問題は次々と
「もう行っちまうのか。少々忙しないが、気をつけてな!君たちの旅が良いものになるよう願っとくぜ!」
「娘の恩人ですから、またいつでも来てください。私達も村総出でおもてなしさせていただきます」
「お姉ちゃん、お兄ちゃん、またね!連れて来てくれてありがとう!」
太陽も本格的に顔を出し、たくさんの生き物が朝が来たと動き始める時間。村の入口に用意してあった馬車へと乗り込み、僕達はエウター村を出発する。
フィルニスタさんやフィア、シイアさんがわざわざここまで足を運んでくれた。たった数日の関わりだったけれど、ここで得た情報や築いた関係は大きい。きっとまた、この村に来ることがあるだろう。
その時は、もう少しお話できたらいいなと思う。
「なんだかすみません、こんな朝早く」
「そんなこと気にしてたのか!!君らは恩人だけじゃない、もう俺たちの仲間だ!送り出すのは当然だろ。またいつでも歓迎するぜ!次はもっと酒も用意しておく」
「そ、それは勘弁して欲しいな……。俺はまだ二日酔いで……うっ、頭が」
「わははははっ!その程度で二日酔いとは困るな!」
笑顔な1家に対し、アルゴートさんは青い顔で頭を抑えている。昨夜は結局遅くまでフィルニスタさんに付き合ってお酒を飲んでいた様子。後で酔いに効く薬を調合してあげた方が良さそうだ。
「うぅ……、じゃぁねぇーフィアちゃんっ!絶対また来るよぉーー!!ぐすっ」
「お、お姉ちゃんそんなに泣かないで」
ニアは随分フィアと仲良くなり、今ではどちらが年上か分かったものでは無い。笑顔で見送りに来てくれたフィアは、別れに大泣きのニアの手を握ってあげる。
まるで一生の別れのようだけど、そんなことは無い。一度北へ逸れる以上、もう一度ここを通ることは確定なのだから。
一応、そのことは昨日のうちにニアに伝えたはずなんだけどな……。
「それじゃあ、ありがとうございました。また来ます」
「おう、気をつけろよ!」
目指すは北の街、シェージアリアだ!
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砂漠の道が過酷であった引き換えに、エウター村から続く平原は平穏そのものだった。晴れた空、滑らかな大地、草木の生い茂る緑豊かな行き先。爽やかな風が葉や花をゆったりと揺らしている。
先日までの砂漠の日々が嘘のようにまったりとした時間。強いて悪い所をあげるならば……
「あ、暑い……」
とにかく暑い。砂漠が近い事が影響しているからだろう。雲ひとつない青空は、照りつける太陽の日差しを余すとこなく僕らへ届けている。
ようやく暑さから解放されると思っていた僕らは、その暑さに早くも音を上げていた。
「セイター、なんか涼しくなる道具ない?」
馬車の中央で大の字になり、ぐったりするニア。
日頃のナツを彷彿とさせる。
「んー、一応あるにはあるんだけど……。たくさん水を使うから」
「……にぃ、ここ、砂漠じゃ……ない」
「あ、そっか」
水が大事すぎた砂漠の感覚が未だ抜けきっていない。なるべく水を温存しようという思考が頭の中に居座っていた。
ナツの一言でここが川の近くなのを思い出し、ならば魔道具も使えるというもの。
「ナツ、これを奥のボトルのキャップに付けてくれる?」
「ら……じゃー」
僕が渡したのは、小さい球型の魔道具。
底にペットボトルキャップと似たような窪みがあり、水を貯めておく魔道具のボトルの蓋に上手く取り付けられるようになっている。
回して取り付け、上面に浮かぶボタンを押す。
「わっ!なにこれ?!」
「へー、ミストか。しかもかなり冷えてる」
「容器の冷却機能を利用しているんです。水魔法を使って細かく分解された水蒸気を、圧力と魔力を使って噴射してます」
正確には、噴射される領域を半径2メートルに限定して、その領域内を適度な空気の隙間を空けて水蒸気が漂い続ける。しかも、ある程度水蒸気の温度が下がると、取り付けた球の魔道具が水を吸収して再び冷やす。
十割再利用とはいかないけれど、貴重な水を新鮮かつ冷水として保ったまま長時間の利用が見込める。
初めは砂漠を超えるために作ったものだったけれど、水が想定より貴重になってしまったため使わなかった。
それがここに来て活躍。
制作者としては少し嬉しい。
こうして快適度が少しだけ向上し、爽やかな道のりを楽しく進む。シェージアリアまでの道のりは順調……、とはいかないらしい。
「セイタ!左から3体追加!」
「……にぃ」
「了解。"迅速なる弾丸"!」
砂漠から離れた森の入口。
ここには凶暴な蜂型の魔物が多く生息している、らしい。僕達も知らなかった。
ならどうして分かるか。それは、大量のイモータルビーから絶賛襲撃中なため。縄張りに入ってしまったのが運の尽きとも言える。
けれどどこにもそんな情報は無く、さらにはここまで一本道を走らせていただけなのだから、回避しろと言う方が無理である。
「キィーー!」
「まだ来るの?!」
「キリ!もう少しだけ探索お願い」
「キィーキィ!」
このイモータルビーの厄介なところは二つ。
一つは蜂型であるから分かる通り、刺されれば即死級の毒を持っていること。
そして、現在苦戦を強いられる最もな理由が二つ目。"イモータル"、つまり不死者。
その名が付けられたのは、彼らの習性にある。
彼らは自身の生命が途絶えると同時に、特別な物質を辺りに撒き散らす。それが新たな仲間を呼び、倒せば増え、待っていても増える。永遠と思えるほどの戦闘を繰り返す羽目になるのだ。
それはまるで不死身の魔物と戦っているよう。
「"風刃獄"っ。セイタ、このままじゃキリがない。引き返して迂回した方がいいぞ」
「馬車を回転させるのは大変です!どうにかこのまま押し切れませんか!」
「んな無茶な」
引き返せるならば引き返したい。しかし、この細い森の道で、襲撃を抑えならが馬車の向きを変えるのは至難の業。
「"氷結"!」
「にぃ、……あれ」
「ま、また追加?!」
一息つく暇もない。ただでさえ長時間の戦闘に、一撃も受けてはならないという緊張感が、僕らの集中力を削っていく。
このままではジリ貧だと、誰にでも分かる。
(どうにかこの状況を突破しないと)
僕は戦いながら、今ある手段で突破できるものがないか、探し始める。
どうも、深夜翔です。
異世界の旅に、順調は早々起こりえません。
何せ、どこに何がいて、どんな危険があるのか。それは、実際に行ってみなければ分からないのですから。
注意書きも舗装された道路も、安全な移動も、保証などされていません。
果たしてセイタたちは、この危機を乗り越えられるのか。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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ではまた次回……さらば!




