世間は狭い
――俺は昔、邪神と戦ったことがある。
あの頃はまぁ、邪神が生み出した強力な魔物がうじゃうじゃと湧いていた。人類はそれを必死に食い止めつつ、邪神封印の機会をじっと待っていたんだ。
そんで何十年か経ったある時、不意にその好機が訪れた。魔法の知識では説明できない未知の能力を持った人間がこの世界に現れたから。
そいつらは南の大陸で生まれ、他国に知られることなくひっそりと邪神に対抗していた。
俺が能力を使えるのは……、話すと長くなるから割愛するが、簡単な話、その能力者に合って教えを乞いたからだ。能力を使う術を。
その後は、今で言う英雄だと呼ばれるパーティの一人として邪神と戦った。んで、何とか封印に成功したってわけだ。正直ギリギリの戦いだった。あのメンツでなければ、応戦するのも厳しかっただろうよ。
能力者に教えてもらった能力も、完璧に活かせたとは言い難いしな。やはり、完璧に使いこなすには能力の根幹をもっと知る必要があったみてぇだ。
つーわけで、これだけ溜めといてなんだが、能力が具体的に何なのかについては、俺様もよく知らねぇんだ。悪いな。
「んなとこだ。あんまし説明が得意じゃないが、伝わったか?」
彼女の短い話の中、僕ら一つ気になることがあった。
「…………その、少し質問しても?」
「ん?あぁ構わないぜ」
邪神との戦い。僕はその話を聞いたことがあった。
とても身近にいた人物の、まさに当事者である人物から。
「お名前……。もしかしてディーノさん、だったりしますか?」
「おっ、よく知ってるな。昔はそれなりに有名なパーティで暴れてたもんだから結構名前も売れてたが、まさかこの時代に俺の名前を知ってるやつがいるとは。俺様はディーノ。アストラ・ユリア・ディーノだ」
その名を聞いてはっきりとした。
彼女、ディーノさんは母様と同じパーティにいた英雄。つまり、母様と知り合いである、と。
「僕の方も、自己紹介しておきます。僕はセイタです。エリシア・カラルカ・セイタ……」
「な……に?」
「こちらは僕の妹、エリシア・カラルカ・コナツ。お会いできて嬉しいです。ディーノさん」
「お、お前ら……。あいつの子供だったのかっ?!いや、そんなことよりあいつが母親……?ぷはっ!!面白いことしてんじゃねぇよ!!」
ほとんど使うことの無いいわゆる『家名』。この世界に来て初めて口にした。何せ、この家名は人々に知られすぎている。不用意に発せば、騒ぎになること間違いないだろう。
「え、……えぇっ?!セイタって、英雄様の子ども?!けど、確かにこの加護の量は……。いやでも?あれ?」
――こんなふうに。
「あはは、あんまり言う機会がなかったから」
「あのバb……、師匠の家名なんて俺、初めて聞いたが?」
「それは、ずっと師匠って呼んでるからですよ。母様、一応初めましての時に家名まで名乗ったと言ってましたよ」
こちらの事情全てを知っているはずのアルゴートさんも、何故か微妙に驚いていた。驚くというより、聞き馴染みのない家名に違和感を感じただけか。
「はー、言われてみれば確かに、あの魔法の技術やら魔力の量は、普通の人間じゃ到底ありえない――ん?人間?」
ディーノさんが首を傾げ、僕の眼前まで迫る。
瞳の奥を覗かれ、背筋にゾワっとした鳥肌が立つ。なれない感覚には身体が過剰に反応してしまうらしい。
「そうだよ!!セイタって精霊じゃないよね?」
何かを確認するディーノさんより早く、横でワタワタと驚いていたニアが、思いついたとばかりにそう質問した。
「ってことは両親はハーフ?」
「精霊の母様だけだよ」
誤魔化しても意味が無い。少しイジワルな回答ではあるけれど、真実を伝えた。
「そりゃおかしいな。精霊が単身で作れる子どもの種族は、同じ種族である精霊のみのはずだ」
今度は僕の目を真っ直ぐ見つめて、何かを探るような姿勢のディーノさん。僕は黙って彼女の反応を待つ。
「………………。ま、何か事情があるってことか!あいつがお前を子どもだと言うのなら、その言葉に偽りはねぇはずだ。ああ見えて、嘘は嫌いなやつだった」
……案外、あっさりと納得した。
もう少し一悶着あることを予想していた。
「あ?なんだかやるせない顔してんな。俺様はこれでも人を見る目はある方だぜ?お前の母親見たく、鼻から誰も信用しない、心の内は見せないってな性格じゃねーよ」
「な、なるほど……?」
僕のことを認めてくれた、ということだろうか。
しかし、彼女と話しているとだんだん母様との関係が分からなくなっていく。信頼しているのか、それとも何か別の感情があるのか、よく分からない。
「そういや、お前らはこの後何処に行くんだ?」
「エルドベル・イーストです」
「えるど……あぁ、あのでけぇ街か」
「知ってるんですか?」
「そりゃ、俺様が封印される前の時代に、多種族共存都市なんてのは珍しかったからな」
昔を懐かしむように目を閉じて首を縦に振っている。その都市にも思い出が詰まっている事だろう。
ふと、彼女がこの後どこへ行くのが気になった。
きっと僕たちと一緒には来ないだろう。もしかしたら、自分を封印した者への復讐を考えているのか。それを僕らは止める権利もないけれど、今の彼女の表情からは復讐という想いは微塵も感じられない。
だからこそ、何百年と封印されていた彼女がどこへ向かうのか。少し興味があった。
「ディーノさんはどこか行く場所が?」
「そうだな……。ひとまずは世界を見て回ろうか。封印されてかなり長い時が立ったことだし、世界の変化でも感じてくるかな」
「そう……ですか。またどこかで会えると嬉しいです」
そう会話した僕の声が、思ったより寂しそうであったことに、僕自身がびっくりした。
「そう落ち込むなって。どうせそのうちまた会える」
ディーノさんは、どこか遠い空の向こうを見つめてそう言った。……言ってくれたのかな。
「んじゃ、悪いが俺は先に失礼するぜ。そこの穴の下に住む奴らに、穴の上は結界張っといたから安心しろって伝えておいてくれな!!」
背中から生やした翼を羽ばたかせ、勢いよくジャンプする。声が消えた時には既にそこに姿はなかった。
どうも、深夜翔です。
大変お久しぶりです。こちらリアルの私情によりお休みしておりました。ようやく落ち着いたので、投稿を再開します。その間、過去一話辺りから、少しだけ改変編集を加えました。もし時間があれば、もう一度一話から読んでみてください。
怒涛の真実と展開。しかし、やっとこさ雪山から解放されますね。さて、セイタ一向は次回はどこへ行くのか?
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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ではまた次回……さらば!




