お嬢様の悩める愛
ミオンが最近おかしいのです。
少し前まで私の護衛として仕えていて、あの人といるととても楽しかったのです。
それが、急に近衛騎士団の団長に任命され、その距離が遠くなってしまいました。未だ護衛という名目は無くなっていないですが、私もミオンも忙しい毎日を送っていまして、会う機会はめっきり減っています。
彼女の休日にはこっそりお城を抜け出して街で遊び歩いた日々が遠い昔のよう…。
広く寂しい王室で一人、物思いにふけっています。
「お嬢様、学習のお時間です」
「はーい。今行くわ」
今日もまた、つまらない一日を過ごすことになると思うと、なんだか余計に寂しくなってしまいました。こっそり抜け出して、ミオンに会いに行こうかという考えまで浮かんできます。
その途中、お城の広い厨房の前を通った時。
そこで私はとんでもないものを見てしまいました。
(ミ、ミオンっ?!)
あの料理が出来ないと嘆いていたミオンが、厨房で必死に何かを作っていたのです。時々何か呟きながら、一冊の本を置いて一生懸命。
……何を作って………誰のためのものですのっ!
「お嬢様!何をしていらっしゃるのてすか?早く行きますよ」
「ちょっと待っ」
「待ちません!!行きますよ」
「あっ…あぁ……」
私は半ば無理やり引きずられて、自習室という名の監獄へと連れて行かれました。
「おかしいです……何かあったのでしょうか」
目の前にはノート。
横に山積みの本。
そしてノートを睨む私。その思考は完全に彼女のことでいっぱいです。
「王女様…何かお悩みですか」
眼鏡を付けたこの男性は、魔法の先生。
毎週、私に魔法を教えるため、この場に来て下さるのですが……私が全く勉強に手が着いていない事に心配してくださったようです。
「い、いえ…その……」
私はミオンの事を聞くかどうか悩み、遠回しに尋ねて見る事にしました。
「私の護衛の騎士様の事はご存知ですか?」
「ええ、確かこの国随一の女騎士だとか」
「そうなのです!!剣を振るう彼女はそれはもうかっこよくてっ……」
勢いよく立ち上がった私は、顔を赤くして座り直します。
「さ、最近は騎士団の仕事が忙しいみたいで……あまり会えていないのです。今どうしているかが分かればなと…」
「はは、王女様はその騎士様がお好きなんですね」
「すっ、好きだなんてそんなっ!!」
否定はしたものの、周りから見た私たちはそう見えているのだと知って、嬉しさが顔に出てしまいます。
「お力になれず申し訳ないですが、私はあまり王城の事は詳しくなくて…。ああ、でもこの前街で見かけましたね」
「多分休日の日ですわね。何をしていたのでしょう?」
「分からないですね。誰かを追っていたような雰囲気でしたけど」
(休日に何をしているの…ミオン)
おおよそ休日とは思えない過ごし方をしている彼女の姿を聞き、悩みを忘れて呆れてしまいました。
けれどミオンの事ですから、きっと見知らぬ国民のための行動だったのでしょう。彼女の優しさを私は知っています。
「むぅ……ですが、そこで何かあったに違いありません」
結局、私の疑問の解決にはならず、その日のお勉強は捗らないまま終わってしまいました。
「やってしまいました…」
先生が気を使ってくれて、終わりきらなかった問題を課題にしてくれました。関係の無い先生に気を使わせてしまったことに申し訳なさを感じながら、次第に宜しくない怒りが湧いて出てきます。
(そうです!全部ミオンが悪いのです!今から直接会ってとっちめてやります!)
この時の私が半分暴走状態だったのは、言うまでもありません。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
場所が変わってここは騎士団の訓練所。
中では訓練が終わったばかりの騎士さんが、剣の手入れをしています。
「すみません…」
「はーいどうしま…し……王女様っ?!」
突然の来訪に驚かれてしまいました。が、同僚の方々と顔を見合わせた彼らは、にっこりと笑って付け足します。
「騎士団長でしたら、少し前に用事があるとかで出ていきましたよ」
「本当ですか!!ありがとうございます!」
聞きたい情報を手に入れた私は、急いで王城の門へと走り出しました。
「相変わらず、団長は王女様に好かれてんなぁ」
既に頭の中が彼女でいっぱいな私は、後ろでそう呟く騎士さんの言葉を聞いていませんでした。
「お、王女様?!どうしたんですかこんな時間に…」
ダッシュで門に到着した私に、門を守る兵士さんが声をかけます。
「そのっ……ミオン…騎士団長はっ…どちらに?」
「ああ、団長でしたら、用があるからといまさっきここを…」
「ありがとうございます!私も行ってきます!」
「えぇ?!何をして…」
「追いかけっこです!!」
もはや意味の分からない、理由になっていない嘘を吐いてこの場を乗り切ろうとしました。当然無理だと思いましたが、もう一人の兵士さんが笑顔で言いました。
「まぁ新人君、いいじゃないか。王女様、気をつけてくださいね」
「はい!」
こうしてたくさんの人に目撃されながら、私は王城を抜け出すことが出来たのです。
門を抜けると街へと続く大きな橋があります。ここからの景色は見事なもので、前はよくミオンと眺めたものです。
「あっ…いた!」
橋を渡りきったところで、少し奥にミオンの姿を発見。
ですが、何か挙動がおかしい…ような?手には謎の袋も持っていますし。気になった私は、こっそり後ろから追いかける事にしました。
しばらくは、橋から続く街の大通りを歩いていたミオン。何度目かの交差する道を左に曲がり、角の噴水に向かっているようです。
それからまた歩き続けて数十分。
噴水が見えてきた位置で立ち止まると、左右をキョロキョロとした後、すぐ横の路地へと入って行きました。
慌ててあとを追いかけると、とあるお店に入っていくミオンの姿を捉えました。
(アイテム屋さん…?)
あとに続いてお店の前に移動し、綺麗なショーウィンドウからこっそり中を覗きました。
(なっ……?!)
そこで目にしたのは、1人の少年と…
(ミオン!)
恥ずかしそうに白い袋を渡す、ミオンの姿でした。
どうも、18時に間に合わなかった、深夜翔です。
今回の話は時系列が難しいですが、話は二つ前…騎士団長ミオンが初めて少年の店に訪れた日の数日後となっております。
さて、最後の方で衝撃の展開となった二人。
次回はその後のお話です。
是非、次回もよろしくお願いします。
最後に、ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。
評価や感想、ブックマーク登録をして頂けると大変嬉しい限りです。
Twitterもやっていますので、フォローをよろしくお願いします。(@Randy_sinyasho)
ではまた次回……さらば!