しつこいお客
大量の蜂型の魔物に囲まれて。無限に湧き出てくるその姿にいよいよ蜂蜜まで嫌いになりそうだ。
……この世界に蜂蜜ってあるのかな。
って違う!今はこの状況を突破する手段を考えなければ。殺虫剤みたいな物を用意しておけば良かったんだけど。
「殺虫剤か……」
そういえば聞いたことがあった。
木を燃やしてできる炭から出る煙は、虫の嫌いな成分が含まれているとか。
「アルゴートさん!どこでもいいので、木を一本切ってください!」
「木?分かった!」
イモータルビーの攻撃を捌きつつ、アルゴートさんは器用にも僕のすぐ横の木を切り倒してくれた。
「"燃焼"」
すかさず倒れた木に向かって火の魔法を放つ。葉に燃え移った火は、あっという間に木全体に広がり、その火力を増していく。
「ナツ、火の調整お願い」
「まかせ……て」
森火事になってはならない。この地域の生態系に大きな影響を及ぼしてしまうから。
今大事なのは"火"ではなく、木が炭になって発生する"煙"の方。この煙には、蜂が嫌がる成分が含まれていると何かで聞いたことがあった。確証は無いし、半分運な賭け。
今見えている蜂を倒して、増援が来なければ……
「"迅速なる弾丸"!とは言っても、今いる数もかなり多いんだけど」
それでも終わりが見えるだけマシ。不確定な賭けだけれど、心なしかイモータルビーたちの動きが鈍っている。偶然他の要因によって弱っただけかもしれないけど、どちらにせよ状況が大きく変わった。
「たたみかけるぞ!」
アルゴートさんの掛け声と共に、残った敵の掃討が始まった。
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「いやー、大変だったね」
「おいおい、大変なのはこっからだぜ。なにせ……」
アルゴートさんの視線の先に、僕らも釣られて頭を動かす。そこには溜息をつきたくなるほど、大量のそれら。
「こいつらの後処理も、倒した者の責任ってやつだ」
そう。イモータルビーの大量の死骸。魔物であっても生き物であることに変わりなく、倒せば当然死骸が出てくる。
たしかに数体であれば、放置していてもそのうち自然に還元される。自然の循環といってもいい。
けれど、今目の前にあるのは数百はくだらない大量の死骸。
「うぅ……、あんまり触りたくない」
「ま、まだ動物系で無かっただけマシだと思おう?」
「そーだけどぉ!」
蜂はいわゆる昆虫。
動物型の魔物であれば、肉、皮、血液、内蔵など、処理しなければならない部位が大量に出てくる。しかし、昆虫にはそれらが限りなく少ない。身体の構成はほとんどが外骨格で、中は思っているよりスカスカ。
代わりに魔力を伝える特別な神経と、魔力を生み出すための魔石、魔力を受け取って動く少量の筋肉。そして見た目を形づくる外骨格に、魔石で魔力を生み出すのに必要な栄養素を運搬する、血液が流れる管。
人間が嫌がるのはその見た目と緑色の血液くらい。
内蔵がほとんどなく、血管とそれを支える筋肉を除けば、中身は空洞だらけ。処理はだいぶ楽な方だ。
「特に必要な素材がなければ、一箇所にまとめて燃やそうか」
昆虫型の魔物の利点。外骨格が燃えやすく後処理が簡単なこと。内蔵がなく、血液も無臭なため、燃やしても害が全くない。
……倒しても大した素材が得られない事を除けば、利点しかないと言える。
「煙が消える前に移動したいね」
「……てき、の……はんのうは無い、よ?」
「キィィ!」
「今のうちに行こう」
万が一に備えて、火が森の木々に燃え移らないように結界だけ張っておいた。
この森は数キロに及んで広がる巨大な森。
馬車で抜けるには4時間はかかる。
およそ3時間以上もの足止めを食らい、森も四分の三くらいまで来て、時刻は昼の1時をすぎた(たぶん)。
序盤にあれだけ不運を受けたのだから、後半は順調に……なんて、世の中そんなに甘くはない。
「また増えたよぉーーー!!」
「……にぃ、もっと、いそいで」
「それは馬が過労死しちゃうよっ!!も、もう少し、労ってあげてっ!!」
現在、イモータルビーとの逃走劇を繰り広げている真っ最中。倒して逃げれたんだよねって?
上手く逃げれたからと言って、再度見つからないなんて保証は無いんだ。うん。自然の生きものを甘く見てはいけない。
「止まったら終わりだぞ!あいつらめっちゃ怒ってるからな。たぶん巣が近いんだろ」
「冷静に分析してる場合ですか?!」
不幸中の幸い、追っては馬車の後ろだけ。
これなら倒すより走り続けた方が安全に森を抜けられる。一度でもそう考えたのが間違いだった。
あまりにしつこい彼らは、百メートル進む事に二十匹は増えていく。数は正確じゃないけれど、体感そのくらいたくさん増えていくのだ。
「ナツ……むし、きらい……」
ナツがトラウマになってしまった。僕もしばらく黄色と黒の縞模様は見たくない。
「もうすぐ森の出口だろ!あと少し踏ん張れ!」
タッタッタッと馬車が地面を蹴る音が微かに聞こえる。うるさい羽音に奥行きが生まれる。音が広がったということは……
「セイタ!出口だよ!!」
出口が近い証拠。
「見えたっ」
白く輝く光の先を駆け抜けて――
「ようやく森を抜け……た…………のか……?」
一連の騒動の原因であろうそれが、眼前に広がっていた。
どうも、深夜翔です。
皆さんは虫、お好きですか。
私は昔は好きでしたが、今では年中家に引きこもっていたい私からして、最大の敵へと変貌しました。
今回、セイタ達も虫の厄介さを身に染みて経験したことでしょう。相当なトラウマを覚えたに違いありません。
……さて、そんな彼らが森をぬけた先で見たものとは?
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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ではまた次回……さらば!




