城内見学
「はい。これで全部です」
僕は作ってきた木刀を目の前の女性に手渡す。
「ありがとう。本当は私が取りに行くべきなのに、わざわざこんな場所まですまないな」
「大丈夫です。金属の剣と違ってそこまで重くないですから」
「そ、そういう問題では無いのだが……」
騎士様が複数の木刀を受け取る。
背後には王城に続く大きな橋と、この国の象徴とも言える巨大な王城。普段はお店でしか姿を見ないためか、こうして見ると本当に騎士様なんだと謎の納得感があった。
「それにしても凄い数ですね」
そんな橋には現在、入団試験応募者が続々と王城内へと入っていく様子が見られる。
入団試験には、予めこの日に受け取る書類を持参しなければ、試験を受けることが出来ない仕組み。
願書提出…?そんな感じ。
そして僕横で、先程から上を見上げて黙っていたナツ。
「……おおきい…お城…」
ふと、感動に近い声をあげた。
基本的に外には出ないし、僕のお店のある辺りでは遠すぎてその大きさを感じにくい。
ナツにとっては初めて見るも当然なんだ。
「だね。間近で見ると凄く大きい」
「ふふっ。この国で一番偉い国王がいる場だ。それに相応しい建物だろう」
「…ん、おうさま……すごい。お城も…すごい」
珍しく、ナツが興味を持っている。
その事実に嬉しさを噛み締める。
「………」
「あの、黙って見つめられるとさすがに恥ずかしいと言いますか…」
「あっ、すまない!そんなつもりでは…」
喜ぶナツとそれを嬉しがる僕を何も言わずに見ていた騎士様は、またしばらく黙った後、こう言った。
「入団試験は4日後だ。その日なら、城内に入っても問題無い。私は審査員ではないから自由に動ける」
「それって…」
「4日後、城内を案内してやろう」
「ほんとですか?それは嬉しいですけど…」
「心配は無用だ。業務に支障は無い。むしろ、あの時助けてもらったお返しができるのであれば、こちらからお誘いしたいほどだ」
「そんなことはっ……いえ、それじゃぁお願いします」
ナツが嬉しそうにしているんだ。
ここで断ることは出来ない。
せっかく騎士様が快く案内してくれるというのだから、今回はそれに甘えさせてもらうことに。
「では4日後、ここで待ち合わせよう。木刀、助かった」
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「二人とも!待たせてすまない」
「大丈夫です。僕らも今来たところですから」
入団試験当日。
4日前は店の依頼ということで普通に会っていたものの、今日は試験者では無いので目立つ可能性があり、僕らは普段着ないような服装でやって来た。
一見普通の服装だけれど、魔力遮断と認識阻害魔法が付与されているので、魔力は漏れないし、魔力を通せば姿を隠すこともできる。
「残念だが、城内部には関係者や城の一部の者以外立ち入れない場所も多い。そこは勘弁してくれ」
「こうして案内していただけるだけで充分ですから。そんなに申し訳なさそうにしなくても」
「ん……」
「そうか。では中に入ろう。入団試験で人が多い、はぐれないようにだけ気をつけてくれ」
そんな騎士様の後に続き、僕達は初めてお城の中に足を踏み入れた。
入ってまず初めに感じたこと。
それは、『壁の外と内で世界が違う』ということ。
そして、
「庭が広いんですね……お城と同じくらいの広さだ」
「すごい……ひろくて………人がいっぱい」
「ははは。試験会場はあっちの騎士団の訓練所だが、ここよりもたくさんいるぞ」
人の多さに少し日和るナツに対し、騎士様は慣れた足取りで人の隙間を縫って通っていく。
日頃から体を動かしているかの差が歴然としている。
「まだ始まったばかりだから入団希望者が大勢いるみたいだ。先に城の中を案内しよう」
「お願いします」
人混みを避けるように、広い庭を迂回して正面玄入口へと向かう。真ん中には大きな噴水があり、その入口も見上げるほどに大きい。
「見ての通りここが城の入口だ。大広間に繋がっていて、そこから会議室や玉座の間に行ける。各部屋にも繋がる廊下があるが、そちらは別の入口を使用した方が早いだろう」
「おうさま……こわい?」
「国王様はとても優しい。誰にでも優しく、守るための知識と実力がある、尊敬できる御方だ」
「ミオン…も……やさしい」
「そ、そうだろうか?」
ナツが褒める姿も珍しい。
そして、騎士様は照れている。
そんなやり取りをしつつお城の入口を横切り、もうひとつの入口……裏口というより二つ目の出入口のよう…を使って中に入った。
「ここはメイドや料理人、あとは警備の騎士団の人がよく使っている。……お嬢様が脱走する時もここが使われる」
「だ、脱走って……」
「城の中でじっとしていられる性格では無いのだ。城の皆からも愛されているため、見つかってもさほど意味をなさない」
「あ、そういえば初めて会った時も……」
「よくある事だ」
「よ、よくあっていいのかな……」
そのまま、キッチンや倉庫、使用人たちの部屋や着替え部屋など、たくさんの部屋の前を通り過ぎて2階に上がった。
「ここは図書室。国中の書物がここにある。恐らく国内で最も書物が置いてある場所と言えるだろう」
「す、すごい……」
もはや声にならないほど巨大な空間。
そこにびっしりと詰まった書物の数々。
頭上にはただの図書室という一室に、反対側へ移動できる橋がかかっている。部屋に橋?と思うだろうが、見たままの事実である。
「……となり…は?」
「あぁ、そっちは自習室だな。基本的に王子と王女たちが使われている。……ん?そういえば今日のこの時間は…」
「あーーーーーっ!!!ナツにセイタさんではないですか!!何故ここに?」
「お嬢様……自習の時間では?」
「そうですよ!休憩中にお二人の声が聞こえたような気がしたのでつい」
「おはようございます、アヤメさん」
「……ん」
「か、可愛い…可愛らしい服装ですねナツ!!!」
「んぁ〜」
「お嬢様、嫌がってますよ」
「ハッ?!す、すみません……」
いつものようにナツを抱きしめている。
お城の中でも外でも、あまり変わらないようだ。
皆から好かれているというのも頷ける。
「それで……お二人はなぜ?」
「この間のお礼に、お城の中を案内しているのです。興味がおありのようでしたので」
「それなら私もっ!」
「勉強はどうするのですか」
「そんなものは後です、後。友人との交友の方が大切でしょう!!」
「また勢いだけで押し切るつもりですね……。こうなると止められないのですが、お二人共構いませんか?」
「むしろ、お時間を取らせてしまってすみません」
「それは違います!優先順位というものですから」
「べ、勉強もしっかりしてくださいね?」
こうして、お城の見学にアヤメさんが加わることになった。騒がしさが増す中、さらに案内は進む。
どうも、深夜翔です。
ファンタジーな世界の本物のお城。
それも、国王様の住まう場ともなれば、その大きさは想像を絶するものでしょう。
興味が湧くのも仕方がありません。
ここまで楽しそうにしているナツは、かなり珍しいですよ?
次回は、見学の続きに入団試験……事件の香りも?
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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ではまた次回……さらば!




