砂漠越え④
「ひでぇなこれ。本当にただの竜巻か?」
アルゴートさんが絶句したように呟く。それほどまでに目の前の惨状は惨憺たる光景だった。
ちょうどこの辺りで竜巻が消えたのか、巻き込まれた家屋や木々、砂やサボテンの残骸があちこちに散らばっている。さらには、竜巻が移動した場所が抉れていて、半径50メートル程の窪みが遥か先まで続いていた。
それだけならば、ただの大きな災害で済んだはずだ。
最も惨いと感じてしまうのは、そんな無機物の被害に隠れて生きた動物や魚、……人の形をした死骸が転がっていること。
こんな惨状は、ナツやフィアには見せられない。馬車で待たせておいて正解だった。
「せめて、僕たちの手で埋葬して弔ってあげましょう。たぶん、巻き込まれたエウター村の人達もいるはずです」
「それがいいか。あの村には何人か顔見知りがいる。生存者を探しつつ、亡くなった人の遺品だけでも回収しておく」
「分かりました。僕も周囲をもう少し探してみます」
すぐ横の森も、今では残骸だらけの平地。なぎ倒された木が、瓦礫の山を風で飛ばされないように必死に受け止めている。本の欠片や料理器具、加工された木材。人の住む地を通過してきたのが見て取れた。
「ぴぃ……」
その時、微かに生き物の鳴き声がして僕は足を止める。かなり近い。それも、下の方。
「ここだっ」
倒木が三本、重なっている中央。巨大な焚き火にも見えるそこは、幸運にも中心を空洞にして外からの瓦礫を防いでいたのだ。
急いで重なった木の隙間をくぐり抜けて中心にたどり着くと、そこにはとある鳥型の魔物の巣が落ちていた。魔物……、と言っても動物とほとんど変わらない、小さな小鳥。いくつか魔法が使えるため、"魔法が使える生き物"に分類されている。
「……生きてるのは一羽だけ、か」
逆さに落ちた巣を持ち上げると、先程聞こえた声の正体がいた。身体の小さい3羽の小鳥と、彼らを守るように羽を広げ、覆いかぶさっていた親鳥1羽。
内2羽は全く動かず、恐らくもう息がない。
しかし、残りの小鳥1羽は、微かに息があった。先程の声は、近くにいた僕の気配を感じて、必死に力を振り絞ったのだろう。親鳥が決死の覚悟で守り抜いた、その尊く小さな命を。
「今助けるからね。……ごめんね、全員助けられなくて」
たった1羽。両手に収まるほどの小さな命。絶対に助けてみせる。
「戻って手当しないと」
息のある1羽を連れて、僕は馬車へと走った。
「ニア!この子の手当、お願い。回復はナツができるから、頼んでもいい?」
馬車で待機中のニアに小鳥を預け、ナツにもお願いを伝える。突然小鳥を渡されたニアは動揺している。ナツは少し間を置いて、変わらない表情で頷いた。
「……もんだい、なし。よゆう」
「え、え?セイタはどこ行くの!」
「その子たちの家族を、あそこに放置は出来ないから。せめて、もう少し落ち着いた場所で寝かさてあげないと」
これ以上、冷たいところで寝かせたくはなかった。
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「ダメだな。生存者はなし。相当遠くまで飛ばされたか……、途中で落下したか。どちらにせよ、この辺りにはもう何も無い」
簡単な埋葬を終えて、遺品と思われる形が残った物も拾い集めた。森と川が見える平原の片隅に、身元も分からないお墓がいくつも立ち並ぶ景色は、被害の大きさを改めて思い知ることになった。
「一つ気になることといえば、思ったよりも死体が少なかったことだ。俺の記憶じゃ、エウター村はかなりの魔族が住む大きい村だった。もしかすると」
アルゴートさんが期待したいことは分かる。
「もしかすると、生存者がいるかも……ってことですね」
「あぁ。フィアの嬢ちゃんが言ってたように、魔族は魔法の扱いに長けた、身体能力も高い種族だ。竜巻から無事に離脱する術を持っていてもおかしくは無い」
現時点では希望的観測でしかない。けれど、それを否定する証拠もない。となれば、今進むべき場所はひとつ。
「竜巻の順路を使って、エウター村まで行きましょう。ここに長く留まっていても意味がありません」
地図もコンパスも用意はあるが、幸いここには一直線に目的地へ迎える通路ができていた。馬車を使えば2日もあれば砂漠を抜けられるに違いない。
馬車に戻った僕達は、抉れた通路を使ってすぐさま東へと走り出した。
「へー、デザートバードか。珍しいな」
馬車内では、ニアとナツのおかげで一命を取り留めた子鳥がすやすやと眠っていた。アルゴートさんはこの魔物について知っているらしく、僕はその話を黙って聞いていた。
「デザートバードってのは、森に住む鳥の亜種的存在だ。普通、生き物は住みにくい環境を避けて生活するが、このデザートバードは砂漠で生きる術を自然に身につけた。主食はサボテンだが、時にはサソリや蛇系統の魔物を殺して喰らうこともあるらしい」
「肉食……ってことですか?」
「はははっ、人間は襲わねぇし食べねーよ。そもそも、母数が限りなく少ない個体故に、食べるものにも困らない。ひとつ言うなれば、砂漠において最強の魔法が使えるってことくらいか」
この広い砂漠で生き抜くには、それなりの強さと知恵が必要。過酷な環境で生存するために必要な"最強の魔法"……
「水系統の魔法ですか?」
「正解。こいつらは、生きるために必要な水を、自給自足する高い知能と魔力をもつ。ついでに、高個体になれば砂を操る特殊な魔法も使えるらしいぜ」
生きるために進化した、彼ら独自の力。この子どもを助けた親鳥は、多分その高個体だったんだと思う。竜巻に巻き込まれて助かった理由も、何故か生息圏から離れた場所にいた理由にも説明が着いた。
けれど、これからどうしてあげるのが正解なのかは分からない。自然に帰してあげるべきだろうか。でも、大人ならともかく子供ではこの過酷な環境に耐えられない。けれどら面倒を見るには些か食事が特殊……
「あぁ、ちなみになんだが。こういった珍しい個体の動物はな、大抵なんでも食べる。難しい顔をしなくても、思う存分助けてやれよ」
どうやら、アルゴートさんには全ておみとおしだったようだ。
どうも、深夜翔です。
災害の被害は、どんな状況でも辛いものがあります。
どうすることも出来ない理不尽が、そこにはあるのですから。
それでも、彼らはできることを可能な限り行おうとしました。結果、救えた小さき命があったのです。次回は砂漠の移動と戦闘もあり…?
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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ではまた次回……さらば!




