砂漠越え⑥
「うぅ……」
「お姉さんっ!」
「あ、はは……、大丈夫、だよ。たぶ……ん」
「無理して喋るな!!身体もあまり動かすなよ!毒の周りが早くなる」
「水辺、水があれば……、頑張ってニア!」
僕達は砂漠の中を必死に走り回っていた。探しているのは水辺、オワシス。新鮮で綺麗な水を求めて。
「ナツ、解毒薬は?」
「……あと、ちょっと」
馬車の中で倒れているのがニア。絶賛命の危機に見舞われていた。どうしてこうなったのかについては、少し時を遡る必要がある。
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数時間前。
今日も今日とて乾いた砂漠をひたすら走り続け、太陽の日差しと日中と朝晩の気温差に耐えながらも、それなりに順調に進んでいたのだ。しかし、
「この辺りは高低差が結構あるね。足元を硬化させて移動しているとは言っても、この坂を登るのは難しい」
「一度降りて、後ろから押してみるか」
「お願いします」
砂漠にも高低差はあり、一面が砂で覆われている関係上、舗装された道よりも遥かに厄介。踏ん張りが聞かないから、下手に坂を登ろうとすると砂に足を取られて落ちる。
ここまでは馬の足と馬車のタイヤに砂を固める硬化魔法を付与して移動してこれたものの、高低差のある坂ではそうもいかなかい。足元だけ硬化させたところで、重みで下から崩れていくから。
そんなわけで、フィアとナツ、小鳥たちを馬車におおて、残りで馬車を押すことになった。
「ニア、僕ら二人で押すから、馬車にいてもいいんだよ?」
「大丈夫!!私、これでも力持ちなんだよ!」
女子だからって負けないよ!と、いつも通りの元気で腕をまくってみせたニア。少し申し訳ない気持ちもありつつ、本人がやる気であれば僕が止める意味もない。そう思って笑ったけど、今思えば無理してでもここで止めるべきだった。
「??何か今、あそこの砂動かなかった?」
ここは砂漠。
サンドワームが存在したように、ここには危険で凶暴な生き物魔物が多数生息している。サンドワームはその巨体と感知能力、集団性に秀でた魔物だったがその逆。隠密、小柄な魔物もいる。そして、さらに厄介なのは、そういった魔物は大抵毒を使った対象の弱体化を得意とする。
「ニアっ!避けて!!」
砂の中の正体に気が付き、指示を出した時には遅かった。
「イタっ……、うっ」
砂の中から一匹の黒い影が飛び出し、ニアの足へとそのしっぽの針を突き刺した。
「ちっ、"風刃"」
アルゴートさんの素早い対処で追撃は抑えた。けれど、そこで受けた傷は大きかった。
「エビルスコーピオンだ!早く解毒しろ!死ぬぞっ」
いわゆるサソリ。真っ黒で素早いその魔物は、あのサンドワームですら数分で死に至らしめる程の強力な毒をもつ、殺傷性の高い個体。
「解毒薬は……、あるけどこれじゃ弱いっ」
「それでもいい!毒の周りを抑えられるはずだ」
「ナツ!!」
「これ」
馬車には解毒薬もあった。しかし、販売ように薄めた効果の小さく安いものしか無い。ないよりはマシ……という程度。
「セイタ、もっと効果の強いものは作れないか?」
「材料はほとんどあります。けど、調合に必要な水が……」
「ニアの魔法しかねぇのか……。くそっ、急いで水辺を探すぞ!一気に上まで登る!」
既に砂漠に入る前に補給した水は切れ、朝はニアの水魔法にお世話になったばかり。後でボトルに予備を準備しておこうと思っていた傍で、ニアがやられてしまった。
(油断した……。ここまで何とかなったからと、慢心してした……、僕のミスだ)
とにかくまずは水辺を探す。アルゴートさんと二人で全力で馬車を押し坂を乗り越えると、見える範囲にオワシスが無いことを確認して走り出す。止まっていても、ただ時間だけがすぎていく。
こうして冒頭の状況へと繋がる。
「水……、水」
探しても見つからないこの状況、それに反してみるみる苦しそうになっていくニアの様子に、僕達はかなり焦っていた。
「キィー!!」
「わっ、キリ。どうしたの?」
デザートバードのキリ。目を覚ましたあと、懐いてくれたので名前をつけた。肩に飛び乗ったキリは、必死に何か訴えかける。
「キィ!!キー!!」
「えっ、探してくるの?大丈夫?」
「ピィ!」
まだ幼いこの子には、まだ水魔法を充分に扱うことは出来なかった。けれど、どうやら状況を理解して手助けしてくれるみたい。
「分かった。お願いキリ!」
僕の肩から飛び立つと、キリは俊敏な動きで空を駆けた。もう充分に動けるまで回復したようだ。見つけてもらう間も、僕は僕で、できる限り周囲を探す。魔物相手には無類の強さを誇る魔力探知も、こんな場面では全く役に立たない。……?
「ナツ、さっきのサソリ、魔力探知にかかった?」
「んん、きが……、つかなかった」
あの魔物、探知にかからなかった。そんなはずは……
「エビルスコーピオンは、纏う殻に魔力遮断の効果があって発見しずらい。自然に察知しろって方が難しい魔物だ。あまり気負うなよセイタ、ナツの嬢ちゃん。魔法は便利だが万能じゃない。二人が防げなかったことを攻めるやつは居ない」
そう。結局、魔法に甘えていた。魔法で何とかなると、その考えが浅はかだった。事前に準備をとあれだけ言っておいて、準備不足は僕じゃないか。
苦しむニアの手を必死に握りしめるフィアとナツの表情は辛そうで、心がギュッと痛くなる。
でもまだ。落ち込むのはもっと後でいい。まだ生きている。なら、まだ僕にもやれることがある。やらなければならない事がある。
「僕が諦めてどうするっ!!」
手綱を片手に、もう片方に魔力を込める。濃く、強く、願う。
「"完全回復"」
馬車を覆うようにして、温かな魔力が立ち込める。ただの回復ではなく、他者の魔力に干渉して治癒力を高める魔法領域。それは、生命力の回復。免疫力の向上。
「キィーー!!!」
「キリ!!」
遠くで微かにキリが呼ぶ。きっとオアシスを見つけたのだ。
僕は全魔力を使って、その場所まで駆けた。
どうも、深夜翔です。
なんと、あのニアがピンチ。異世界の砂漠にも、やはり存在した毒を持つ生物。早く解毒する必要のある場面で、そう都合よくない解毒薬。死というタイムリミットがある中、キリの活躍で水辺を発見。果たしてニアは助かるのか…?
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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ではまた次回…さらば!




