超えた先に
「おぉ、本当に見えねぇ」
「フィアの伝承通りなら、神の使いに"導かれ"ないといけないみたいです。今は砂漠を抜けることが目的ですし、あの泉に入る条件が整っていないってことですね」
例の泉を出て、1番手前にあった砂の丘を登って振り返る。確かにさっきまで存在したはずのオアシスは、影も形もない、ただの広い砂漠となっていた。
見えないのではい。まるで元々そこには何も無かったように、存在を関連付けるものは何も残っていない。
「訪れた人がいたとしても、これじゃあ夢だと勘違いしそうだ」
伝説や伝承しか残っていないのには、様々な要因が考えられるが、これもその要因の1つだろう。
「夢じゃないよ!!私が確かに生きてるんだもん!」
「……たとえ、ばなし」
「そ、そうだけど!」
助けられたのに夢だと片付けるのは、助けてくれた神様に対する冒涜というもの。特に、神様や仏様といった姿の見えない最高存在は、人々が覚えていないと消えてしまうと聞いたことがある。
忘れられて消えてしまう。どれだけ苦しいことか。
「うん。僕達は覚えてる。忘れないで、感謝し続けよう?きっとそれが、恩返しになる」
「だよね!私、絶対忘れない!」
彼女は、きっと救われるだけの存在では無い。ただ救いを待ち、独りよがりに生きることはしない。
僕と違って真っ当に優しく生きてくれるだろう。いつか神様だって救えるかもしれない。……ナツが笑って生きていける世界には、彼女のような存在が必要だ。
「よーし!!早く進もう!」
元気な掛け声と共に、馬車は東へと走り出した。
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「アルゴートさん、エウター村……というのは、本当にここで合ってるのでしょうか」
約二週間の道のりを超え、ようやく砂漠をぬけた。砂まみれの大地から一転、川や森に囲まれた豊かな大地が広がっていた。その一角に、目指していたエウター村がある。
「あ、あぁ。記憶通り、砂漠を抜けてすぐ目の前。魔族の住む村。ちょいと特殊な建物……。間違いないはずだが」
竜巻が直撃し被害も甚大。魔族という気難しい種族の集まり。フィアのためとはいえ、いくらかの覚悟はしていたのだけど。
「お父さん!!お母さん!」
フィアが嬉しそうに駆け出す。お父さんと呼ばれた男性は、大きく立派な黒い角を持った優しそうな魔族。お母さんの方はニコニコとおしとやかで、これまた優しそうな……人。
「竜巻が直撃した……んですよね?」
「そ、そのはずだ。でなければ、こんなデカい溝が村の真ん中を抉っているのはおかしい」
「で、ですよね……。でも」
「あぁ、言いたいことは分かるぜセイタ」
僕らが動揺している理由。
それは、自然災害に巻き込まれたはずのエウター村は、何事も無かったかのように活発な村として機能していたこと。目の前で行われる当たり前の光景に、驚かざるを得なかった。
「おぉ!君たちが娘を助けてくれた恩人だな!父親として、村を上げて感謝する。娘をあの竜巻から逃がすには、ああするしか無かった。無事に遅れ届けてくれたこと、感謝してもしきれない」
「い、いえ。みなさんも無事で何より……です」
「助けられなかった同族の者達の弔いもしてくれたと聞く。俺たちも直ぐに助けに行きたかったんだが、何せ見ての通り村の復旧に忙しくてな」
「は、はい。見ての通り?」
見た限りでは、とても竜巻が直撃したとは思えないけど……。もしかしたら裏で一生懸命建て直しているのかも。
「僕たち、様々なアイテムを移動販売しているのですが、よろしければ復旧作業を手伝わせていただけませんか?」
「本当か?!それは助かる。何せ家を吹き飛ばされちまって、細々した生活用品や食料の調達まで手が回っていなかったところだ」
「えっと、建物の方の被害は……」
「そこは問題ない!家程度、一日もあれば数件は建て直せるからな。道の整備も、あの竜巻のせいで地形が丸ごと変わっちまったが、これはこれで風情があっていいだろう!」
心配し過ぎていた。いや、甘く見ていたと言う方が正しいのかもしれない。魔族である彼らは、もとより人間よりハイスペックな種族。たかが自然災害程度で全滅するようなやわな存在ではなかった。
しかし、物資が足りないとなれば、それこそ僕ら本来の領分といえる。ここに来るまでに飲水は消費してしまったものの、売るために持ってきたあれこれは残っている。
「まずは、商品を見ていってください!」
人手の足りない場所の手伝いをしながら、交代で販売を始めた。
「んじゃ、君らは謎の能力者って奴の情報を探してるわけか」
「はい。何か知りませんか?」
「いやぁ、聞いたことねぇな。あるすてっど教?つでのも今初めて聞いた。力になれなくてすまん」
「いえ!そんなっ。こちらこそ、お忙しいときに聞いてしまってすみません」
魔法によって大量の木材がいっせいに組み立てられていく様は圧巻。たった一人でも数分で家の形が出来上がっていくのだから、数人いればあっという間に終わるだろう。何より、これだけ精密な魔力操作を行える魔族は、やはり人間とは違うと実感する。
僕は使う木材を近くまで運びながら、フィアの父親、フィルニスタさんと話をしていた。僕たちの本来の目的、アルステッド今日の及び未知の能力者について。
「あぁ、そういや1つだけ噂を聞いたことがあるな」
「噂?」
「なんでも、こことはやや反対のエンダルキア山脈に住む古龍は、俺ら魔族が使う魔法とは違った技……能力っていうのか?を、使うらしい。真偽は不明、古龍独自の魔法の可能性もある。ま、何より古龍に挑むため山脈に入ろうなんて物好きはいない。真相は山の中ってな」
「古龍が……、初めて知りました」
「もし会う機会があれば、聞いてみるといいさ。って、古龍なんかと出会った日には、その日が人生最後の日だが」
そう言って冗談交じりに笑うフィルニスタさん。
エンダルキア山脈、来た道を戻るのは効率が悪い。どうせなら、砂漠に沿うようにして村か街を探した方がいいかな。
どうも、深夜翔です。
予想とは裏切られる。予想外が想定通り。
魔族の村はセイタの思っていた以上に強靭でした。とは言っても助け合いは大切。完璧な生命などいない。
彼らはセイタの申し出をありがたく受けた。
次回は、復旧中の村で一日過ごします。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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ではまた次回……さらば!




