高貴なる転生者
「吸血鬼?!」
「なんじゃ?会って早々に驚くなんて失礼じゃぞ」
目の前の少女(吸血鬼)が腰に手を当てて下から見上げている。白く長い髪を払い除け、真っ赤な瞳をこちらに向ける。その姿はまるで人形のよう。
ナツで慣れていると思ったけど、そんなことは無く素直に驚く。
「お主ら、この街から出たいそうじゃな」
「え、あ、はい」
「許可証は既に用意してある。これを使えば出入りは自由じゃ」
軽いポンっという音がして、空中から4枚の紙が出現する。かなり丈夫な素材で、免許証や学生証なんかに近い。
「……じゃがその前に、我はお主に用がある」
「僕、ですか?」
「そうじゃ。名をセイタ……と言ったか。少しこっちに来てくれ」
「えっと……」
僕は言い淀んで視線を隣に移す。
知らない土地でナツと離れるのは不安が大きい。何かあってからでは遅いのだ。
「ナツの嬢ちゃんのことは任せな。そもそも、そんな場所で襲われるわけないだろ」
「大丈夫だよ!私たちも少しは成長してるんだから!」
そんな不安を読み取ったのか、二人が守ってくれると自信満々に告げる。
――そうだ。今は僕一人じゃないんだ。
ナツが信頼し、仲間として着いてきてくれた二人を僕も信頼しよう。それに、僕が居なくてもこの三人なら並大抵の敵は相手にならないだろうし。
「分かりました」
僕はオオリア様と呼ばれる小さな吸血鬼の後に続き、奥の部屋へと移動した。
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「さて、早速本題じゃが……、お主はどこ出身かえ?」
どこ出身か、ね。
「それは今?それとも前の|?」
「……。ふふ、ははははっ!そう答えると言うことは、やはりお主も出身は別の世界のようじゃ」
「そっちこそ」
今はまだ、相手の真意が読めない。普段通りの態度で舐められてはいけない。
「ちなみに、具体的な場所は言えるかの?」
「日本だよ」
「っ!!!そうか、日本!じゃあ同じだぁー!」
「同じ……。やっぱり」
急に態度と口調が変わるオオリア様。ほっと安心し、胸を撫で下ろしたのは、僕がどこ出身かまではさすがに分からなかったということ。
そして、彼女の口ぶりから察するに、彼女も日本から転生してきたのだろう。
「えっと……、オオリア様、って読んだ方がいい?」
「いいよオオリアで!って言うか、たぶん私より年上でしょ?」
「16だけど」
「えっ?!同い年なの?!凄い偶然」
「同い年?!」
その反応には僕の方が驚いた。どう見ても16って見た目じゃ……あ、転生者か。
「じゃあオオリア……は、魂だけ転生したの?」
「そうだよ。日本での最後の記憶はトラックに突っ込まれるとこ。あは、定番だよね」
「……それって」
転生者の多くは、元の世界にあまり良い記憶を持たないらしい。望まない死、悲しい人生。そういったものは、思い出したくないものだ。
「あ!違う違う。轢かれそうになった子供を助けようとして、自分がこう……どかん、てね」
「あー、それじゃあその体は元々誰かの?」
「そうだよ!オオリア様って言って……」
「こらぁ!我に向かってその口の利き方はなんじゃ!お主ももっと威厳を出さぬか!我はいずれこの世界を統べるものぞ」
「うわっ」
僕が座っていたソファのの端に置いてあった小さく可愛らしい人形が、突如立ち上がり怒り始めた。
人形……というより、ぬいぐるみ?いや、フィギュアの方が近い?とにかく、金髪少女の見た目をした布でできたぬいぐるみ。しかし、その声に応じてきちんと口元が動いている。
……どういう仕組みだろう。
「あ、紹介するね。この子がオオリア様。この体の元の持ち主だよ!」
「崇めたまえ少年!我こそ偉大なる吸血鬼の末裔、リリアン・オースト・オオリアじゃ!」
「はいはい。長いからオオリアね」
元の持ち主……。
記憶の上書きから逃れたってこと!?
「オオリアは凄いんだよ。神が行う転生魔法に抗ったんだって」
「どこの神だか知らぬが、我の体を勝手に使おうなんぞ頭が高いわ!」
「でも、魂を避難させるのが精一杯って言ってたよね」
「何を言う。あの時は本気を出していなかっただけじゃ」
今のオオリア様と、元々のオオリア様。互いに奪い奪われた関係でありながら、その会話には憎悪や恨みは感じられない。
近いのは仲の良い姉妹……?
とにかく、人間の街でありながら統治する者が人間ではないと知って警戒していたものの、それは杞憂に終わりそうだ。
「そうだ。セイタたちは、なんでこの街に来たの?街を改造した私が言うのもなんだけど、この街の場所ってかなり微妙なとこだよ」
「お主!なんてことを言うのじゃ。我がどれだけ苦労して建て直したと思っておるっ」
「あはは、ごめんって。お詫びにこうして身体を返すまで街の管理をしてるんだからさ。それで、私の質問には答えられるかな?あ、無理なら話さなくても……」
目的は情報収集。転生者がいるかもと思ってやって来て、予想通り転生者には会えた。けれど、この様子だとアルステッド教については何も知らなそうだ。
「転生者に会えるかもと思って来たけど……、知りたかったことは分からなさそうかな」
「知りたかったこと?」
あまり僕ら自身の事情に巻き込みたくはない。
けど、彼女もまた、無関係とは言えないかもしれない。
彼女達には伝えておくべきか……
「南の大陸に封印された神と、その教団について。ここからだと結構遠いから知らな――」
「南……、アルステッドのことじゃな」
「?!」
予想外の反応に、驚いて声が出ない。
「えー、オオリア何か知ってるの?」
「我は元々その大陸出身じゃ。というか、封印されていた」
「封印?なんかやらかしたんでしょ」
「馬鹿言え。人間というのは他種族に対し、強大な力を持っているという理由だけで恐れる。ま、そんな人間を侮って罠に嵌められた上に封印されたのじゃから、我もまだまだ未熟ではあったがの」
なんとはなしに、日常会話のごとく進められていく二人の会話。その情報は、どれだけ僕が望んでいたか分からないものばかり。
思わず身を乗り出して尋ねる。
「そ、その情報!!教えていただけませんか?!」
「??構わぬが……」
やっぱり運命は何一つ分からない。
どんな場所に求めるものがあり、出会えるのか一つも予想できないのだから。
どうも、深夜翔です。
白髪ロリ吸血鬼。
属性もりもりの街長ですが、思ったよりもいい人そう?
彼女はこれから色々と関わりが増えてきそうですね。
次回は、問題の解決にグッと近づくオオリア様のお話です。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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ではまた次回……さらば!




