過程が全て
朝日が登り始めた早朝。
地球の時間で現せば、現在は朝の6時半。
大きな木々で覆われた森にも、微かに彩られる青い空を見ることが出来る。
小精霊たちも、一日の始まりを喜ぶかのように森中を飛び回る。
人の踏み込むことが出来ない巨大な森だからこそ見られる光景とも言える。
「ナツ?無理しないで寝ててもいいんだよ」
「…ん、いく」
「ならせめて、しっかり歩いて欲しいな…。服の裾が伸びちゃうよ」
「…………ん」
「聞こえてないねこれは」
そんな早朝の森の中を兄妹は歩いていた。
目的は制作物の素材収集。
広い森の中で特定の植物を見つけるのは相当に骨が折れる。"実は"一刻を争う事態の最中であることを踏まえ、こうして朝早くから探している。
その割にはのんびりとしている…のはなぜか。この世界に来てから自分の想像する道具を沢山作ってきた代償として、物作りオタクへと染められてきている兄……セイタが、この"実は"を完全に忘れているからだったりする。
「吸魔草は森に生えてたはず。他にも、オウグツメが調合で混ぜると素材の効果を増幅する効果があるらしいんだ。後は入れ物の付与用に魔鉱石を……まだ余ってたよね?」
上記は彼の独り言である。
少女は知っている。
オタクへと染められた兄が、一度思考の沼にハマると手が付けられなくなる事を。
眠い頭を総動員して、大切な兄が無茶をしないよう監視すると決めた。
「……んぅ…」
兄の背中に体重を乗せたまま、半ば引きずられる形で兄と行動する。
「ナツ?やっぱり眠いなら家で待ってても…」
「ん……ねむ…く………ない」
だってこうして自力で歩けているのだから。
そうドヤ顔で物申したい妹は、既に兄の支えなくして歩くことはできないのだった。
吸魔草。
簡単に説明すれば、周囲の魔力を吸い取る植物。
用途は不明だが、吸った魔力を別の無害な魔力へと変換させているらしい。
魔力過多という病があり、身体の魔力容量よりも遥かに多くの魔力が身体に溜め込まれた結果、暴走を引き起こして強烈な痛みを発生させる病気。
その治療薬として使用されること以外は、通常の健康的な人の害となる。
実際に冒険者がこの植物の被害にあい命を落とした例もある。
しかし、逆の発想があるとすれば。
(命を落とすほどの魔力の吸引力を持つ)
無差別に魔力を吸い取っては意味が無い。
それを制御してこそ本来の力が発揮される。
活かすも殺すも使用者次第とはよく言ったものだが、限定的な使い所の物はむしろ制作者次第。
発想と技術。
材料、素材があるならば、必要なのはその二つのみ。
「普通に手に入れようとしたら、収集も命懸けだけどね」
何せ近づいただけでその効果を受けることになるのだから。
「……とられた」
「この辺りに生えてるかな」
魔力に敏感なナツが先に反応する。
僕も遅れて小さな違和感を感じ始めた。
魔力がすこしずつ抜かれている、そんな違和感。
効果の強まる方へとゆっくり移動していく。
すると一面が紫色で覆われた……吸魔草が敷き詰められたエリアへと到着した。
魔力を吸った吸魔草が淡く光っている。
「魔力枯渇になる前に採取しよう」
「りょー、かい」
「あ、採取したものはこのビンに入れておいて。これは魔力の出入りを防ぐ魔道具だから」
「じゅんび、いい」
「目的がこれだからね」
素早く慎重に。
二人のビンがいっぱいになるまで集め、十分と経たないうちにその場を立ち去った。
同じ森の中とはいってもここは家から距離がある。
必要になる度に何度も往復するのは面倒。
もう2瓶ほど集めておきたかったのが本音だけど、魔力枯渇を心配したナツに止められた。
さて、無事に自宅へと帰還した二人。
オウグツメはというと、実はそれほど珍しい植物でなく意外と探せばそれなりに見つかる。
常人でも探せば見つかるのだ。
セイタがそれを見逃すはずもない。帰宅途中に生えていたオウグツメを4瓶、きっちりと回収していた。
「吸魔草、オウグツメ、魔鉱石。うん、たぶん揃ったはず」
作業台を前に素材の確認。
ここから先は彼のターンだ。植物はすり潰してまとめ混ぜ合わせる。その際、より効果が強まるよう高度な技術を要する。
専用の入れ物(魔道具)制作は言わずもがな。
かなり集中してはいるものの、慣れた手つきであることは一目瞭然だった。
こんな時、母親や魔法オタクらが騒ぎそうなところだが一切邪魔は入らない。
大事な依頼品……だということはもちろんの事、制作者自身がとても楽しそうに作っているのだ。これを邪魔しようとする者はこの場にはいない。
混ぜる、冷やす、熱す、混ぜる、詰める。
傍から見ればこの程度の感想が関の山。この作業の中にどれだけの技術と発想と知識が詰まっているのか。それは本人と実際に使う者にしか分からないだろう。
「後は一日保存して完成!予定よりも早くできた…効果も試しておいた方がいいかな」
「お疲れさん。まさか本当に作っちまうとはなー」
「試してみないとまだ分かりませんけどね」
「そりゃそうだ。実験も試作も大切な過程の一つだ。にしてもこれは…塗り薬見てぇだ」
「その考えでも間違いでは無いですよ。今回は壁や道具といった無機物を想定していますから、生き物には使えないですけど」
「害はないんだろ?」
「はい。無害ではあります。何も効果は得られないですが」
「また難しい調整したんだな」
「自分が作ったモノで被害は出したくないですから」
「こりゃぁ職人の鏡だぜ」
どうも、深夜翔です。
ここ数話は、あまり物語としても動きのない退屈な話になってしまったと思います。
自覚ありです。
ですが、この過程もいずれ意味のあるものになる。
これらを全て飛ばしてしまえば不思議な結果だけが残るのです。
よって、無駄なものは無い!……と思ってます。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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ではまた次回……さらば!




