砂漠越え①
「……あ…つい」
「まだ入ってすらいないんだけどね……。無理に進まないで今日は休もうか」
僕はナツの訴えを聞き馬車を止めた。
「あれー?まだ昼過ぎだけど……今日はここで休むのー?」
「ニア、砂漠に入る前にしっかり準備しておこうと思うんだ。幸い、すぐそこに川も流れてるみたいだし、今日はここで休憩しよう」
「おっけー!」
元気よく馬車から飛び降りたニアからは、午前中ずっと馬車の中で座っていたとは想像がつかない。
「馬車とは言っても、やっぱ暑いな。休憩は俺も賛成だぜ」
その後に、少し疲れた表情で降りたのは移動中ニアの相手をしていたアルゴートさん。
「若いっていいなぁ」と、年寄りみたいな感想を漏らしていた。一応、アルゴートさんもエルフの中では若い方なはずだけど……。
二人はテント作りの道具を持って、立地のいい場所を探す。
ここに来るまで約一週間。野営の準備にもかなり手馴れてきた。焚き火用の木を集め、夕飯の準備も同時に進める。
「僕達は川に行って水を……、ナツ?」
「…………スピ…」
馬車の荷台で寝ている。
馬車にはアイテム制作用の素材がいくつかしまってある。その中には大きな布も入っていて、ナツはそれを引っ張り出してその上で横になっていた。
「商品に使うものに……まぁ、問題ないか」
気持ちよさそうに寝ているので、邪魔しないでおく。
僕は飲み水保管用のボトルを持って、川へと向かう。ボトルと言っても、大きさは50センチ程度はある。
実は、これも魔道具だ。浄水機能と水の温度を上げないための付与をしてある。
砂漠を通過するのに必要だと作っておいた。
「問題はこの大きさだよね……」
両手で抱えての移動は結構大変。
要改善だ。
少し歩くと見えて来た川は、どうやら砂漠と平原の境を北から南へ流れているらしく、対岸は砂混じりの赤砂まみれ。こちら側の草が生えた平原と全く違うため、まるで別世界を隔てている壁のよう。
「魚は元気に泳いでる。水もすごく綺麗だ」
前に海を見た時も、魔力というこの世界ならではの汚染問題はあったけど、見た目は透き通っていて綺麗な水だった。
地球とは似ても似つかない。なんて自然のままの美しい姿なんだろう。都会育ちの人が、田舎の自然を見た時の気持ちもこんな感じなのかな。
透明な水を眺めながら、そんなことを思う。
だって、ボトルに水を貯めている間、暇なんだもん。
「水冷たくて気持ちいい……、ん?なんだろうあれ」
川辺で座って待っていると、川上の方から何かが流れてきた。どこかの昔話が始まりそうな光景だったが、残念ながら流れてきたのは桃ではなく……
「ひ、人?!」
普通に小さな人型のシルエット。
慌てて立ち上がり、川の中に入る。
腰の上辺りまで沈む川は、足場を選んで進まないと僕が溺れてしまう可能性もある。注意しつつ流れてきた子に手を届かせる。
「君!だいじょう……ぶ…」
抱き上げて顔を確認。
そこで僕は少しだけ声を失った。
「ま、魔族……?」
その少女らしき子の頭には、二本の可愛らしい角が生えていたのだ。魔族をほとんど見たことが無いから、その小さな角を見て驚いた。
灰色で少し下向きに曲がった角。
本当に魔族っているんだと。今更ながらその存在を自覚した。
「って、早く水から上げないと!まだ息はして……るよね?」
急いで岸に上がり、ボトルを置いて仲間のいる馬車へと走った。
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「なるほど、魔族の子……か。また珍しいもんを拾ってきたな」
「かなり弱ってるみたいなんです。何とかしてあげられないですか」
「魔族って言っても、身体の構造は人間と大差ない。違うのは、魔力の質……というか、源?だ。魔族はその角がめっちゃ大事ってことだな」
「じゃあまずは体を温めて……、服も着替えさせた方がいいですよね。食べ物は無理に食べさせるのも良くないかな」
アルゴートさんたちの元へ連れてきた魔族の子。
随分長い距離を流れてきたのか、とても弱っていて意識も無かった。けれど、死んではいない。
とにかく目の前の命を救うべく、僕は必死にできることを探す。
「私も手伝う!!毛布と服、取ってくるね!」
「んじゃ俺は火の調整でもするか」
二人も直ぐに協力してくれて、着替え、睡眠場所の確保、温度調節を分担してこなした。
看病の甲斐あってか、冷えきっていた体も温もりを取り戻し始め、荒かった呼吸も落ち着いてくる。
しかし、それから数時間が経ち、日も沈んで夜空が綺麗に見える時間になっても、その子は目を覚まさなかった。
「魔力の枯渇相当深刻見てぇだ。人間よりも魔力量が多く依存性も高いから、枯渇の症状も重くなる……って聞いたことがある」
「魔力ってどうやって回復するの?」
「飯食って寝て……、自然回復が基本だが、それが魔族にも効果的かは分からん」
今は焚き火の近くに毛布を引いて寝かせている。
このまま目を覚まさないと、僕らとしても行動を次に移せない。
「……ん…、まりょく、移せば……いい?」
「ナツ?」
僕の隣でくっ付いていたナツが、アルゴートさんの話を聞いて立ち上がる。
そして、僕の手を引いて近寄り、空いているもう片方の手で寝ている魔族の子の角に触れる。
「"魔力譲渡"」
ナツが触れている角と僕の手が淡く光った。
魔力操作はナツが得意とする技術。
さらに、
「魔族と精霊の魔力親和性はかなり高い。セイタの膨大な魔力を使えば負担なく回復できるってことか」
本来、別種族への魔力譲渡は、魔力を取られる側、受け取る側、その両者の負担が大きすぎるためおすすめされない。
が、間に精霊のナツが入ることで、そのリスクはゼロになる。
「ん……」
少しの間魔力を与え続けていると、その子が小さく反応を示した。
「もう大丈夫そうだね。ナツ、ありがとう」
「……えらい?」
少し疲れた様子で頭をこちらに向けるナツ。
「うん。すごく偉かった。本当に助かったよ、さすがナツ」
僕が撫でると満足そうに目を細める。
まるで可愛い子猫のよう。
「んっ……うぁ」
「あ、目が覚めたね。大丈夫?えっと……自分の名前とか分かる?」
「セイタ落ち着け。記憶喪失じゃねぇって」
やはり足りなかったのは魔力のようで、案外あっさりと目覚めた。どうやらこの状況に困惑しているみたいで、周囲をキョロキョロと視線が宙を彷徨う。
「えっと、僕はセイタ。君が川から流れてくるのを助けたんだけど、何があったか説明できるかな?」
「………」
「あ、アルゴートさん。魔族って、独自の言語とかって」
「いや?普通に人間と同じ言葉を喋るはずだ」
つまりこれは、ただ怖がられているだけ……か。
それはそうだよね。
知らない場所で、見知らぬ人に囲まれて。
どうしたものかと思案していると、
ぐぅぅぅぅぅ――
大きなお腹の音が、夜の平原に響く。
「あはは、まずはご飯にしよう」
兎にも角にも、まずはおなかいっぱいご飯を食べることから始めよう。体力の回復には食事が一番。
夕飯の準備はできている。
僕は早速料理に取り掛かった。
どうも、お久しぶりです、深夜翔です。
1ヶ月のお休みを貰い、別の小説を書いていました。
残念ながら今すぐ投稿は出来ませんが、いつか読んでいただく日が来るかもしれません。
さて、久しぶりで前回の話を忘れてしまったかも知れませんが、現在セイタ一行はとある貿易都市を目指して移動販売をしています。
その道中で、思わぬ出会い。この後の展開に、彼(彼女)?はどう関わってくるのでしょうか。
最後に、ここまで読んでいただきありがとうございます。
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是非よろしくお願いします。
ではまた次回……さらば!




