面!?
白い仮面って、それって、まさか……。
「……おい、お前。やはり何か知っているんだな!?」
「いや、そんな……。まさかあの男が……あのガーネットが、神威のリーダー!?」
思いもよらない展開に、私は唖然としながらも必死に頭を回転させる。
確かに、客観的に状況を並べて考えれば、それ以外に説明がつかない。
「やはり心当たりがあるようだな。そのガーネットと言う男は今どこにいる」
「え?ああ……、別れてから少し時間が経っているので今もそこに居るかは分からないが、もしかすると、まだエトと二人で何か話をしているかも……」
「はぁ?エト!?」
私の答えに、ギルマスは何故か驚きの表情を見せ、そして数秒動きを止めると、やがて小さくひとりごちた。
「――なるほど、エトか。随分色々と不思議な奴だと思っていたが……」
「ギルマス?」
「そうか!!そう言う事か!!奴こそ神威の一味だったか!!」
「ギルマス!?!?」
と、その瞬間。
エルヴィン達の後ろのドアが、突然勢いよく開けられ、そこから聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「すみません!!ここにマチルダさんがいるって聞いてきたんですけど……って、あ、いた!!!マチルダさん!!」
「……!?!? エト!?」
そこにいたのは、今の話の渦中の人物。エトの姿がそこにあった。
私やギルマス、他のみんなもそれぞれが、あまりの展開に何も言えず、ほんの一瞬、静寂がその場を支配した。
「なんか捕らえられたとか聞いて急いで来たけど……って、え、あれ? 何この空気……」
エトは戸惑い、辺りをキョロキョロと見渡すが、そこにあるのは思わず頭を抱える私達と、そして、とても悪い顔をしているギルマスだった。
「ほう。自分から出向いて来るとは手間が省けた。ここまで来て、逃げられるとは思うなよ」
「え?何!?何の話!?!?」
「問答無用!!」
その瞬間、ギルマスはエトの方へと瞬時に駆け出し、そのままエトを捕縛しようと右腕を前に突き出した。
「ちょ、待って!」
しかしエトは瞬時に飛び退き、それでも距離を詰めて来るギルマスに対して瞬時に自分の姿勢を落とし、そのまま素早くギルマスの股の間をくぐり抜けた。
「ちょっと、いきなり何なの!!」
「くそっ!ちょこまかと逃げ回りよって!その身体能力、流石は神威と言う事か!」
「いや、だから何の話よ!」
「まだとぼけるか!!」
そしてギルマスは再びエトに向かって飛び掛かるが、やはりエトはそれを難なく躱していく。
うむ。やはりエトの素早さは大したものだ。
決してギルマスの動きが悪いと言うわけではなく、さすかギルマスと言うだけあって普通に高ランク冒険者並みの動きだと言うのに、エトはこんな狭い中でも、まるで難無くいなしている。
「ね、ねえちょっとエルヴィン!そこで見てないでこれ何とかしてよ!!」
「いや、無理だろ……」
エルヴィンはエトの叫びに困惑の表情でそう答えた。
まあ、そりゃあそうだろう。
別に、実力的に無理かどうかと言う話ではない。
こんな牢獄の前のただの通路で、いきなり高速で暴れだした二人の間にどうやって割って入れと言うのか。
そもそも入れたところで、どうせ止められるとも思えない。
もういっその事、エトがギルマスを倒してしまえばいいのでは??
と、この状況にいい加減馬鹿馬鹿しさを感じ始め、脱力しながらそんな事を考えていると、
「あなた達!一体何を騒いているの!!」
と、入り口の方向から突然そんな怒声が聞こえてきた。
その声にエトとギルマスは動きを止めて、その声の方へと振り返ると、二人揃って瞬時に驚愕の表情を顔に浮かべた。
「ナーシャ、さん!?」
「な、ナーシャ……」
そこにいたのは生産者ギルドの受付嬢、ナーシャだった。
私は彼女とはそれほど面識は無いのだが、エト曰く、“絶対に敵に回しちゃダメな人“と聞いていたので一方的に知っている。
なるほど。二人の表情からそれは確かに本当のようだ。
「一体何の騒ぎなのこれは!!説明しなさい!!」
「は、はい……」
「……」
かくして、このナーシャの登場により、今までのグダグダがまるで嘘かのように、あっさりと私達の誤解は解消され、そして私達はようやく訳のわからないいざこざから解放された。
読んでいただきありがとうございます。
よければ評価とブックマークをお願いします!
まだの方は是非、ポチっとお願いします!!
なにとぞ!!




