出会いと関わり
出会いと関係
「ひゃぁぁぁっ!しゃ、喋った…?!喋りましたよ?!」
「お、おお、落ち着いてくださいアヤメ。これはっ…あれです。げ、幻覚…」
「…あれ…?まだ…お客さん……いた。…こんに……ちは」
二人が驚くのも無理はない。
兄であるセイタですら人形だと見間違うほどに美しい外見と纏う空気。接客中はほとんど動かずに寝ている事が多い妹。
それで、初めて見た客が突如動き喋る人形と出会えば…当然このような反応になる。
「やっと起きたねコナツ。夜もあれだけ寝て、昼間によく寝られるよ」
「……ブイ」
「褒めてないよ…」
驚いて固まった二人を前にして、兄妹はいつも通りの会話を繰り広げる。まったりとしていて、この場だけ時間の流れが遅くなっているような空間。
あまりの異様さと日常感が混じり合い、固まっていた二人も気勢を削がれて笑いあった。
「妹さんですか?」
「あ、はい。すみません、いつもこんな感じで」
「いえ、こちらこそ驚いてしまってごめんなさい」
「……慣れてる…から」
兄に抱きつきながら小さく応えるコナツ。
どこか愛おしさを感じる動きに、アヤメの胸はキュンと締め付けられた。そして、心の中にある感じたことの無い感覚に襲われ、手をわきわきさせながらこう言った。
「こ、コナツさん……そのっ、わ、私とお友達にっ」
鼻息を荒立てながら、ジリジリとナツに詰め寄る王女様。さすがのナツもこれには驚いてセイタのお腹に顔を埋める。
「お嬢様、大変申し上げにくいのですが…その……気持ち悪いです。彼女も怖がっていますよ」
「ハッ?!す、すみません……あまりにも可愛くて…つい」
「あはは、大丈夫ですよ。妹は少し人見知りでして、起きている時の人前ではこんな感じですから」
セイタはフォローを入れつつ、何かが不満なのかお腹をポカポカと叩く妹の頭を撫でる。
「閉店時間も過ぎてますし、僕も帰ってやることがあります。二人が良ければまた後日、遊びに来てください」
「是非!!絶対来ますね!」
「お、お嬢様……はしゃぎすぎです」
「えっと……騎士様も、また来てください」
まさか自分にも声がかかると思っていなかったのか、ミオンは一瞬驚いた表情を見せた。が、言われずともまた来る予定だったミオンはすぐに頷く。
「もちろん、また来る。それと、騎士様は堅苦しい。良ければミオンと呼んでくれ」
「あっ!!ミオンだけずるいです!私も王女様ではなく、アヤメとお呼びくださいな」
「あ、ありがとうございます……えっと、アヤメさん、ミオンさん。お待ちしてます」
色々な誤解や騒動があったものの、こうして兄妹は二人と仲良くなった。この国の王女にその護衛と、大層な身分なため簡単に会うことはできなさそうだが。
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「うふふ、可愛かったですね妹さん」
「私はこんな暗い時間に、お嬢様を一人で歩かせた事が何よりの失態です」
「それは……、ミオンがコソコソしていたのがいけないのですよ?」
「うっ…おっしゃる通りです」
笑顔な王女様と、何か気がかりな様子のミオン。
路地を抜け大通りに出たところで店のあった方角に目を向ける。
「どうしたのですかミオン?」
「あのお店、とてもただの兄妹二人だけで成り立っているとは思えないのです」
「??確かに不思議な二人でしたが、経営ができないような幼い年齢には見えませんでしたけど」
違和感に気が付かなかった王女様は、眉をひそめるミオンへ疑問をなげかける。首を傾ける仕草がなんとも可愛らしい。
「かわi……、いえっ。あの兄妹も不思議でしたが…、店自体が凄いのです。前に訪れた時は気に止めませんでしたが、あの店には複数の結界が張られていました。それも、王城のものよりも数段上の」
「本当ですか?!王城の結界は、この国の優秀な魔道士数十人が力を合わせてようやく成り立っている結界ですよ?」
「ええ、それほど強い結界を私が見逃すはずありません。複数の結界の一つに、恐らく魔力を隠す結界が混ざっていたのだと思います」
訝しげに眉をひそめ予想を口にするミオンとは対照的に、アヤメは可愛らしい仕草で首を傾げた。
「隠すと言うと、あの一定量の魔力値分、認識を減らす結界ですよね…。ですが、あの方々は普通にそれなりの魔力を有しておるのは確認出来ましたよ?」
「そこが問題なんです。我々に認識できる魔力分減らして尚、王宮魔道士と同等以上の魔力が感じ取れたのです」
「……それって」
「はい、結界のレベルにもよりますが、少なくとも勇者かそれ以上の魔力量を有していることに」
「そんなっ…勇者様は先日発見されたばかりですよ」
「はい。勇者でも無い人間が、勇者を超える能力を持っていたとなると……」
そこまで言って、二人は黙り込んでしまう。
せっかく仲良くなった兄妹。
この事実を国王に伝えてしまえば、この関わりは途切れてしまうだろう。一般の騎士や王宮関係者と違い、二人にはそれがたまらなく苦しかった。
そうしてしばらく黙ったまま歩いて行った。
「……」
「………ふふ」
しかし互いに黙っていた事で、同じ事を悩んでいると感じたアヤメは、笑った。
そして嬉しそうに言う。
「私たちはまだ、あのお二人について何も知りません。何か事情があるかもしれませんし、私にはお二人が悪い人には見えませんでした」
アヤメはミオンの腕に抱きついて、再度ニッコリ笑う。
「今は二人だけの秘密にしませんか?これからお二人の事を知っていけばいいのでは無いですか」
「アヤメ様……」
つい可愛らしい姿に抱きつくのを堪え、ミオンは答えた。
「あまり人と関わることの出来ないアヤメ様に、初めての友達ができるかもしれない機会です。私もあのお店にはまだ用がありますし、二人だけの秘密……にしておきましょうか」
「はいっ!」
実は"二人だけの秘密"という部分に惹かれたとは、到底言えるわけもないミオンだった。
どうも、深夜翔ですを超え。
兄妹と王女騎士が出会い、互いが仲良くなるきっかけ。
前回の続きになります。
驚くアヤメとミオンを想像すれば、結構可愛いかも。
次回は……今のところ未定です。
どんな内容にするかはこれから決めたいと思います。
是非次回も読みに来ていただけると嬉しです。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
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ではまた次回……さらば!