騎士団長は休めない
「団長、先日の会議の報告書の提出の催促が」
「ヒムイ大臣か。明日にでも報告しに行くと伝えてくれ」
「昨日の試験の結果なんですが、応募人数が多く、募集人数を大幅に超えて…」
「人数の調整に関しては副団長に通しておけ。具体的な話は王との相談になる」
「試験の際に捕らえた人物についてですが」
「何か新たな情報は得られたのか?」
「い、いえ……。現在国中を周り自白魔法を使える者を探しております」
「そうか。第一魔法学院内で起こった騒ぎとの関連も随時調べてくれ」
「了解ですっ!」
「はぁ……」
大きく息を吐き出した騎士団長、ミオン。
山積みの書類を手にして不機嫌な表情。
ガチャ。
「まだ何か用でもあったのか」
もはや目線を動かしもせず、ぶっきらぼうに尋ねる。
「もう、ミオン。そんな怖い顔をしていては、騎士団の皆様が怯えてしまいます」
「あ、アヤメ様っ?!す、すみません…」
団長室に入れ替わるようにして入ってきたのは、見慣れた少女。
「遊びに来ただけですから、気にしないでください。それにしても…とても忙しそうですね」
「厄介な事案が入団試験と重なってしまったのは正直痛手です」
「無理はしないでください……と言っても難しい話ですね。ミオンは目を離すと直ぐに無理をするんですから」
顔を膨らませて少し怒った表情をする王女、アヤメ。
騎士団の皆から、こっそりと相談されていたことは口に出さない。王女様が一般の騎士団員と仲が良いのは今更聞くまでもない
「すみません……。ですが、他の団員たちも頑張っているのですから、私だけが休む訳にはいきません」
「"このまま待っていては、無理をしてでもお店に来ようとしてしまうでしょうから、依頼を頂いた商品はアルゴートさんに頼んでこっそりミオンさんの元に届けておきます。体調を崩さぬよう、適度な休憩を挟んでくださいね"」
「…?」
王女様の意見の前ですら引こうとしないミオンに、アヤメは突然と一枚の手紙を声に出して読み始めた。
「"余計なお世話かも知れませんが、疲労によく聞くお茶をお付けしておきました。休憩時に是非飲んでください"」
戸惑う団長を置き去りにし、アヤメは手紙を最後まで読み切る。内容の真意とは裏腹に、笑顔な彼女がそこにはいた。
「ミオンはもう少し周囲の方々に目を向けるべきですよ?あなたのことを、こんなにも心配して……思っている人達がいるんですから。もちろん、私もその一人です」
「あ、アヤメ様……」
「と、いうわけで、少し休憩しましょうミオン!私がお茶を入れますね」
「そ、そんなっ!私が…………、いえ、それではお願いします」
「ふふ。今日くらいはそのままでいてください」
先程の会話を得て、ミオンはこれ以上アヤメに心配をかけては行けないと理解した。
その長い思考の中には、王女様の入れたお茶が飲めるという、絶対にバレては行けない欲があった……のかも、本人にしか分からない。
「ミオン団長?本当にこれで魔法を防ぐことが?」
「私が最も信頼する道具屋に頼んだ物だ。正直私も驚いているが、きっと依頼通りの出来になっているのだろう」
壁内の庭で、副団長シモンと団長ミオンが話し込んでいる。内容は言わずもがな、城壁への魔法対策。
彼に頼んでいた品が届き、検討しているところ。
届いた品は、ミオンの想像の遥か右を行く物で、それが数百個、丁寧に袋にびっしり入った状態。
金額はともかく、この短期間に作ったという事実と、その形状に驚くのは無理もない。
「しかし…一度試してみる必要はありそうだ」
「そうしましょうか」
彼らが手にするそのビンの蓋には、こう書かれていた。
"魔力吸収塗料"と。
訓練施設には、様々な武器や防具が常備されている。
現在シモンが手にしている盾も、対魔獣の練習用に作られた大盾である。
「この前面に塗った。後は誰か軽く魔法を撃ってくれればいい」
「それは僕がやろう。盾はそこに立てかけてくれ」
「助かる」
吸魔草を使っているが素肌に触れて害はない。
制作者の腕の賜物である。
「行くぞ」
「あぁ」
二人しかいない広々とした空間で実験。
「"エクスジオ"」
唱えた彼の手先から人が走る程度の速さで赤色のモヤが放たれる。
それはただ直進し、例の盾に着弾。
「「……………」」
無言、静寂。
何も起こらないまま、短い時間が経過する。
「すごいね。本当に魔法が無力化した」
「第三者から見ても、いまいち分かりにくかったが」
「しっかり魔法は当たったよ。もしも無力化されなければ、その盾は今頃粉々だ」
「シモン副団長の魔法を無力化したとなれば…」
「充分に実用可能ってことだね」
「早速外壁に塗らなくては。空いている騎士団員に招集をかけ、できるだけ早く安全を確保する」
「了解」
シモンはにこやかに返答し招集をかけに立ち去る。
練習用人形に立てかけられた大盾を見て、ミオンは1人、大変驚いていた。
「頼んだ側だが……彼にはいつも驚かされてばかりだ。そのうえ気の遣い方も上手いとは、恐れ入る」
それは塗料の入った袋、これを詰めてくれたであろう人に対する、独り言だった。
この日から数日間、王城の外壁に、何人もの騎士団が何かを塗りまくる様子を見ることになる。
街では密かに、団長を怒らせた騎士団への罰なのではないか……などと囁かれていた。
どうも、深夜翔です。
慕われる人は、自分が感じている以上に周りから心配されているものです。
優しい人の周りには、それ相応の方々が集まるみたいですね。日頃、騎士団員や王女様の苦労が伝わったでしょうか。
伝わっていたら嬉しいですね。
適度な休憩。お忘れなく。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
応援していただける方、評価や感想、ブックマークの登録をよろしくお願いします。
Twitter(@Randy_sinyasho)のフォローも是非。
ではまた次回……さらば!




