偉大なる吸血鬼の末裔
――我がその大陸にいたのは数十年前。
かの大邪神アルステッドが封印されているという、人間からすれば負の遺産、負の大地のような場所じゃった。辺りからは強大な魔力が溢れ、魔物は凶暴かつ凶悪に。植物は触れただけで魔力障害を受けるほどに過剰な魔力を吸っていた。
人間が魔の大陸と恐れるのも頷ける。
我はその大陸の端に位置する、小規模の魔族領を統治していた父上の長女として生まれ育ったのじゃ。
我の父上は凄いのじゃぞ。
魔力量、魔力操作、戦闘技術。
そのどれをとっても一流で、戦闘力はかの古龍と渡り合えると噂されるほどじゃ。それでいて他者を思い、脆弱なる人間にも慈悲を与え、守る。
我の自慢の父上。
じゃが、一個人の強大な力は、やはり人間には恐ろしいものに見えたのじゃろう。ある日、隣国の大使だと言って我が領地を訪れた謎のローブの人間たちが、我ら魔族の領地を丸ごと封印したのじゃ。
あれは、かの大邪神を封じ込めたものと似ていた。保有する魔力量が多いほど強力な封印となり、人間よりも遥かに魔力の多い魔族には致命傷と言っても良い。
特に、我ら吸血鬼の一族は、もはや自力では守ることも出来ぬほど強力な封印。為す術なく魔族領はかのもの達の手に落ちた。
それから数十年。
未だ我が領地は封印の中。
なぜ我だけ封印が解けたのかは不明じゃが、いずれ封印を解き、元の生活へ戻りたいと願っておる……。
……む?
アルステッド教について?
今から話すとこじゃ。話はきちんと最後まで聞け!
ゴホン。まず結論から申すと、あの日我が領地を訪れた謎のローブの集団こそ、お主の探すアルステッド教じゃ。
我も実際に訪れるまで、そんな教団がおることは知らんかった。それは、我が父上も同じ。でなければ、あの父上が人間相手に遅れをとることなど無かったのじゃ。
では人間を恨んでおるかと?
そんな感情は持ち合わせておらぬ。
あったのは、我らの未熟さと警戒を怠った不甲斐なさのみじゃ。なに、封印とは命まで奪うものでは無い。生きておれば、いつかは解ける。
我らはいつか復活するその時に、同じ過ちを繰り返さぬよう反省しただけじゃ。
なに?立派?
当たり前じゃろ!我らは偉大なる吸血鬼!魔族なのじゃから。
……というか、人間が貧弱すぎるのでは無いか?
たかが封印ごときで騒ぎすぎなのじゃ。この世に解けない封印なぞ存在せんのじゃから。
封印が解けた我は、そのアルステッド教団が勢力を拡大しておることを確認し、ここまで移動してきたのじゃ。下手に奴らに関わると、再び封印されかねんのでな。
ここを領地にしたのは……まぁ、ただの気まぐれじゃよ。初めは人間のふりをして歩き回っておった。この街も、数年前まで領主も長も居ない、荒れた街じゃった。
ここまで発展したのは、ひとえにアイのおかげじゃ。もちろん、よく分からん技術を信頼して、身につけてくれた街人のおかげでもある。
……ツン…でれ?
よく分からぬことを言うでない!
と、とにかく、我の知っていることはこれでぜん……、いやもう一つあったの。アルステッド教の目的じゃ。
む?無論知っておるとも。
と、言っても、我とてなんでもお見通しとは行かぬ。実際に見て、感じたことをまとめただけに過ぎぬからの。
ま、端的に言えば、その名の通り邪神アルステッドの復活といったところかの。その過程であの封印を発見したのじゃろう。
他は……、ようわからん魔法陣の研究をしておったくらいじゃ。膨大な魔力やら、そのために必要な人材やら……。
魔力が足りないから他所からをよぶ。人間は大変な種族じゃな――
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「とまぁ、我が知るのはこの程度じゃ。満足か?」
何気なく話す、壮大な過去の話。
オオリア様が話終えた時、何となくこの方がとても大きな存在に見えた。
(……それに、最後の一言)
魔力が足りないから、人を喚ぶ?それはつまり、アルステッド教の目的は、邪神復活のための魔力補充のため……。
「なんじゃ、反応がないとちと寂しいぞ」
「僕を狙うのはそれが原因か。それも、異世界から喚んだ人を道具のように扱うなんて、許されることじゃない」
「無視か?!我の声、聞こえとるよな?」
ここに来て僕を狙ったのは、僕の居場所を突き止めたから。だとすれば、召喚の儀式は、何回も連続で行えるほど簡単なものじゃないらしい。再召喚より僕を優先するのだから、その可能性が高い。
「……潰すか」
「わ、我……殺されるの……?」
「えっ?!あ、いやっ、オオリア様のことではありませんよ!!貴重なお話ありがとうございました」
僕の呟きに怯えるオオリア様。
人形の姿だとどこか愛らしい。
「そうだ!セイタ、これ持って行って!」
今まで黙っていたオオリア(藍)が、今思い出したと一つのペンダントをくれた。紅い宝石が埋まった雫型の装飾。彼女の瞳の色とそっくりだ。
「これに魔力を注ぐと、私が持ってるこれが紅く光るんだ。もちろん逆もね?さっきの話を聞いて、セイタ、危険な場所に行かないといけないんだよね。だから、もし助けが必要な時はいつでも呼んで!」
「……いいの?高そうなのに」
「いいの!ここで出会えたのも何かの縁だし、私、ここに転生して初めて同じ出身の人と話したの。正直ね、少し参ってた部分があったのかな。だからさ、また一緒にお話出来ると嬉しいなぁ……なんて」
そうだ。彼女は、僕と違ってたった一人、知らない土地に転生させられて。それも、オオリア様という複雑な立場の身分を受け継いで。
不安じゃ無いはずがない。
「いいよ。僕でよければ」
「ホント?!やったね」
白髪の髪が、嬉しそうに揺れる。
「なんじゃ、お主。毎日生意気にも我と話しておきながら、そんなことを思っていたのか」
「そりゃぁ……ね。けど、転生したのがオオリアのところで良かったと思ってるよ!ありがとう!」
「な、なんじゃ……。別に、我は早くその体を取り戻したいだけじゃ!感謝されるようなことは」
「あー、照れたね」
「照れてなどおらぬ!」
彼女がここまでやってこれたのは、きっとオオリア様がいたおかげなんだろう。こんな風に、楽しそうに話しているのを見れば、それは痛いほど伝わってくる。
(僕にとっての、母様みたいな存在なのかな)
助け合い、支え合える人がいる。
だから守りたいと思う。平和な日常を。
「そろそろ戻らないと、セイタの仲間が心配しちゃうよ」
「うん。二人ともありがとう。また来るね」
また会うことを約束して、僕は仲間のいる場所へと戻るのだった。
どうも、深夜翔です。
世の中、もしかすると人間よりも弱く恐ろしい種族はいないのかも知れません。力を恐れるがあまり、多様性を無視し、他者を遠ざける。
そんな人間を、散々な目にあいながらも認めているオオリア様は、真に強く高貴な存在だと言えるのではないでしょうか。
やはりツンデレはいいですよね。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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ではまた次回……さらば!




