旅支度
「街を出る?!また唐突な話だな」
「すみません…、相談も無しに突然」
「いや、私と君らに関わりはあれど、私情やプライベートにまで口出しはしない。……が、お嬢様には街を出る前に会っていただけると嬉しい」
騎士団長室にて。セイタは騎士団長ミオンに会うべくそこに訪れていた。
ミオンは、(こうも毎回団長室に侵入されていると、騎士団の警備を疑いたくなるが……)と心配しているが、伝説上にしか存在しないと言われている転移魔法を使っているのだから、そんな心配は杞憂だった。
というか対策のしようがない。
「そうですね。僕も一言挨拶はしておきたいですが……なんだかお忙しいみたいですね…」
「ん?あぁ。街中の襲撃の件もそうだが、最近街中での小さな騒動が立て続けに起きていてな。騎士団はその対応に駆り出されているんだ。その報告書が溜まりに溜まっている」
「なんだか……すみません」
「安心しろ。君のせいではない」
申し訳なさそうにするセイタに、ミオンは優しく笑顔を向ける。実際、襲撃の後片付けは、膨大に残っている仕事のうちの1つでしかない。
報告書の束を見れば分かるとおり、一つや二つやる事が増えたところで、火の車は同じように燃え上がるのみ。
火を消したいなら手を動かせ。
嘆いていても仕方がないのである。
「とはいえ、君がお嬢様を探すのは無理がある。お嬢様を店に出向くことも出来るが、いつ頃この地を発つつもりだ?」
「詳しい日程はまだです。ただ、事情が事情なので、なるべく早めに……とは考えています」
案外出没頻度の高いアヤメだが、あれでも一国の王の娘である。子供とはいえやる事はそれなりに多い。
ただの友人……それも、大した身分でもないセイタが会いに行くのは困難を極める。
「無理に引き止めるのも悪いか。予定が合わなければ、待っている必要は無い。君たちの予定で出発してくれ」
「………分かりました」
「…そうだ。国を回るのに、移動手段はあるのか?」
「馬車を乗り継ぐか、徒歩で回る……しか無いですかね」
「ならば、私から馬車を提供しよう。御者の経験は?」
「えっ?!馬の扱いは何とかなると思いますけど……受け取れないですよ!」
突然の申し出に、慌てて首を横に振る。
馬車はこの世界で唯一の移動手段。
そう易々と渡せるものでも無ければ、簡単に購入できる金額でもない。
「なに、君には大変世話になったからな」
「あれは依頼で…きちんとお代も頂いてますし」
「お金では返しきれない恩を貰ったのだ。人の善意は有難く頂いておけ。あまり必死に断ると、返って失礼だぞ?」
「えっと……ありがとうございます!」
「君は律儀だな」
頭を下げるセイタに対し、ミオンは笑う。
笑って続く言葉を飲み込んだ。
君はまだ子どもなのだから――。
彼に関わってきた人達はみな思うこと。
彼を子どもとは呼べない。その小さな体で、一体どれだけの想いを抱えているのだろう。私らなんかよりも、ずっと重い覚悟を持っている。
子どもだと甘やかすのは、そんな彼を侮辱する行為なのでは無いのかと。
だから、ここで伝えるべきは別の言葉。
「気をつけて行ってこい。困ったことがあれば、いつでも帰ってきて構わない」
それは決して子どもを心配するものではなく、対等な友人としての、最大限の心遣いだった。
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空は清々しい青空。
こんな日は遠くの太陽に向かって叫びたくなる。
『本日は晴天なりー!』
人に聞かれるのは恥ずかしいので、一人、心の中で叫んでみた。
そんな僕の胸中は、思っていたよりもぐちゃぐちゃとしていて整理が行き届いていない様子。
世界を明るくできる太陽も、たった一人の人類の心の中までは、さすがに照らしきれないらしい。
「……うわっっ」
何かにつまづいて、危うく運んでいた荷物を落とす所だった。
心の整理もできていない僕に、旅支度は早かったようだ。
「はぁ…。こんなんじゃダメだよね。もっとしっかりしなくちゃ」
頭を振って切り替えようとするも、胸中に渦巻く不安は一層混じり合うばかり。
「……にぃ…ふあん?」
「うわぁっ?!って、ナツ!!いつの間に…」
「……ずっと…いた」
知らぬ間に後を着いてきていたらしい。
突如耳元にかかる吐息に、心臓が飛び出るかと思った。
「ナツに…きがつかない……ほど、悩んでる」
「まぁね。長いこと住んでいたように見えて、僕達はまだ、この世界のことを何も知らない。今まで平和に過ごしていたから」
「ん……」
「それに、今回の件だってお店を開かずに居れば、いつも通りの平和な日々を続けられたかもしれない」
ナツの純粋な心配の瞳に見つめられ、僕は抑えていた不安を吐き出す。
「未来の平和のため…と言っても、どうなるか分からない。今の生活を捨ててまで、この選択をする意味はあるのか…ってさ。ごめんね、ナツがせっかく背中を押してくれたのに、こんな弱気な兄で」
僕自身も驚いている。
ナツの前で、こんな弱気な事を言うなんて。
自分で感じていた以上に、心が弱っていたのだ。
「だい…じょうぶっ」
僕の正面に回り込んだナツは、その小さな体で僕を抱きしめる。
「にぃと、ナツ。ふたりでいれば……えっと、つよい?」
言葉足らずな励まし。
けれど、世界一安心する、最高にして最強の言葉。
「うん。強い。……んーーーっ!!そうだよね。僕らの望む未来は、今よりもっとのんびりできる、平和な世界だ」
僕は何を考えていたんだ。
今のままでいい?
そんなわけあるか。今の世界じゃナツが笑顔じゃない。
理由なんて、それだけあれば充分だろう。
「よーし!荷物とか、販売用のアイテムとか、急いで馬車に移動させよう!!」
森の入口まで移動させていた馬車に、荷物を抱えて歩き出す。
頂いた馬車は大きく、立派な馬がゆったりと草を食べている。
「こんな場所じゃ暇だよね。早く、広い世界を走らせてあげるから。…ナツー?背中で寝るのは早いよ」
僕らの出発を待つ馬は、ぶるっと小さく体を震わせ、再び草を食べる。「やれやれ、まだ支度に時間がかかりそうだ」と、そう言っている気がした。
どうも、深夜翔です。
長かったシリアス展開も終わり、再び動き出します。
街の小さなアイテム屋さん、ここからは小さなアイテム屋さんとして、物語が進んでいきます。
第二章……だと思っていただければ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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ではまた次回……さらば!




