一撃駆除
「でっっっっっっかっ!!なんだこれ?!」
「うぇー、大きすぎるよー!!」
森を抜けても変わらない羽音。木に覆われていない広々とした青空も、今は異物の存在感で狭く感じる。
「こ、これって……」
「ん、どうみても……」
見上げなければ全体を視界に収めることが出来ない巨大なそれ。
「蜂の巣……だよね?」
「まちがい、ない」
「キィ?」
その平原の中央に作られた巨大なイモータルビーの巣は、倒しても倒しても無限に湧き出るに相応しい、異常なまでに発達したものだった。
まるで入道雲。自分たちと同じくらいの大きさのイモータルビーが、少なく見積もっても数万はいるだろう。この世界で見た一番大きい建物、ライードの王城よりも遥かに大きい。
「蜂の巣……ってか、蜂の城って感じだな」
「入ろうと思えば僕達も入れそうですね」
「絶対入らないよ!!!辞めてよセイタ!」
散々蜂を見たあとでのこれは、さすがに少し気持ちが悪い。蜂特有の羽音が、僕たちの背筋を凍らせる。
耳元を虫が通った時のブーンという音が、耳に張り付いて鳥肌を促す。蜂が嫌いな人からすれば、トラウマどころか気絶するだろう。
(僕らも色々な意味で嫌いだけど)
とはいえ、後ろからの追っ手がある以上はここで立ち止まれない。
「……でも、こんな平原のど真ん中にこんなもの、被害が出そうだよね」
「確かにな。見たところ町や村なんかは無さそうだが、こうして森からの出口の目の前となれば、通行人はいるだろうし」
「駆除……しときません?」
「したいのは山々だが、できるのか?こんな巨大な代物を」
煙を炊いて弱らせることはできる。
けど、この距離で巣からいっせいに出てこられたら対処しきれない。命を危険を負ってまで駆使したくはない。
「安全な策があれば、是非とも駆除したいとこだな」
「安全に、煙以外で……か」
思いついたのは氷。素を丸ごと凍らせることが出来れば、中の蜂たちは仮死状態になるのではないかと。しかしそれには、大規模な魔法の行使が求められる。
今、この場にいる4人の中で、氷属性の魔法を使えるのはただ一人。
「ニア、あの巣を凍らせるだけの魔法って使える?」
「えっ、わ、私?!えっと……あるにはあるけど、魔力制御問題とか、そもそも魔力が足りなくて」
「つまり方法はある……ってこと?」
「……まぁ、一応?」
ここで振られると思っていなかったようで、自信なさげに答えたニア。かなり無茶を言っているのは重々承知だ。心配になるのが当たり前。
「ナツ、頼んでもいい?」
「……ん、いけ……る」
「魔力は僕のを使って」
でも、そこは心配しなくても大丈夫な問題。
魔力制御に長けたナツに、アルゴートさんが驚くほどの魔力を持つ僕がいる。魔法が発動さえしてしまえば、ナツの魔力制御の範囲内。
僕の魔力も、こういうところでしか使い道が無いから、出番がある時は遠慮なく使って貰いたい。
「"魔力仲介"」
片手で手綱を握りつつ、もう片方をナツに差し出す。ナツの柔らかい手がゆっくりと僕の手を握り、もう片方をニアの手に繋ぐ。
あとはナツの領分。僕はただ、手を握られながら馬車を危険なく走らせ続けるだけ。
そして、
「邪魔はさせない。"迅速なる弾丸"!!」
ナツの集中を阻害する害虫共の排除。僕たちに気がついて向かってくる魔物は即座に撃ち落とし、背後から追ってくる奴らは……、こうする。
丸く灰色の球体。その上に刺さっているピンを外し、馬車の後ろへと放り投げる。
その球体は綺麗な放物線を描きながら宙を舞い、馬車の移動も相まって20メートルほど後ろに落ち……
ズドンッ
大爆発した。
かなりの爆風が後ろから迫るも、この距離であれば感じるのは少しの熱風のみ。けれども、この馬車を追って同じく20メートル後ろで追っていた蜂たちはその爆発を直撃に受けた。
煙が晴れて見えてくるのは、丸焦げの死体。
「うへぇ、なんだあれ」
「火薬球です。火薬と着火剤が内部で簡単な仕切りによって分けられてるんです。外したピンは球そのものに付与した"固定化"の付与を外すもので、外側から衝撃を加えると中の仕切りが割れてドカンです」
「怖いもん隠してんな」
「森で使うと色々巻き込む可能性がありましたから」
「誤爆させるなよ?」
「そのための安全ピンですよ」
ちなみに……、と。
異空間収納ボックスから先程と同じものを取り出す。
「試作品ですが、三十くらい残ってます」
「……へー、いいぜ」
「使い方は分かりますよね」
「俺を誰だと思ってやがる」
馬車の先頭で悪い顔をする二人。
この数時間、無駄な緊張感と、追われるという緊迫感。さらには大量の襲撃。平然と構えていてが、実は結構うんざりしていた。
「害虫駆除だ。遠慮なく」
「遠慮なんて無用です。相手は害虫ですから」
次々と追ってくる蜂に、悪役的な笑顔を振りまいて、手に持ったその凶器を放り投げる。
結果は先に述べた通り。数十匹の蜂共が灰になって消える。
「これは爽快。ストレス解消だな!!」
「まだまだ来ますよ!」
若干キャラが崩壊してきているが、そんな事はどうでもよかろうなのだ。
「……にぃ」
「了解」
その爆弾投下も、妹の短い一言で即座に切り替える。準備が整った。僕はナツが最もベストな攻撃を行える場所へ導くのみ。
身体が自然と動く。
「今!」
「ニアっ」
「うん!行くよーーー!"絶対零度・九式"!!!」
それは上級広域魔法の重ねがけ。九つの上級魔法陣が大きな巣を囲うように展開される。
ただでさえ魔力消費の激しい上級魔法だ。
九つ同時となれば、確かに魔力も制御能力も高度。まだ十代の子供が扱える代物じゃない。
「"魔力操作"、"魔力強化"、"合成・完成体」
ニアの制御から外れた魔法は、ナツがその能力を以て強化し、振るう。
――ピシッ。
空間そのものが凍りついたような錯覚。
急激な気温の低下による白い煙が辺りを覆い尽くす。
「は、ははは……こりゃすげぇ」
「綺麗……」
再び視界が晴れた時、そこには美しく輝きを放つ氷のお城が、天高くそびえ立っていた。
どうも、深夜翔です。
巨大な蜂、それだけで不思議と背筋が震えます。
そんな蜂が大量に住まう蜂の巣、それも城レベルの大きさ。
森の中で散々苦労させられたセイタ達は、盛大に駆除する方針を立てました。
次回は駆除のお話です。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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ではまた次回……さらば!




