砂漠越え⑤
砂漠には危険がたくさんある。水なし、食べ物なし、……魔物あり。
「セイタ!右からでっかいのが来てるよぉ!」
「後ろからも追ってきてるぞ!」
「……ひだりから、も、来てる」
「ひいっ、囲まれてる……よぉ」
「まだ来てるの?!けど止まったら終わっちゃうよ!!」
まさに四面楚歌。立ち止まったら呑まれるも、移動し続ける限り追手は増えるばかりだ。
何に追われてるのかって?
「サンドワーム。一匹居たら20はいると思えって、どっかの騎士団長のお墨付きだぜ!」
「うん、説明ありがとうございますアルゴートさん!でも今では無いですよねっ?!」
「……ゴキぶ」
「ナツっ。それ以上はいけない」
背後には馬車を丸呑みできそうなほど巨大なサンドワームが、既に10体は優に超える。砂の中をうねうねと動き回るそれは、家を徘徊するGと何ら遜色ない。その体に生えた無数のトゲは、砂の中を素早く動くための進化だろう。
謝って縄張りに侵入してしまったのが運の尽き。竜巻という自然災害によって荒らされて、怒りゲージもMAXに近い。
「アルゴートさんっ!!何か策はありませんか?!このままではジリ貧ですっ」
「ふむ。サンドワームは獲物の位置を無数のトゲから伝わる微弱な振動を察知して把握しているとか何とか。空気の振動すらも感じ取れるらしいから、動かず喋らず巣から立ち去れれば」
「冗談言ってる場合ではありませんがっっ」
この状況で馬車を止めれば行き着く先はあれのお腹の中。竜巻の被害にあった村を助ける前に、僕たちがワーム達の食料として食べられるのは勘弁して欲しい。
「待って?空気の振動……」
音に敏感に反応するということは。もしかするとあれが使えるかも?
「ニア!ナツ!荷台の棚に灰色の弾があるはず。それをこっちに持ってきてくれない?」
「灰色の……たま?」
「これ」
ナツが指した四角い箱の中には、大量の緩衝材と共に、伝えた通りのいくつかの灰色の弾がしまわれている。ナツが知っていたのは、作っていた所を見ていたから。
「ありがとう」
「これ、何に使うの?」
「砂漠ってことで、前に少し準備してた魔道具。まだ試作段階だから、上手く作動するか分からないけど……。あ、みんな少し耳を塞いでおいた方がいいよ」
注意喚起も忘れずに。
察しのいい方であれば、何となくわかった人もいるのではないだろうか。砂に潜るモンスターと言えば、弱点は音。その対抗策と言えば……。
「音爆弾。鼓膜を大事にしたければ、全力で塞ぐことをおすすめする」
ここまで頑張って引いてくれている馬たちには、既に耳栓を装着済み。デザートバードの子どもは、アルゴートさんが防音の魔法を使ってくれた。弾の上部に差し込んである安全ピンを抜いて、馬車の後方、サンドワームの大群目掛けて放り投げる。
キーーーーーーーンッッッ
音が消えたと錯覚させるほど大きく甲高い音が、砂漠の中央に鳴り響く。両手でめいっぱい耳を塞いでいても聞こえてくる爆音は、音に敏感なサンドワームにとっては致命傷。音の余波が落ち着いた時には、同じ砂漠とは思えないほど静寂に包まれていた。
「ど、どうなったの?」
「うし、ろ……」
馬車を止めて、音のしなくなった後方に注意を向ける。魔力探知にはかなりの数が引っかかっているが、動いている反応は無い。
「き、気持ち悪い……」
「この数は、私もちょっと」
追ってきていたサンドワームたちは、その巨体を痙攣させて砂の上に横たわっている。音爆弾が直撃したであろう数体は死んでいるが、残こりは微かに生きている。生命力の強さは、砂漠に住む生き物のしぶとさか。それでもまともに動ける個体はゼロ。
こちらがトドメを刺さなくても、このまま干からびて倒せると思われる。
「セイタ、こいつらはどうする?ここに放置しても、そのうち他の魔物に食われる。環境的にはなんら問題ないぜ」
「……アルゴートさんは、どうしたらいいと思いますか」
「俺か?んー、サンドワームはその生息域から分かるように素材が全く出回らない。こんなんでも意外と高級素材でな。出来れば数体は解体して持っていきたい」
「ですね。あのトゲは魔道具の材料にもできそうです。何体か解体していきましょう」
僕らは目の前に転がる素材の一部を、遠慮なく貰っていった。
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「うぅ~、砂漠の夜は冷えるんだね……」
「お姉さん、寒い?」
「お姉さんっ!!!ううん、寒くないよ大丈夫!」
「ニアも案外ちょろいんだな」
弟がいるからだろう。ニアの面倒見はかなりのもので、フィアは1番に彼女に懐いた。なのでフィアの面倒はニアに頼んだ。
逆に、ナツには開幕であんなことをされたせいか、微妙な距離感……というか、恐れているように見える。ナツ自身は気にしていないし、これは明らかにナツが悪いので、僕からは何もしない。
「しっかしまぁ、このアイテムもまた便利なもんだな。保温袋だっけか。焚き火があるにしろ、移動時に手足を温められるのは最高だ。雪山近くの街で売れば、かなり稼げそうだぜ」
「まだ改良中ですけどね。全身を温められる付与をするには、もう少し袋側を工夫する必要があります」
「全身?!そんなことしたら、雪山なんてただの登山じゃねぇか」
「え、永続ではないですよ?」
現在、砂漠の気温は4度近くまで下がっている。アルゴートさんによると、この辺りは氷点下まで下がることも珍しくないらしい。気温差にやられて横断を諦める旅人が多くいるとか。
僕たちが問題なく耐えられているのは、砂漠に入る前に作っておいたアイテムのひとつ、持っているだけで手と足を温めてくれる保温袋のおかげだった。制作には『炎温草』と呼ばれる、刺激を与えると発熱する素材を用いる。ただ、在庫数があまり多くないので、売る際にはもう少し補充しておく必要がある。
「セイター!空みて!空!星が綺麗だよ!」
難しい話は置いておき、ニアはフィアと夜空を眺めてはしゃいでいた。
「うん。雲も人口の光も無い。綺麗な夜空だ」
「……きれい」
あのナツまでもが、空を見上げて頷いている。無数に輝く満天の星の川は、もしかしたらここでしか見れないかもしれない。過酷な環境を生き抜くために与えられた、報酬。カメラがあれば間違いなく写真に収めていた。
「砂漠も案外悪くない……かもね」
この世界に来て何度も感じた感動を、ここでも全身で感じることが出来た。
どうも、深夜翔です。
砂漠といえば砂に潜るモンスター。
音〇弾で地面から出して怯ませた所を攻撃。はい。例のあいつです。ここでは明言しませんが、察しのいい方は気がついたことでしょう。
一つだけ、申すのであれば…、もうすぐですね。サンb
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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ではまた次回……さらば!




