襲撃者②
「しかし……何者だ、あいつらは」
剣を片手に訝しげな表情のミオン。
「気配の消し方が未熟だな」
姿を消し、背後から忍び寄るローブの一撃を、まるで見えているかのように捌きカウンターを入れる。彼女の反撃は敵の首元を裂き、手元の短剣を確実に払い除けた。
首元、正確には顔を覆うローブの端を。
「ほう…貴様、女性のアサシンか」
フードがちぎれ、素顔が顕になる。
「騎士さん!セイタ!ナツ!結界の核はあそこだよ!」
「核…、なるほど。了解!」
術者を倒すことばかり考えていたけれど、結界は確かに魔法である。そして、術者とはまた別に、魔法には核という魔法をひとつの現象として世界に残存させるのに必要なものがある。
それを壊せば魔法としての効力を失うに等しい。
「ナツ、行ける?」
「…ん。もー、まんたい」
相手の策略には嵌ったが、魔力も体力も充分に残っている。
「ミオンさん、彼らの相手は任せてください」
「分かった。ならばその核は私が何とかしよう」
「私は三人のサポートするよ!」
次の攻撃が始まるより早く、僕らはそれぞれの役割を決めて走り出した。
――時に。
人数不利での状況で勝利するために必要なのは何だろうか。
戦略?連携?
それが正しくあり、ある種の間違いとも言える。
何故ならば、圧倒的な実力差こそが、その状況を打破する最前の策なのだから。
そしてまさに今、そんな不利を覆すがごとく、圧倒的実力差を含めた連携が策略を正面から潰していた。
「"バインド"」
「…"拡大"」
「"氷結"!」
相手の行動を封じる事だけに意識を集中できるのであれば、そう難しい事もない。
相手が行動してからでも間に合うのだから。
(ふむ、私には核が見えないが…)
ニアの示した位置は、噴水のやや上空。
普通の剣撃では届かないであろう絶妙な高さ。
「ふぅ………」
剣を利き手から持ち替え、さらに逆手に握るという特殊な構え。大きく深呼吸をして息を整える。
「………」
「"迅速なる弾丸"!」
横から現れる気配も、信じる彼らに任せて意識を集中させる。
次の瞬間、瞬きをした者は彼女が消えたように映っただろう。そう間違うほどの速さで噴水から街を覆う外壁に飛び移り、壁を蹴ってさらに上へ。
「"魔速動"・"加速"」
おおよそ人間とは思えない動き。
ミオンが使える数少ない魔法を二つ同時の発動。
残像すら残さない。
「"雷帝の極意"」
空から雷が落ちてきたのかと錯覚する。
空間を切り裂いた雷は、結界の核ごとその空間を飲み込む。たった一撃。その一撃で、彼女は結界を削り取った。
街には一切の被害を出さずに。
「さて、時期に結界も消えるだろう。後はお前たちだけ――」
ピーーーーーーーー。
鳴り響く甲高い笛の音。
気がつけば、襲撃者の姿は消えていた。
「捕縛できたのはこれだけか」
「はい…、全員は拘束できず」
「いいや。突然の襲撃に得体の知れない者達。それも、魔法とは異なる能力を使っていたとなれば、全員が無事でいるだけで充分と言える」
「そうそう、セイタたちは襲われた側なんだから、誰も責めたりしないよ!」
広場の片隅で、彼らによって拘束された襲撃者たちが集められている。フードは取り、自害できぬよう魔封じの魔法をかけられて。
「セイタ、この者たちに狙われる心当たりは?」
「正直なところ、あんまり思いつかないですけど、ここ最近気になることがあって確かめに外出していたのは事実です」
「気になること?」
「あ、この間言ってたお客さんがたくさんってやつだね」
セイタの腕にしがみついているナツに抱きつくニアがそう答える。
その返答に頷き、さらにセイタが続ける。
「外出した時には既に監視がいました。僕らを狙っていたのは間違いありません」
「監視?!凄い、よく気づいたね!」
素直に褒めてくれるニアに対し、ミオンは少し微妙な表情で言った。
「監視されていた……となれば、無論原因があるのだろう。君が気になると感じていたのは、その原因に心当たりがあるからではないか?」
彼女も既に答えがわかっていて、その上で確認をしたい。そんなようにも窺えた。
セイタも彼女の言い方に察したのか、気遣うこと無くはっきりと口にした。
「僕のお店が繁盛し始めたのは、騎士団試験の翌日。不審人物を見つけたあの日からです。おそらくその時、誰かしらに見られていた」
「となれば、こいつらは十中八九アルステッド教の信者に違いない」
「あるす…てっど?」
「ここより遥か南の大陸で信仰されていると噂のある邪教徒。アルステッドは彼らが崇める邪神の名だとか」
「異国の信者が攻撃してきたってこと?!そんな…」
ニアは続く言葉を口にはしなかった。
口には出さないだけで、ここにいる全員がその可能性を捨てれずにいた。
――広場には人が戻り始め、噴水広場としての賑わいを取り戻す。しかし、彼は誰一人話すことはなく、重い空気が漂っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……にぃ、へいき…?」
「ナツ……。慰めてくれるのは嬉しいけど、勝手に僕のベットに入るのは辞めよう?」
「ふとん、あったかい」
「そりゃ僕が寝てたからね」
森の家に帰ってきた僕は、言葉にできない嫌な気持ちを抱えたまま布団に入っていた。
「きっと…大丈夫……だよ?」
「あはは、ナツが心配してくれるなんて珍しい。…さすがにこの事実は受け入れ難いよね」
「…ん」
布団に潜り込んだナツ。
僕はナツの頭を撫でながら、天井の隅を見つめる。
(異国の邪教徒。知らない能力。……王城への攻撃)
否定しようと振り返るも、浮かび上がるのは事実の肯定ばかり。
("戦争"なんて、信じたくはない)
僕らはこの世界の人以上に、戦争の恐ろしさを知っている。
そもそも、攻撃を仕掛けてくる理由が分からない。
否定するにしても、止めるにしても、原因が分からなければ対処のしようがない。
南の大陸までは、何千キロと離れている。
そんな長距離を移動してまで、この大陸に仕掛た理由がきっとあるはず。
「………?」
「せっかくの休みだし、たまには昼寝でもしちゃおうか」
「ん……」
僕に抱きつくように眠り始めたナツに、こっそりと笑いかける。
(僕らが望む日常を、これ以上壊されてたまるか)
窓から見える青空。
その澄んだ青空を見つめ、守るべき約束のため、僕ができることを考えるのだった。
どうも、深夜翔です。
原因の分からない最悪の未来。
そんな理不尽を彼らが許すはずが無い。
ここから先は、兄妹の想い描く日常のため、明るい未来のために戦う話へと繋がっていきます。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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ではまた次回……さらば!




