虫、爆散!!
スタッ。
着地に相応しい音。馬車の上は案外丈夫で、たまにナツがここで寝ているのも納得の柔らかさ。上手く金具の部分に着地しなければ、その柔らかさ故に尻もちをついていたかも知れない。
「アルゴートさん!ニア!ありがとう」
「ん?あれ、いつの間に……ってあぁ、そうか」
「えっ……えっ?!えぇぇ!いつからそこに?っていうかどうやって?」
おおよその察しができたアルゴートさんに比べ、転移魔法が伝説の魔法という認識のニアは、これぞ天然の反応だとばかりに良いリアクションをしてくれた。
「キィーー!」
「キリも、警戒ありがとう。二人とも、準備できたから馬車に乗って!」
「了解した」
「らじゃー!」
蜂の巣の入口を背に、馬車をも守りつつ対応していたようで、地面に転がる死骸はこの辺りには一体も無い。
それだけでも凄いのに、この短時間で二人の連携の練度が飛躍的に向上していた。
「"暴風竜巻"!」
「"極土氷結"!!」
氷と風の合体技。
威力も範囲も申し分ないニアの氷魔法に、圧倒的火力と移動という効果を兼ね備えたアルゴートさんの風魔法。それらを組み合わせた、ある意味新しい範囲殲滅魔法。
これは男心をくすぐる熱い演出。
つい見入ってしまうのも致し方無い。
「かっこいいですよ!!いつの間にあんな凄い連携を……」
「発見は偶然だぜ?各個撃破してたんだが、数が多いから範囲魔法使うかーって。んで、同じタイミングで放った魔法が上手く噛み合った」
「えへへ、私だってたまには役に立ちたいから!」
――二人には、いつも助かっていると。
心の中で感謝して、今はそれどころではないと馬車を走らせる。
二人の合体魔法を無駄にはしない。
「巻き込まれないように、できるだけ離れます」
「巻き込まれ……って、もう結構離れたぞ?」
振り返れば、もう200メートルくらいは離れている。
けれど、その大きさからかあまり離れたようには感じない。つまり、巻き込まれる可能性は充分にある。
「スイッチを押してから5秒後です。スイッチはナツが持ってますから、もう少し進んだら……」
「えっと……、ナツちゃん、もう押してるけど」
「ちょっ?!」
「……いけ、る」
「嘘でしょっ?!」
2……1……
ボタンの表示は既に残り一秒。
こんなところでナツの大雑把な部分が出てしまう。
「"防御結界"っっ!!」
僕が叫ぶのと、空気が震え、地面が揺れたのがほぼ同時だった。
「な、なんだっ?!」
遅れてやってくる強烈な爆風。防御結界で衝撃も和らげていなければ、馬車ごと吹き飛ばされていたに違いない。
その爆風によって辺り一面に濃い煙が立ち込め、何かが空から降ってくるも正体までは分からない。
爆発からたっぷり10分は待っただろうか。煙が薄くなり、遠くの様子も確認できるようになった時。
そこに平原の景色は存在しなかった。
緑色の草も、美しい花たちも。それどころか、この遥か上空にだけ白い雲がぽっかり穴を開けたように抜けていた。
「や、やりすぎた……かも」
「かも、じゃねぇーよ!!!やり過ぎだ!!」
「ほ、本気で死ぬかと思った……」
僕は、目の前に空いた数百メートル単位の巨大な穴を見下ろして、仲間の怒声に耳を傾けることとなった。
「なんとなくな?おそらくこうなるだろうって分かってはいた。いたけどよ……」
馬車から降りて、アルゴートさんは片手をその穴へ向けて叫ぶ。
「どう見てもやり過ぎだろうがっ!!何を血迷ったら蜂どころか地形一つ消し炭にするんだよ」
自分でも想定外の威力に、何も言い返すことが出来ない。僕の想定では、巣を破壊して粉々にする程度だったはず。
「一応念の為に聞いておくが……、火薬はどれくらい使ってたんだ?」
「さ、さっきアルゴートさんに渡した火薬球の5倍です」
「…………すまん、もう一度言ってくれ。聞き間違いかもしれん」
「えっと、火薬球の5倍……」
「それをいくつ置いた?」
「ぜ、全部……?」
「具体的には」
「に、二百……ちょい」
「馬鹿野郎!!!……そりゃ地形も吹き飛ぶわ」
一周まわって呆れ始めるアルゴートさん。
さすがの僕も、この威力は非常式だと理解できるので、沈黙をもって返答を待つ。
「まぁ、さすがはあの師匠の息子というか……。やることがいちいち派手でいけないぜ」
どうやらもう怒ってはいないようだ。
「ここがどっかの領土じゃなくて良かったな。もし領土なんて言った日には、反逆罪で監獄行きだったぞ」
「あ、あはは……」
非常に笑えない事実に、苦笑いする。
あ、危なかった。次からもし地形に被害が出ると思われる事をする場合は、確認を取ってからにしよう。そうしよう。うん、絶対に。
消し飛んでしまった以上、僕らができることは無い。
蜂の死骸が無くなり、環境に悪影響が出なくてすんだと思うことにする。
「長居しすぎた。さっさと出発するか」
何より、珍しく大人っぽいアルゴートさんを、これ以上怒らせないようにしないと。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
――とある森の中。
ローブを着た人影が二つ。
「……反応が一つ消えた」
少女らしい声。
背丈と声音から、相当幼いように見える。
「どこだ」
「イモータルビーの巣。平原に転移させたやつ」
対する男の声は、随分と淡白。声色からは判断できないが、聞き返した時点で驚いている事が分かる。
少なくとも、少女からはそう見えた。
「……生き残りは?」
「ゼロ。欠片も反応がない。まるで一瞬で巣を丸ごと消滅させたみたい」
「確認の時間はない」
「遠いしー」
木に寄りかかる二人は、不思議な水晶玉から出る光を見つめる。赤、青、白。
念じる事に変わるそれは、一体何を映しているのか。
「我々の邪魔をするものが現れたか」
「さあね。意図的にしろ、偶然にしろ、僕たちの障害になりそう」
「最悪、処理することも視野に」
「私は行きたくないなぁ」
怪しい話。しかしここには彼らしかいない。
「まぁいい。今は作戦に集中しろ」
「あいあい」
セイタたちの知らぬ場所、知らぬ時。
しかし、いつの間にか関わり合い。もしかすると……。
この先に何が待ち受けているのかも、知る人はこの世で二人だけである。
どうも、深夜翔です。
皆さんも、ついやりすぎちゃうことってありますよね。
セイタの勘違いによって、跡形もなく消し炭になった蜂の巣。アルゴートさんに怒られつつも、これでようやく安心して移動を続けられます。
……怪しい思惑が動いている気がしますが、今はまだ。
次回、一難去ってまた一難。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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ではまた次回……さらば!




