とある種族との出会い
暖房を創るに当たって、注意すべきことは温度管理だ。リモコンでの操作は難しいけど、それ以上に内部で空気を暖める機構を創る方がよっぽど大変。
熱くし過ぎればただの熱風。低くし過ぎればなんの意味もない。
そして、それを管理するのは魔鉱石を通して伝わる魔力。この出力を上手く調整することで一つの魔道具として完成する。
「一定の範囲の空気を取り込んで……、暖めたものを放出。……領域を設定して外側の空気と断絶するべきかな。…………空間魔法も使う?けど、それじゃ魔力消費が」
ブツブツと呟きながら目の前の鉱石に集中。
僕の手に触れた鉱石が、淡い光を放ちその形状を変形させていく。参考にするのはエアコン。けれど事前に設置しておくものではなく、場所を選ばず床に置くことで一定の領域の温度を上げられるようなもの。
調整自体は魔法付与でなんとでもなるが、魔鉱石にはそれぞれ耐久があって、過剰な付与は魔鉱石を破壊してしまう危険がある。
「付与するのは魔力管理と空気の入れ替え用魔力操作。魔力管理は暖鉱石と繋げて……、こっちに風魔法の付与を……アルゴートさん!お願い出来ますか?」
「うおっ、り、了解だ」
眠そうなその眼は、睡眠に落ちる寸前だったことが伺えた。僕の呼び掛けに少しばかり動揺している。
「すみません……、寝るところに」
「大丈夫だ。こう静かな場所でじっとしてるとな」
人が眠くなるのは体温の変化、特に上がった体温が下がるタイミングで眠くなる。現在いるのは雪山の洞窟。外気がとてつもない寒さで、焚き火から少し離れたこの場所は眠気に襲われる絶好の位置とも言える。
「えっと、この魔法陣に風魔法の付与をお願いします」
「おう」
アルゴートさんが手先に魔力を込め、魔鉱石に描かれた魔法陣が淡い緑色に輝く。光が収まるまで魔力を込め続ければ付与の完成である。
「ふぅ。こんなもんか」
「ありがとうございます。あとは僕一人でもできるので、寝ていても大丈夫ですよ」
「ん、そうか。お言葉に甘えて寝かせてもらうぜ。セイタも寝たい時は起こせよ?見張りは変わってやる」
「はい。わかりました」
渡した毛布に包まって眠りにつく。
僕はまだまだやる事がある。なるべく起こさないよう、音を立てずに黙々と作業を進めた。
――なんだこれは?!
――ま……どうぐ?すごい!
――俺たちにこれを譲ってくれ!!
微かに聴こえてくる声で僕は目が覚めた。
記憶にあるのは魔道具が完成して、試用して、眠くなってアルゴートさんに声をかけ……たところで意識を落としたらしい。
結局、日付が変わったであろう時間まで魔道具を創り続け、完成して安心したところを睡魔に奇襲された。
かろうじてアルゴートさんを起こすことには成功したらしく、目を開けたとき洞窟の奥に視線を向けて立っている彼の姿があった。
どうやら何者かと会話しているようだ。
「……ナツ、少し離してね」
立ち上がろうとして、腰に抱きつくナツにせき止められた。大変兄冥利に尽きるけど、身動きが取れないから慎重に引き剥がす。
「おはようございますアルゴートさん」
「起きたかセイタ。昨日はかなりおそくまで作業してたんだな」
「何とか起こせたみたいで良かったです。魔道具は壊れてませんか?」
完成した魔道具は試用して問題ないと確かめたまま焚き火の横に放置していた。その間ずっと稼働していたのであれば、製品としても問題ないはずだ。
「ああ、あれのおかげでめちゃくちゃ快適だったぜ。今後一生凍えて死ぬことは無さそうだ。助かった」
「それで……えっと」
僕はアルゴートさんの返答に頷きつつ、その奥にいる人物に視線を移す。
「彼ら…?は一体」
"彼"という言葉に疑問を付けたのは、どちらであるかパッと見では判別出来なかったからだ。
「はっ?!申し遅れました。私達はホーリーラビットの一族。この洞窟は集落の入口なのです」
丁寧な物腰で頭を下げたのは、モノクルを付けた紳士味のある兎。長い耳の間には小さなシルクハット。ボタン止めの黒服。澄んだ青い瞳。白い体毛に覆われた二足歩行の彼は、道中に見たウォーリアバニーとは違い知性に溢れている。
背後に控えた仲間と思われる兎たちも、皆二足歩行で人語を介してコミュニケーションを測っていた。
「だ、そうだぜ。俺も朝起きたらあの魔道具の周りにたむろしてるこいつらを見つけてな。危うく攻撃しかけたが、人語を話すもんだから理由を聞いていた」
ホーリーラビット族……?
獣人の一種だろうか。一切の悪意は感じない。それどころか、こちらと仲良くしたいという善意的な感情さえ読み取れる。
「改めまして、私はこの集落の長、シアノートと申します。この度は驚かせてしまい申し訳ありません」
「いえ、それよりも僕たちに何か?」
「ああ、そうですね。そちらのお品物についてお聴きしたく」
「お品物……魔道具のことですか?」
「魔道具と言うのですね。あれほど画期的で素晴らしいものが存在する事に感動致しました。よろしければ売って頂きたく存じます」
「…………その、ですね」
「やはり高価なものなのでしょうか?お金はいくらでも払いますし、もしも何か欲しいものがございましたら、できる限りご協力させていただきます!ですから何卒……」
売り物では無いと伝えたかったのだが、相手の必死な対応に戸惑う。
「なんでそんなに欲しいんだ?この辺りに住む生き物は寒さに強いはずだぜ」
そんな僕の戸惑いを察して、アルゴートさんが彼らに質問を投げる。
「はい。私たちホーリーラビットの一族は、長らくこの雪山にて生活してきました。ですが昨日より、この山全体の気温が急激下がる現象に見舞われ、洞窟の奥へ逃げ込み震える毎日を送っておりました。
そして今朝、洞窟の入口に見知らぬ人間が入り込んでいると報告があり、確認のため近づいたところその装置を知ることになりました。この寒い洞窟の入口にてこれほどの暖かな場所を作り出せるのは、今の私たちにとって救いの手であると申しましょうか……っ」
なるほど。必死に交渉する理由が分かった。
彼らは今、命の危機に瀕している。彼、シアノートさんは、一族の命を背負ってここにいるのだ。
そんな彼らにしてあげられること。ここで魔道具を渡すこと?違うはずだ。
「お代は入りません。魔道具も差し上げたいところですが、材料がなくこれ一つしか創れません。そこで相談なのですが、素材を提供していただけませんか?代わりに、この魔道具を量産して交換します」
たった一つの魔道具でどうにかできる広さではないだろう。であれば、彼らにも協力してもらう方がいい。貸し借りのない、安心の交渉だ。
「……これは貴方様がお創りに?」
「はい。僕が創ったものです」
疑うのは無理もないか。
目の前にいるのは素性の知れぬ16歳の少年。
いきなり信用しろという方が難しい。
「…………欲しい素材は何でしょうか?」
「えっ?あ、暖鉱石、魔鉱石、あとは形取るための鉄鉱石……ですかね」
思わぬ返しに少し間が空く。
「皆さん聞きましたか?集落に戻り急ぎ伝令を。ありったけの鉱石を集めて来てくださいと」
静かにそう口にすると、背後の兎たちは頷いて駆け出した。
「その条件、承りました。こちらの事情を汲んでの提示、誠にありがとうございます」
丁寧に感謝の言葉を述べ、洞窟の奥へと向きを変える。
「私たちの集落へご案内させていただきます。どうぞこちらへ」
どうも、深夜翔です。
出会いとは何がきっかけで起こり得るのか、誰にも分からないものです。
まして、それが同じ人だとも限らず、またその出会いは相手にとっても偶然・奇跡となるのです。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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ではまた次回……さらば!




