番外編 母親の悩み
「はぁーーー、暇ねぇ」
私は久しぶりに感じる暇な時間にため息を吐いた。
「あの子たち、大丈夫かしら」
心配するのはもちろん私の子どもたちのこと。
辛く苦しい運命に立ち向かっている、強くて立派で、誇れる娘と息子のことを思う。
あの子たちと出会う前の私では考えられないでしょうね。こんなにも誰かを心配することなんて。
「んー、ペンダントもあるし無茶だけはしないで欲しいのだけど……。セイちゃんはそう簡単に使いそうもないわよねぇ」
気がつけば子どもたちのことばかり考えている。
なるほど、子を持つと世界が変わるというのは本当だったのね。あれこれと余計な心配ばかり、大変だわ。
けれど、何故か嫌な気分はしない。今までも守るべきものを護ってきたつもりだった。でも、心の底から護りたいと思えるのは……、やっぱりあの子たちのおかげかしら。
「さーて。たまには森の中を歩いてみようかしら」
背伸びをして、家の窓を開ける。涼しい風が澄んだ魔力を運んでくる。
「んーーーっ!!」
もう一度伸びをすれば、何やら元気が出てくるというもの。
「さて、どこまで行こうかしら……?」
窓から外に出て、いざ森の精霊たちと歩こうとした時、遠くからこちらへと向かってくる微かな気配を感じて空を見上げた。
その気配は、とてつもない速さで近づいてくる。
感じ取れたのは、猛烈な強者のもの。魔力、存在力、どちらも、適当な勇者より強力。
「……あら」
ほとんど真上までその気配を追った時、ふと懐かしさを覚えて立ち止まった。相手もそれに気が付いたのか、重力に身を任せて落下してくる。
「よぉミラ!何十年ぶりだ?変わってねぇなお前!」
「ディーノ……、何しに来たんです?というか、一体どこに行っていたのですか」
降ってきたのは昔の仲間。竜人族のディーノ。
数年前に一度だけ、仲間に連絡を取ろうとしたことがあったが、その時は何故かディーノだけ所在が不明で断念した覚えがある。
あの黙っていても騒がしい彼女が全くの痕跡なく消えたので、どこかでくたばったのかと思ったのですが……
「いやぁ、クソしょーもない敵の罠にハマっちまってな。長いこと封印されてたんだ。お前の息子に助けられてなきゃ、もう十年は覚悟してたぜ」
「セイちゃんたちに会ったの?!どこで?!いつ?!」
「お、落ち着け……。お前、母親になったってマジだったんだな」
「こ、コホン。そうよ、悪い?」
「いいや。昔の他人に無関心魔法バカより今の方が断然いい。しっかり育ててやれよ」
「わかってるわよ」
ディーノの話を聞いて少しだけ安心した。あの子たち、元気にやってるのね。
「それにしても、あなたが封印だなんて、一体どこで」
「エンダルキアだよ。雲しか見えねぇ雪山で何十年……、お前の息子にゃ感謝だ」
「エンダルキアっ?!どうしてそんなとこに」
あの山は並大抵の人は近寄りすらしない、真に危険な山。私だって出来れば立ち入りたくはない。
そんな場所になんで……?
「どうやら、俺の噂をどっかで聞いてきたみたいだ。ほら、あいつら能力について知りたいって」
「あ、あー。あなた、変な術使ってたわねそういえば」
「そういえばってひでぇな。お前だって俺の能力に助けられたこと、結構あっただろ!!」
「そんな昔の事、忘れてたわ」
正直、本当に忘れていた。
あの頃は、彼女が能力を使っていることに慣れすぎていて、それが当たり前だと思っていたから。今にして思えば、彼女から魔力の気配がしたことはなかったわね。
覚えていたら、あの子たちに危険な思いさせなくてすんだと言うのに。
「にしても、あいつらこの後大丈夫か?」
「大丈夫か……というのは?」
「いやな。ここに来る途中で気になったことを耳にしてよ」
「気になったこと?封印されてたのだから、そんなものいくらでもあるでしょうに」
「そうじゃなくてな、エルドベルに向かってるらしいじゃんか。どうやら、あの付近で最近"集団暴走"やら魔物の"巨大化"が頻発してるとか」
「なんですって?!」
集団暴走……?
それに巨大化なんて……。
どちらも数十年に一度あるかないかの現象なのに。
「…………お前も何か知ってるのか」
「ええ。ついこの間、セイちゃんたちが"魔物化"したセイレーンと戦ったの。この森にも狂人狼が出たわ」
「魔物化?!そんな同時にか?変な話だぜ」
集団暴走は、何年かに一度発生する、自然災害のようなもの。魔力が使用されず、濃くなりすぎた魔力の影響を受けて魔物がいっせいに凶暴化する。
巨大化も似たような原因、魔力の変化によって巨大化したり、突然変異が起こるもの。
同じ年に頻発するような現象では無い。少なくとも――
「それが自然に起きたものなら……ね」
私は黙って考え込む。
「お、おいおい。自然にって、それ以外に何があるんだよ。まさか、人為的に起こされたとでも言うのか?!」
「分からない。でも、可能性はある」
「んな馬鹿な…………」
ただの雑談程度の話のはずが、何やら不穏な空気へと変化する。もしもそれが人為的だとすれば、世界の危機レベルの問題。
「あくまで可能性の話よ。今の情報だけでは判断できないわ」
本当にただの偶然とも考えられる。限りなくゼロに近いけれど。
「調査する必要がありそうね」
確かめない訳にはいかない。
子どもたちのために。
「珍しくやる気だな。厄介事は好まないお前が」
「当たり前でしょう?家族が危険な目に合うかもしれないのよ」
命に変えてでも、護ってみせる。
「そうだな。……っし、俺も手伝うぜ!」
「はぁ?!……一体どんな風の吹き回し?」
「いいだろ別に。ちょうど泊まる場所がなくて困ってたんだ」
「あなた空でも寝れるでしょうっ!!」
「いいじゃんか、たまにはよー。久しぶりだってのにつれねぇぞー!」
「そういう鬱陶しいところが嫌いなのよ!」
どうも、深夜翔です。
最近、投稿頻度が低下気味です。
色々と別の作業に時間を取られていて、なかなかこちらの小説の執筆に手がつけられていない現状ですので…。
それでも、1週間に一度の投稿を目指して頑張ります。
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ではまた次回……さらば!




