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街の小さなアイテム屋さん  作者: 深夜翔
第一章 : 街の小さなアイテム屋さん
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信頼の形

「いらっしゃいま……あっ、先日の」


「先日はお世話になった。あの後貰ったレシピを元に、色々と試行錯誤してな」

「満足いくものはできましたか」


 私は、先日この店で購入したレシピを読み、お嬢様に食べてもらうため慣れない料理に挑戦した。王城に勤める兵士や料理人からは、珍しいものを見る目で見られたものだが…お嬢様の笑顔には変えられない。


 何度も失敗し、それでも諦めずに挑戦し続けた結果。ついに目的のたい焼きを作る事が出来たのだ。


「その…、できたには出来たのだが…」


 応えると共に、白い袋を前に出した。

「何度も試し、食べているうちにどれが正解なのか分からなくなってしまって……。お嬢様には完璧な物を召し上がって頂きたいのだ」


「……それでここまで」

「すまない。他に当てもなく」


 もしも、万が一にも。

 お嬢様に美味しく無いものを差し出してしまったら、まずいです言われてしまったら。


 私は一生立ち直る事が出来ないだろう。

 そのために、こっそりここまで来た。


 しかし…あれだな。

 自分の手作りの物を他人に食べてもらうのは……なかなかに恥ずかしい。それも、失敗している可能性があると思うと余計に。


「ど、どうした?早く受けとってくれ」

 私が前に出した手と、その袋がそのままで。

 少年は何故か袋を受け取らずに固まっている。


「なんだ…まさか既にどこか違うというのか」

「いえ、そうではなくて…」


 すると、少年の目線が私ではなくその後ろに向いている事に気がついた。


「その役目は、彼女にして貰ってはいかがですか?」

私は首を傾げて背後に目を向ける。


「…………」


 ショーウィンドウから覗く者と目が合った。

 合った瞬間、私は入り口に走り出した。


「あ、アヤメ様っ!!」

 王城にいるはずのお嬢様が、何故か店の前で泣いていらっしゃったのです。


ーーーーーーーーーーーーーー


「な、どうしてここに…」

 困惑の色を隠せない私は、動揺したままアヤメ様のおそばに駆け寄った。


「ミオンのバカっ!!長く離れていて……私に飽きてしまったのですね……」

「そんなことはありませんっ!私は…その」


 どうやら王城から後をつけられていたらしい。騎士団長でもある私が気が付かない尾行…さすがです。


「ぐすっ……捨てられてしまいました……」


「違っ……」

 泣き出してしまうお嬢様に戸惑っていると、店の中から少年が。


「お取り込み中すみません。日が落ちてかなり冷えこんでいるので……中にどうぞ」

 詮索しないでくれるその気遣いに、感謝しなくてはならない。


「えっと…王女様……ですよね?騎士さんは王女様の笑顔が見たくて頑張っていたようですから、あまり無下にはしないであげて下さい」


 扉を開けたまま、少年はそう言い残して室内に戻っていく。それと同時に、私は手に持った袋の存在を思い出す。


「そ、その……これを」

「これは?」


「私が作ったたい焼き…です。お嬢様に差し上げようとこっそり。完成はしたのですが、少し不安で…。あの少年に感想を聞こうと」


 やはり中途半端な品をお嬢様に差し上げる訳にはいかない。前に出した袋をゆっくり引こうとする。


「戴きます!今すぐっ」


 引いた腕をお嬢様が強く握り返し、笑いながら袋を受け取ってくれた。ゆっくりと袋を開け、中に入った冷たいたい焼きを掴み、そのまま口元に。


 ドクドクと心臓の音が鳴り止まない。恥ずかしさも緊張の前には無力。今すぐこの場から逃げたくなる衝動を抑えて、自分の作ったたい焼きが、愛するお嬢様の口へと運ばれていくのを見届ける。


「ど、どうでしょう……か」


 一口食べたお嬢様。

 やはり美味しく無かった……


「美味しいです、美味しいですよミオン」

「!!!」


 その言葉が、私の緊張を振りほどく。


「本当は、もっと温かいものを食べさせて上げたかったんです」

「いいえ、これです。これが良かったです」


 嬉しさと、お嬢様を心配させてしまった罪悪感。

 何より泣かせてしまった自分自身を殴りたい気持ちでいっぱいではあったが、何よりもすべき事がある。


「アヤメ様、ここでは風邪をひいてしまいますから。少年のご好意に預かって室内に」

「はい!」

 お嬢様の安全と健康が第一なんだ。



「ご、ごめんなさい…早とちりでとんだ誤解を」

「仲直りできたみたいで、良かったです」


 お嬢様は丁寧に謝罪の言葉を申し上げた…が、店内に並べられた数々の道具やアイテムに興味深々の様子。無論、私も気になる物は沢山ある。


 が、店内の雰囲気と、時間帯を考えると既に閉店時間ギリギリのはず。王国の騎士として、これ以上少年に迷惑をかける訳にはいかない。


「アヤメ様。あまり長居されてはご迷惑になるかと」

「そうですね……私たちの事情に巻き込んでしまいましたし」

「大丈夫です。僕達も、今日はやる事無いですから」

「何から何まですまない。感謝する……」


 少年の申し出に再度感謝したところで、遅れたように疑問が頭をよぎる。

 今、少年は"僕達"と言った…ような?

 ここには私とお嬢様と少年だけ、のはず。


「しょ、少年……たちとは一体」

「ん……ふぁ……、にぃ……おはよ」


 質問が帰ってくる前に、全ての疑問は解消される。

 そしてお嬢様と二人、大いに驚くことになった。

どうも、深夜翔です。

共に愛する騎士と姫。

百合です。

てぇてぇです。

あっ、挟まろうとする人は、容赦なく怒りの鉄槌が振り下ろされますよ?

今回は修羅場になりかける騎士様と王女の話でした。

仲直りできた2人。次は兄妹と二人が出会う…?


ここまで読んでくださってありがとうございます。

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Twitter(@Randy_sinyasho)もやっているので、気に入って頂けたらフォローをよろしくお願いします。


ではまた次回……さらば!

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