砂漠越え③
ちゅんちゅんと、森に住まう小鳥たちがさえずる。
――あぁ、もう朝だ。
森に隣接した平原で野営していた僕は、朝早くに目が覚める。普段からの慣れは、どんな状況になろうと変わらないらしい。
「……ナツ、少し離れてね」
いつものごとく、いつの間にかに僕の寝床に潜り込んでいたナツの手をどけて、起こさないように慎重にテントを出る。
空は薄らと青みがかかり、地平線の向こうで太陽が出発の準備を整えているのが分かる。砂漠の近くといえど、朝は少し冷える。
砂漠の夜は特に冷えるというが、隣接しているだけではさほど影響は無かった。こうして熟睡できたのが何よりの証拠だろう。
「んーーっ。朝食の準備には少し早いかな。軽く運動しよう」
この旅を初めてからというもの、少しづつ剣の素振りを日課としている。たしかに、魔法を使えばかなり動ける。しかし、与えられた能力に頼りきっていては、いつか足元をすくわれる。ナツと平和に暮らすためには、相応の努力もしておくべきだと。
「とは言っても、見様見真似でじゃ限界がある……よね」
現在の仲間内では、剣を扱う人がいない。
魔法に関しては皆強い。
けれど、剣を教えられる人はいないため、僕は知り合いの中で最も技術のあったミオンさんの剣技を、見様見真似で練習している。
動き、間合い、振り方、太刀筋。
技まではできなくても、せめて魔物相手に剣だけで太刀打ちできるようになりたい。
「よっ、……はぁ!」
作った木刀を横に縦にと振り続ける。
足と手首と、身体全体を軌道に乗せて……
「こうっ」
すぱぁんっと、空気を斬る。
木刀でありながら、今のは斬った感触があった。
今までで一番上手くいった、と思う。
「あ、あの……」
「あれ、起こしちゃったかなフィア。ごめんね」
確かな感触を手に剣を下ろすと、近くにフィアが佇んでいた。全く気が付かなかったのは、僕が集中していたからだろう。
それに、殺気がなければ気にする必要も無い。
「えっと」
何か言いたげな表情。
フィアが言葉にする前に、身体の方が訴えに出る。
ぐぅー。
「はははっ、少し早いけど、朝食にしようか」
言われてみれば、昨日の晩はあまり充分に食事を取っていなかった。量はあったけれど、やはり味が薄いと満腹感も薄れる。
「パンがたくさんあるし、シチューでも作ろう」
「し……ちゅー?」
「お米と食べる方が僕の中では一般的だけど、パンに付けるのも美味しいんだ。食べたことない?」
首を傾げているあたり、魔族のあいだでは作られていない料理らしい。
――そもそも、シチューの素なんて存在しないだろうって?
これでも僕はアイテム屋さんで、この世界には魔法があるんだ。無いなら作ればいい。
あ、カレーの素も絶賛販売中だよ。
「んっ!はむ。っ!!おい……しい」
「よかった。たくさんあるからゆっくり食べてね」
我ながらかなり上出来な仕上がり。
魔法で無理やり組み合わせた素とは思えない。魔法は創造力、イメージ、発想に関わると言われているが、あれはもしかすると真実なのかもしれない。
何より、美味しそうに食べてくれる人がいるというのは、それだけで嬉しい。
「んーーーっ!!わぁ!すっごくいい匂い!」
匂いにつられて、普段なら日が登りきるまで寝ているニア達が起床する。
「おう、セイタは随分早起きだな」
「ニア、おはよう。アルゴートさんもおはようございます。食べますか?」
「食べる!」
「おう、サンキュー」
これでも起きてこないのはナツただ一人。
まぁ、この程度で起きてくるとも思えないけど。
「そうだセイタ。昨日、被害の確認って言ったが、具体的には何をする?道中の生存者ならとにかく、散らばった物の回収は無理だぜ」
「はい。それでも……、できる限りのことはするつもりです。僕たちにとっては何もなくても、持っていた人にとっては大切な物かも知れませんから」
「……そうか」
僕にとって、あのお店が大切な場所のように。
「準備出来たら、早速出発しよう!」
気合を入れる日の出前。
身なりも状況も時間も、寝起き。
「えっと……、まずはナツが起きてから、かな」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「いい天気だねぇー!」
「あんまり身を乗り出すなよ。危ないぞ」
「あっ!魚が跳ねたよ!」
「聞いてねぇ……」
僕らは今、川沿いに北へ向かって馬車を走らせている。フィアが川に落ちた場所を探し、生存者がいないかを確認するために。
目的はあまり楽観的に考えることは出来ない、辛い事実が待ち受けているかもしれないが……
「フィアちゃん!ほらあっち!クマだよクマ!」
「おおきい!危なくないの?」
「大丈夫だよ。クマは基本的に、こちらから怒らせるようなことをしなければ温厚な動物だから」
せっかくの旅路。
美しい景色。
暗いままでいるのもはもったいない。
元気なニアの性格が、フィアにとって良い方向に向いている。これから訪れるであろう困難も、今くらいは忘れていて欲しい。
「できるだけ砂漠に入る直前まで川は渡りたくないな」
「ですね。でも、ここまで1度も橋を見ていませんから、見つけたら貴重な橋だという可能性もあります」
「ちょっとした気がかり……って感じだな」
橋がないということは、この道は人通りが少ないということ。使われない道に、橋は必要ないから。
思い返してみれば、ここ数日人に会っていない。
フィアを除けば、6日前にすれ違った商人が最後。災害以前に、何かがあったのかもしれない。
「あれ?セイタ!前に見えるのって」
「うん。あれがエンダルキア山脈」
「ってことはそろそろ……」
北へ進んでから約5時間。
前方に連なる山脈が見えてきた。大きな山々には、所々に黒い雲がかかり、禍々しい雰囲気を感じさせる。しかし、
「なっ?!」
「これは」
「酷い……」
それよりも衝撃的な光景が、山脈より下に広がっていた。
どうも、深夜翔です。
サブタイトルに『砂漠越え』と付いているのに、砂漠を目の前にして一向に進まないです。すみません。
次回こそ、ついに砂漠へ踏み出すときが…?
ここまで読んでいただきありがとうございます。
よろしければ、感想や評価、ブックマーク登録、Twitter(@Randy_sinyasho)のフォローもよろしくお願いします。
ではまた次回…さらば!




