高すぎる存在(物理的に)
「うへぇ、これはまたデケェな」
「けど……なんだろう?そこまで巨大だと思わないや」
「ニア、それは多分もっと大きいやつをここに来るまでに見ちゃってるからだと思うよ」
「これより大きい……あっ」
「まぁ、あれと比べちまうとな……」
あれ、とはつまり。例の巨大な巣のことである。
「大きさはそれほど変わらないが」
「場所の問題ですよ。あの巣があったのは平原で、周囲に大きなものがありませんでしたから。この建物の周りには同じような大きい建物が沢山ありますし」
実際に比べなくても、眼の錯覚は起きる。
何よりも曖昧な記憶の中での比較だ。
「そんなことより早く入ろうぜ。通路の真ん中で立ち止まってるのは邪魔だ」
現在僕たちがいるのは、オオリア様がいるという中央の巨大建物、"セントラル・オフィス"。通称"中央塔"。円柱の形をした無数のガラス窓で覆われたそこは、出入りする人も機械も大量。
何対策なのか、建物の周りには堀があり、かなりの深さの池になっていた。よって、出入口は橋のかかった北と南の二箇所のみ。
……地下にも魔力探知が引っかかったから、おそらくは地下にも非常用の通路的なものがある……と思う。
こんな世界にこんな建物。別に隠し通路の一つや二つあっても違和感はない。隠し通路と言うと怪しく聞こえるかもしれないが、これだけ大きな建物であれば非常事態が起きた時、速やかに場所を移せる通路は必要不可欠だろう。
余計な厄介事に巻き込まれないためにも、ここは気が付かなかったことにする。
ガラス張りの自動ドアを抜けると、そこは広々としたロビー。白っぽい床と1面のガラス窓で明るい印象を受けた。一種の行政機関とも言えるであろうこの建物は、悪い印象を防ぐために明るい色を優先的に選んでいるのだろう。
「……」
「いた」
しかし、入ってすぐに感じたのはまた別の存在。
今まで上手く隠されていた魔力が、入った途端に急激に増幅する。あちこちに存在していた魔力念がこの建物の最上階付近に集まっているように誤認させてくる。
正しくは、そのレベルの魔力を持つ何者かがそこにいるのだ。
「たぶん、あれがオオリア様かな」
「まりょく、が……異質」
「転生者、転移者特有の違和感だ」
詳しくは説明できないけれど、僕とナツからも読み取れる違和感をその魔力念にも感じたのだ。
「おおりあ……様?に会うには受付しないといけないんだよね?すみませーん!」
僕とナツがこっそりと会話していると、内装の観察に飽きたらしいニアが受付へと走り出した。なんとも丁寧に『受付』と書かれた案内板に従い、ロビー中央の円形の受付へ。
「はい。何か御用ですか?」
「えっと、きょかしょう……?を貰いにオオリア様に会いに来ました!」
「許可……あ、今朝警備隊から連絡があった方ですね。少々お待ちください」
黒髪にスーツのような服を着た、やけに肌の白い女性は、僕たちが来ることを予期していたように受付の奥へと消えていった。
しばらく待つと、一枚の紙を持って戻ってきた。
「こちらにお名前をお願いします。あ、代表者一名のみで構いませんよ」
「それじゃあ僕が」
よく考えてみれば、この世界に来てから、こうやって自分の名前を書くのは初めてかもしれない。
誤って元の本名を書きそうになるが、この世界に漢字やひらがななど存在しない。全く別の不思議な文字があるだけ。
全て覚えるのには苦労したけれど、本を読んだり経営のためのメモを取っているうちに自然と覚えていた。
とはいえ、"セイタ"というこちらでの名前もあまり書く機会は無かったので少しおぼつかない動作になってしまった。
「これで大丈夫でしょうか」
「はい!こちらはお預かりしますね」
書類を渡すと、それと交換にネームホルダーのような何かを貰う。
「この建物内ではこちらを承諾ください。付けていないと、建物内のセンサーが反応してしまいますから、気をつけてください」
防犯センサー、かなりのセキュリティ管理だ。
全員分のネームホルダーを受け取り、ニアとアルゴートさんに渡す。ナツは首元に着けるのを嫌がるので、紐を利用して腕につけてあげた。
「オオリア様はこの建物35階、国王室でお待ちです」
35階?
受付の人に案内されるまま、エレベーターに乗る。
「うおっ!なんだこれ?!勝手に動いてるぞ!」
「なんか不思議な感覚!」
もはや二人が驚くのにも慣れた。
実際、エレベーター特有の浮遊感は驚くのも無理はない。それよりも……
「……ナツ?」
「ん」
「高いところ、嫌いだっけ?」
「んん」
エレベーターが動き出してから、僕の左腕にしがみついて離れないナツ。本人は否定するものの、その表情はかなり嫌そうな顔をしている。
「セイタ。多分だが、この徐々に近づく強力な魔力と今の浮遊感の相性が悪いんだと思うぜ」
「相性……?」
「精霊は特にその辺に敏感だからな。俺達には分からない感覚があるはずだ」
ニアに聞こえないように、こっそりと耳元で教えてくれるアルゴートさん。要は魔力と浮遊感で酔ったのだ。車酔いと似た感覚を感じている……ということだろうか。
「大丈夫そう?」
「……ん」
異質で強力な魔力。ナツにここまで影響があるのは想定外だ。無理そうなら一回降りても良かったが、ナツが止めたのでそのまま35階へと到着した。
「高ぇなー。でかかった建物があんなに小さく見えるぞ」
「ねー!下から見た時はそんなに高く見えなかったのに」
「あ、それは魔法だよ。下からだと大きさが分からなくなる幻惑系の結界が張られてる」
この街で一番偉い人がいる場所。直接攻撃できない工夫はきちんとなされているということだ。
エレベーターを降りる。そこは玉座に繋がる一本道……に見える通路。最奥の2メートルはある大きな扉。その左右にある銅像には、微かに魔力の気配がする。ここに武器を持ち込んだり、ネームホルダーを持っていない人が来ると動き出す罠だろう。
先頭を歩く案内係の人が、コンコンと丁寧に二回、ノックした。
「オオリア様。報告にありました旅人様をお連れしました」
「入ってよいぞ」
扉の内側から聞こえた声は、随分と幼い少女のような声質。話し方は明らかに年上。
「失礼します」
扉が開く。
その部屋は中央に社長の机。大量の本に、客人用のテーブルとソファ(たぶん)。部屋の右奥に隣に繋がる扉が一つ。
「お主たちが外からやってきた旅人かえ?」
その部屋の中央で、こちらを真っ直ぐ見つめる赤い瞳。
「なっ……」
身長に似合わぬ長く白い髪に、エルフのような耳。黒いマントを羽織り、仰々しい立ち振る舞い。
最大の特徴は……
――ニッと笑うその口元から除く、尖った牙
「き、吸血鬼?!」
そこに居たのは、伝説上の生き物とも呼ばれる、吸血鬼だった。
どうも、深夜翔です。
未知にワクワクするのは、異世界ならではとも言えるのでないでしょうか。特に、エレベーターで驚き興味を抱けるのは現代の私たちにはほとんどありえないでしょうから。
さて、そんな場所の頂点にいた、新たな人物。
彼女は彼らの道にどんな影響を与えるのでしょうね。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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ではまた次回……さらば!




