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カジxトコ 〜赤猫の鍛治師〜  作者: なな/おたふくろ
第1章
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第九十八話 マチルダの受難

 時間は少し遡り、マチルダ達が洞窟を出て少しの頃。

 気を失っているマチルダの父親達を運びながら、一行は彼らの仕事場の詰め所の方へと向かっていた。


「みんな、手間を掛けさせてすまないな」

「いやいや、気にするな。こう言うのは助け合いだ」


 マチルダの言葉に、エルヴィンは少し微笑みそう答える。

 その微笑みは、マチルダに負い目を感じさせまいと言うエルヴィンなりの気遣いからの仕草であり、彼の心根の優しさの証拠でもあった。

 それはマチルダも理解しており、そんなエルヴィンの気遣いに応えるように彼女も不器用ながら笑顔を作り、小さく微笑みを返していた。

 しかし、それを見ていたエルヴィンのパーティメンバー達にとっては、それはある種の脅威だった。


「ちょっとエルヴィン、どさくさに紛れて何を堂々とナンパしてんのよ!!ぶっとばすわよ!!」

「え!?えええ??」

「そうよ!目を離したらすーぐに誰にでも色目を使うんだから!このスケベ!!」

「い、いや、スケ……あ、ちょっ」

「ほら、アンタはこっち。さっさと来る」

「ちょちょちよっ……」


 ただの親切心でマチルダに声をかけていただけのエルヴィンは、まるでいわれのない罵倒をサラとエイナに浴びせられた後、無理矢理アランによって集団の後方まで引きずるように連れて行かれた。

 そしてそこではアランによる、やや理不尽な説教を受けるエルヴィンが、必死に弁明しようとして、そして更に怒られ続けていた。


「なんかごめんなさいね、マチルダさん。うちのエルヴィンが節操無くて」

「いやいや、今のは私を気遣ってくれただけだろう。流石にあれは可哀想だと思うぞ?」


 横から声をかけて来た弓使いのサラにマチルダはそう答えると、少し後ろを振り返り、後方でアランに詰められているエルヴィンを見て苦笑した。


「いいのいいの。普段の行いのせいなんだし、あれは恒例行事みたいなもんだから」

「なるほど……。まあ確かに、彼は天然のタラシではあるようだからな。何と言うか、君らも大変だな」

「ええ、本当に。まあ、惚れた弱みって言うやつよね。で、その、それでマチルダさんは……」

「ん?……ああ」


 突然モジモジとしだすサラに、マチルダは一瞬首を傾げるが、すぐにその真意に思い当たり、小さくクスリと笑いながら優しくサラに返事をした。


「大丈夫だ。私にはそんな気は一切無いので安心してくれ。しかし、冒険者と言ってもやはり心は乙女なのだな。思いのほか可愛いらしいじゃないか。まあ、がんばれ」


 マチルダはサラに向かってそう言うと、笑顔で小さくウインクをした。


「は、はい。あううう」


 それを見たサラは顔を赤らめ、返事をしながら顔を伏せる。

 そしてそんな二人をすぐ後ろで見ていた魔術師のエイナも、釣られて頬を赤らめていた。

 どうやらマチルダもエルヴィンに負けず劣らず、なかなかに天然のタラシであった。

 


 それから歩いて数分後。

 石の板の上に乗せられたマチルダの父親達を、エイナが板ごと魔術で浮かせながら進んでいると、ようやく目的地である彼らの作業場に到着した。


「ようやく着いたか」


 すると、その作業場の詰め所の中から、数人の男達が勢いよく飛び出して来た。


「お、お嬢!!」

「おい、みんな!お嬢達が戻って来たぞ!!」

「何だ何だ!お嬢が戻って来たって!?」

「おお!マジか!!」

「よかった!無事だったか……って、お嬢!?どうしたその腕!!」

「なはっ!?何があったお嬢!!」

「お、お嬢ーーー!!」


 相変わらず騒々しい男達に、マチルダは少し苦笑いを浮かべつつも、どこか安堵した様子で微笑んだ。


「まあ落ち着けみんな。私の心配をしてくれるのは嬉しいが、私はこの通り至って元気だ。それよりも、誰か一人くらいこの親父達の方を心配してやってもいいんじゃないか?」


 マチルダの言葉に、男達は一瞬そちらに視線を向けるが、どうやら死んでいる訳でも大怪我を負っているようでもないと判断すると、すぐにまた、お嬢お嬢と再び騒ぎ始めてしまった。

 彼らにとっての優先順位はそんなレベルで揺るぎなかった。


「やれやれ、まったく……」


 そんなこんながありつつも、マチルダは男達を何とかなだめ、そのまま父親達を引き渡した。

 そして、男達が父親達を連れて行くのを見届けると、まるで一仕事を終えたかのように、大きなため息をひとつ吐いた。


「マチルダさん。お疲れ様です」

「ああ。ありがとうマリン。何だかカラミティとの戦いよりも疲れた感じだ」

「あはは……」


 そんなマリンの微妙な愛想笑いに、マチルダも同じく微妙な笑みを浮かべ返し、そしてそのまま、エルヴィンやシーラ達の方へと顔を向けた。

 

「みんなも、こんな所まで付き合わせてしまってすまなかった。それから改めて、救援に駆け付けてくれた事、本当に感謝する」


 マチルダは少しかしこまってそう言うと、エルヴィンは明るい口調で言葉を返す。


「気にすんなって。さっきも言ったが助け合いだろ。と言うか、俺達もアンタには一度助けられているからな。ほら、あの鉱山での巨大サソリの時に」

「……あ」

「な? だからお互い様だ」

「そうか。ありがとう」

 

 マチルダはそう言ってまた小さく頭を下げると、エルヴィンはやれやれと言った表情で肩を落とす。


「しかし、みんなはどうして洞窟に?確かに救援信号を出しはしたが、ここからソレントまでは届かないはずだが?まさか、またエトの非常識でも発動したか??ひょっとして、瞬間移動か??」


 取り敢えず不思議な事があれば、理由をエトにしておけば問題ない。そんな思考がマチルダの中で固まりつつあった。

 そんなマチルダに、マリンは苦笑いを浮かべながらそれに答える。


「いえ、私はたまたまエトさんとクエストに来ていて」

「クエスト?」

「はい。この辺で魔物が増えているとかで、その討伐に」

「ああ、なるほど。それでシーラやエルヴィン達と?」 


 そう言ってマチルダは、シーラとエルヴィンの方へと視線を向ける。


「私はマリンちゃんやエルヴィン達とは別件よ。たまたま王都に向かっていたら救援信号に気付いてね。結局、大した事はしてないけど」

「そうか。いや、とても助かった。ありがとう」

「いえいえ、どういたしまして」


 そう言いながら笑顔でマチルダに答えるシーラ。

 そしてそのままエルヴィンの方へと視線を向ける。


「ん?ああ。俺達の方は、確かにエト達と一緒に魔物の討伐はしていたが、厳密には別の依頼だな。簡単に言えばお目付役だ」

「お目付け役??」

「ああ。変な冒険者……じゃなくて無謀な駆け出し冒険者がいるから手助けして来いって、ギルドから無理矢理にな」

「……ああ、なるほど。貧乏クジという奴か」

「まあ。そう言う事だ」


 ここですんなり納得ができる辺り、マチルダの中でのエトの扱いは、だいぶアレな感じのようで、とは言え、別に迷惑という訳ではなく、むしろついつい世話を焼きたくなってしまう程には気の置けない存在となっていた。


「という事は、シーラ以外はこの後ギルドへ報告に向かうわけか」

「そうね、私も出来れば最後まで付き合ってあげたかったけど、用事があるからごめんなさいね」

「ああ。むしろここまで付き合わせて申し訳ない。この礼はいずれ」

「ええ。それじゃ」


 そう言ってマチルダ達の元から去っていくシーラ。

 それを見送り、マリンとエルヴィン達はギルドへ向かうことになったのだが、


「でも、エトさんがいないですけど?」

「そうだった」


 マリンの言葉に、エルヴィンはそう言って頭を抱える。

 マリンのクエストの方はともかく、エルヴィン達の依頼的には観察対象を放って行くのはよろしくない。

 

「ふむ……つい面白半分でエトを置いて来てしまったな。であれば、代わりに私が一緒にギルドに行って説明しよう。事の経緯は私から話した方がいいだろうし。まあ、みんなには今回も随分と助けられたので、このくらいはさせてもらわないとな」

「……そうか」


 そんなマチルダの発言に、マリンやエルヴィン達は心の中で、「でも、あそこにエトを置いて来たのはマチルダだよね??」と、そう呟いていた。


「では、行くか」


 そうしてマチルダ達は、冒険者ギルドへと向かって行った。



「で、着いたはいいが……、何だかやけに騒々しいな」


 マチルダ達は冒険者ギルドに到着し、マリン達の受けたクエストの報告をするためにギルドの中に入って行ったが、何やらギルド職員達が慌ただしく動き回り、少しピリピリとしている様子をマチルダは感じ取った。


 そんな反応をするマチルダに、マリンとエルヴィンは顔を合わせる。


「そうなんですか?エルヴィンさん。私が今朝来た時もこんな感じでしたよ?」

「んー、そうだな。確かに朝からこんな感じではあったが、言われてみればいつもに比べると騒々しいな。普段は見かけないギルマスまで居たくらいだし……ん?」


 エルヴィンはマリンにそう答えながら、自分達がそのギルマスに目をつけられて、半ば無理矢理にエト達の後を追わせられた事を思い出した。

 そしてその瞬間、予見の力が発動し、エルヴィンはとても嫌な予感を感じ取った。


「エルヴィンさん?」

「みんな、急いで一旦ここから出よう。何だかよくない事が起こりそうだ」

「え?」

「取り敢えず早く。マチルダも」

「あ、ああ、わかった」

「は、はい」


 そう言ってエルヴィン達がギルドの中から出ようとすると、突然、後ろの方から男の声で呼び止められた。


「おい、待てお前ら。戻って来たなら報告に来んか」

「……ギルマス」


 振り返るとそこにいたのは、エルヴィン達に無理矢理依頼を押し付けて来た、この冒険者ギルドのギルマスだった。

 エルヴィンはその姿を見て眉を顰める。


「なんだ。怖い顔をして」

「いや別に。ただ、何となく良くない事が起こりそうで」

「はあ?」


 エルヴィンの言葉にギルドマスターは一瞬不思議そうな表情を浮かべるが、すぐに何かを思い出し、そのまま言葉を続けて来た。


「ああ、それはお前の予見というやつか。予見も何も、既にこっちは朝から面倒ごとの真っ只中だ。まさかお前達まで面倒事を持って来たとか言わんだろうな」

「あー、どうかなぁ……」


 むしろ面倒事しか持って来ていないエルヴィンにとって、それはとても答えに困る問いかけだった。


「まあいい。それで、そっちの新米冒険者と一緒という事は、依頼の報告に来たんだろう?……ん?あの鍛治師の嬢ちゃんの方はどうした」

「いや、まあ、なんと言うか……」


 無駄に勢いのあるギルマスに終始押されっぱなしのエルヴィンは、困った様子で言葉を濁す。

 しかし、エルヴィンの嫌な予感は続いているので、さっさと立ち去りたいのだが、言って放してもらえる感じでもない。

 ならば手短かに報告を済ませて出て行こうにも、カラミティだの魔王だの、内容が内容だけにすぐに済むとも思えない。

 これはどうしたものかとエルヴィンが苦悩の表情で思いあぐねていると、そこに割り込むように、マチルダが声を挟んできた。


「それなら私の方から説明しよう」

「ん?お前は……」

「ランクA冒険者のマチルダだ。訳あって今回、彼らと共に行動させてもらっていた」

「おお、お前がマチルダか。確か今日からランクAの。ソロの女冒険者としては最速らしいな」

「そうか、それは光栄だな」


 マチルダは困っているエルヴィンを見て、少しでも優位に話を進められるよう、あえて名乗りに自分のランクを頭につけた。

 その甲斐もあって、空気は割といい感じだ。


「それで、そのお前さんが説明をすると言うのは……って、おい、お前の持っているそれは何だ」

「ん?それとは??この剣の事か?」


 マチルダはそう言って、ガーネットから貰った両手剣を片手で持ち上げ前に掲げた。


「それは……お前の武器か?両手剣使いとは聞いていないが」

「ん? まあ、そうだな。訳あって今はこれが私の武器だ。まだ使い慣れていないがな」

「……そうか。それと、その腕はどうした。隻腕だったとも聞いてないぞ」

「ああー。まあ、これも色々あってな」

「そうか……」


 ギルドマスターはそう言って少し無言になったあと、おもむろに自分の右腕を真上に突き上げ、そしてそのまま人差し指を突き出してマチルダの前に振り下ろした。


「お前ら!!コイツをすぐに捕縛しろ!!」

「え!?はあああぁ!?!?」






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ナニトゾ!!

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