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街の小さなアイテム屋さん  作者: 深夜翔
第一章 : 街の小さなアイテム屋さん
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少年の思い

「「ありがとうございました」…ました」


 最後のお客様を見送って僕は店を閉めた。


 看板を裏返し『CLOSE』に。


 商品には"ホコリよけ"と"劣化阻止"の魔法。ここの商品は全て僕が作っているから仕入れにお金はかかっていないけれど、劣化や損傷、汚れで廃棄してしまうのは勿体ない。


 一つ一つ丁寧に。


 誰かの手に渡るまで、制作者兼売り手としての務めを果たす。


「これでよし」


 掃除は終了。明かりも消した。売上げのメモも書いた。


「……ナツ。戻るよ」

「……………」


「ナツ?起きて」

「………んぅ……おわったの?」

「おはよう。終わったよ、早く帰ろう」

「ふあぁ……帰る」


 僕の呼び掛けに、人形を抱いて寝ていたコナツが目を覚ます。覚ますと言っても目はまだ半分閉じている。


 足を動かさずとも、自然と浮くことが出来る精霊は体に力を入れることなく移動ができる。


(人形は持ってくのか)

 何も考えていないコナツは、抱いた人形を持ったまま転移の扉に向かって行く。暗い店内に、薄ら青白く光るコナツと浮いた人形。


 他人が見たらなんてホラー番組なんだと気絶しそうだ。


「ただい……

「二人ともおかえりー!お母さん、お腹すいちゃった」


「………母様…痛い……」

「んもーコナツぅ〜お母さん寂しかったよ」


 扉を通り抜けた先で、笑顔の母様が待ち構えていた。


 おっとりしたこの女性が、今のコナツの母様。……僕の事も息子同然に扱ってくれる、優しい母様。


「今ご飯作るよ」

「セイちゃん働き者ねー!お母さん、嬉しいわ」

「……母様、料理…下手」

「コナツったら辛辣ぅ」


 コナツは過剰なスキンシップにまったりペースの母様を嫌がっているけれど、僕から見れば充分似たもの同士……ちゃんとした親子に見える。


 今のコナツが大人の姿になったらあんな感じなんだろうな…って感じ。あのズボラで適当な性格だけは似て欲しくないけれど。


「森の方は大丈夫だったの?」

「安心して。この私が護っているんだから!」

「あんまり……安心…出来ない……」


 未だ母様の胸の中で抱きしめられているコナツは、鬱陶しそうに嫌味を口にする。対して母様はニコニコと娘を撫でている。


「セイちゃん達こそ、お店の方は?繁盛してる?」

「あまり繁盛し過ぎても良くないけど…問題なく回ってるよ。知り合いも増えてきたし」


「そーなのー?私もたまには街に行ってみようかしら」

「その姿で行ったら大騒ぎになるから辞めて。それに森の守護はどうするのさ」

「んもぅ、セイちゃんのいじわる〜」


 頭を撫でることに飽きたのか、今度はコナツのほっぺたをぷにぷにし始めた。完全に表情が緩んでる。今の母様を見て、この森の大精霊ですって言っても誰も信じてくれなさそうだ。


「………」

 あっ…。

 コナツがそろそろ限界かも。


「……っ!!母様っ……しつこ…いっ」

 カプリっ。


 母様の指がコナツの口の中に。


「うふふ」

 かじられた母様はむしろ嬉しそうに受け入れている。可愛い娘に指をかじられながら嬉しそうな母様は、親バカ…と言うよりも変態……。


「うわっ」

 よそ見をしていて危うく火加減を誤るところだった。


 ちなみに、母様ほどの大精霊ともなると食事を取らなくても大気中の魔力を吸収できるため、実は食事そのものがいらない。


 しかし、何故か『食事は大切なコミュニケーションの一つです!』と、人間では無い種族の母様がそんな事を言って毎日の夕飯に参加している。


「わっ、いい匂いがしてきた!」

「まだ食べちゃダメだからな」

「私がそんな事すると思う?」

「思う」


 一応、精霊にも味覚や嗅覚がしっかりと備わっているから、作った料理は美味しそうに食べてくれる。

 僕としては結構嬉しい。


「……ナツ?」

「お、……にぃのご飯は……美味しい」

「あはは、ありがとう。けどつまみ食いはダメだよ」

 我が家では人気なようで良かった。


「やっぱり…売上げが伸びてきてる」

 夕飯も終わり、今日も一日が終わろうとしている夜。僕は一人、自分の部屋でメモをした売上をノートに記録していた。


 終わらない時は起きてからやっている。ひたすらにノートに筆を走らせていると、机の端に置いていた消しゴムが自然と落ちた。


(今日はやけに精霊が多いな)

 これは小精霊の仕業だ。

 窓を開けて作業をしていると、たまにこうして森の精霊が遊びに来る。


 僕の作業を邪魔しないように動いてはいるようで、周囲をふわふわと漂ったり、たまにこの部屋の物を珍しそうに触ったり。消しゴムが落ちたのも、見えない精霊が遊んでいたのかもしれない。


「ナツ?どうしたの」

 僕は少し前から感じていた背後の気配に声をかける。


「……みつ、かった」

「増えてた精霊はナツに着いてきた子たちだね」

「……ごめん……なさい」

「怒ってないよ。それよりどうしたの?寝れない?」

「………ここで…寝ていい…?」

「いいよ」


 たまにコナツはこうして甘えてくる。

 異世界転生しても、中身は12の妹。

 色々な理由があって来ているはずだから、僕も詳しくは聞かない。こちらもふわふわと移動し、僕のベットに横になった。


「お客さん…増えてきた…ね」

「うん。少しペースは早いけど」


「……大丈夫…かな」

 多分それは、"たくさんの人と関わっても大丈夫なのか"って事。関わる人が増えれば、それだけ面倒事に巻き込まれる。問題だって増えてくる。平和な日常を望む僕らにとって、喜ばしい結果とは言えないと思う。


「僕たちはさ、前の世界では自分のしたい事も満足に出来なかった。平和に生きる事も」


 思い出したく無い記憶。

 だけど忘れてはいけない記憶。


「この世界ではそれが叶う。なら、出来なかったことをたくさんしよう」

「したい……」

「人と関われば、それだけ嫌な事も増える。けど、その分嬉しいことも増える。僕は、ナツに友達を作ってあげたいんだ」


 僕が望むのは『のんびりまったり生きる』こと。

 そこには、コナツが笑顔で生きられる世界を作る事も含まれている。


「……ナツも…にぃに友達……作って欲しい」

「そっか。じゃあお店、頑張ろう」

「うん……」


 僕の事を心配して来てくれたんだろうか。

 話し終えたコナツはすぐに寝てしまった。

(慣れない体は…疲れるもんな)


 この世界に来て一年。未だ分からないことばかりだけど、少なくとも今、僕たちは幸せだ。


 優しい母様、不自由ない生活、笑顔の妹。

 過去、天に祈ったその願いは、叶いつつある。これ以上神様に望むことは出来ない。自分の目標は、自分自身の手で乗り越える。


 僕はペンを置いて窓の外を眺める。


「綺麗だなぁ」

 満天の星空と精霊たち。

 こんな景色はここでしか見れない。


「明日も楽しくなるといいね」

 眠っているコナツにこっそり、そう言い聞かせる。

「………頑張る……」


 帰ってきた返事に驚いて顔を見た。


「寝言?」

 夢の中で、同じ景色を見ているのだろうか。

 ……そうだったら嬉しい。


 軽く頭を撫でた僕は、机の明かりを消して一日を終えるのだった。

どうも、3日に一度が安定してきた、深夜翔です。

今回4部目は異世界転移した兄、セイタ視点のお話でした。

彼がこの異世界で周囲の人や新しい家族とどう関わっていくのか。関わりたいと考えているのか。

その辺が伝わっていれば嬉しいです。

そして、若干過去に触れた話もありましたが、これについてはいずれまた…。


ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。

気に入って頂けたら、評価や感想、ブックマーク登録をよろしくお願いします。

Twitter(@Randy_sinyasho)もやっているのでよろしければフォローして頂けると嬉しいです。

ではまた次回……さらば!

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