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災難なお客様

――私がその店を見つけたのは、本当にたまたま…偶然が重なった結果だった。

　その日は月に一度の貴重な休日だった。

　私は王城にて近衛騎士団を指揮する団長…になってしまっただけの女騎士。本来はお嬢様の護衛として彼女の近くでお守りしていたかったのだが、現在は騎士団に入団する者も少なくなりつつあり人手不足が否めない。

　常にお嬢様の近くに居る事ができないのだ。

（……アヤメお嬢様、今頃何をしていらっしゃるのだろうか）

　去年までは、休日に城から出ては、この街でこっそり買い物をしたりお茶をしたりと楽しかった。

　一人の休日では、何もすることが無い。はっきり言って暇だ。お嬢様の居ない休日など、国のない大陸……切れ味のない剣、彩のない日常だ。

「はぁ…」

　萎れたままの私は、それでも何かを求めるように街へと繰り出していた。城下町は今日もかなりの賑わいを見せている。

　あの花屋は、お嬢様のお好きな花を知るきっかけとなった場所。向日葵（サンフラワー）。いつも元気で太陽のようなあの方にはとてもお似合いの花。

　あっちの露店は、お嬢様が気に入ったたい焼きと呼ばれるスイーツが売られている。

　……確かにあれは美味だった。

　美味しさのあまりに溢れる彼女の表情と共に記憶に残っている。可愛すぎるお嬢様をむしろ私が食べてあげ………

「ハッ？！私は何を考えて……」

　まずい、お嬢様成分の不足で頭がおかしくなっているらしい。歩きながら首を振って考えを改める。

　ふと。意識を周囲の景色に戻すと、目の前には巨大な噴水。いつの間にか街の隅まで来ていた。

ぐぅぅぅ………

　気を緩めた反動なのか。はたまた朝から何も食べていない事にようやく気がついたからか。ここぞとばかりに腹の音が空腹を報せる。

「何か食べる物を…」

「きゃァァァァ！！ひったくりっ！！返して！」

　その時、たった今歩いてきた道から悲鳴のような叫び声が聞こえてくる。急いで声の聞こえた場所に駆け寄ると、一人のご婦人が尻もちを着いて道端に座り込んでいた。

「どうされましたか？」

「私の大切な荷物がっ…」

「誰に盗られたは分かりますか」

「普通の男性でした…。私にぶつかった後、そのままあっちの方に」

「分かりました。私は追いかけて捕まえてきますので、あなたはここで待っていてください」

「は、はい…」

　腰には日頃から持ち歩いている剣がある。服装は激しい動きに向いてはいないものだが、ただの盗人一人相手ならば問題無い。

　素早く立ち上がると、ご婦人の指した方角へと走り出す。そうして人の間を縫って走り続けること数分。

「あれかっ！！」

　いかにもな怪しさの動きをする男の後ろ姿を捉えた。妙に挙動不審である。もしかすると仲間がいるのかもしれない。

（合流される前に捕まえるっ）

「っ？！」

　人混みに紛れられる前に接近したが、もう少しのところで勘づかれて走り出す。

　しかし、近づいた事で手に女性用の豪華なバックを持っている事が確認できた。盗んだ物で間違いはなさそうだ。

「待てっ！！」

　急いで後を追うが、盗人もかなりの手馴れのようでその差は縮まらない。それでも執拗に追いかけ続けていると、急に方向を変えて狭い路地へと逃げ込まれた。

「わざわざ人が少ない所へ逃げるとは…」

　より追いやすくなった。

　頭上では紐で吊るされた洗濯物が揺れている。こんなにも天気がいい日だと言うのに、私は何をしているのだろうか。せっかくの休日に、知らない盗人と追いかけっこ。

　人助けとはいえ、もう随分な距離を走ってきたように思う。

「へっ、掛かったな」

　追いかけながら余計なことを考えていたせいだ。盗人が急に向きを変え、頭上の紐に向けて小型のナイフを放つ。洗濯物が干されている紐にナイフが当たればどうなるか。

「まずっ」

　足を止めた時には既に遅く、空から大量のシーツ等の洗濯物が降ってきて直撃してしまう。

　油断した。

　大きな布に絡まれてしばらく身動きができない。

やっとの思いで布の拘束から抜け出した時、既に男の姿は無く、静かな路地が私を笑って見下ろしているようだった。

「…あーこれ、どうしよう」

　目の前には乱雑に放置された洗濯物の山。このままここに放置はさすがに許されない。

「戻そう…」

　洗濯物の持ち主の方、少し汚してしまってすみません。

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「はぁ。もう追っても無駄か」

　ロープを元の位置に張り直し、散らばった洗濯物を元に戻した。時間にすれば数分の事だが、逃げる相手を見失うには充分な時間と言える。

　諦めて元の道を引き返……

「どこだここ？」

　走ってきた道が、実はかなり入り組んだ路地な事に今更気がついた。追う事に夢中で自分が走っていた道を見ていなかった。

　要約すると、道に迷ったのだ。

　災難ばかりで気が滅入る。

「とりあえずこのまま進んでみるか」

　街の中であることは確かなのだから、ここに留まる理由がない。人のいない路地を道なりに進んでみることに。

　相変わらず空は高く、綺麗な青空か広がっている。

　何度か角を曲がりこの道はどこまで続いているのだろうと考え始めた頃。

　今までとは違う、緩やかな曲線を描くカーブの通路へと差し掛かる。そろそろこの路地から抜けられるかと思い駆け出す。

「……ん？」

　すると、その先に一人の少年と見覚えのある男の人影を見つけた。

　さらに近づくと、見覚えのある男が先程まで追っていた男であることが分かる。

　……何故倒れ伏しているのか。

「し、少年！その男は……」

「えっと…仲間？」

「違う！そいつは盗人で、私は騎士だ。ちょうど追っていたのだが」

「やっぱり…このバックはこの人の物では無いんですね。どうぞ」

　縄でぐるぐるにされた男から、少年は小綺麗なバックを取り出して渡す。

「…この男は君が？」

「まぁ…襲ってきたので」

　とても無表情な少年。

　それが私が彼に抱いた最初の印象だった。

「と、とにかくっ。その男はこちらで引き取らせて貰う」

「どうぞ」

　とりあえず、これでご婦人の物は取り返した。

　ぐぅぅぅ……

　一息ついて安心したのか、忘れていた空腹が再び襲いかかる。

「………」

「…………」

　気まずい沈黙。

　少年の視線が私の心に刺さる。

　……恥ずかしい。

　みるみる顔が熱くなる。

　すると、少年が小さな顔でこう告げた。

「何か…食べますか」

「い、いいのか？」

「大丈夫です。食べたい物とかあれば」

「た……」

「た？」

「たい焼き………」

　しまった。

「あ〜、これは…その……」

　少し前にたい焼きの事を考えていたせいだ。

「いいですよ。たい焼きですね」

「作れるのか？！」

「はい。少し時間がかかるので、店内で待っていてください」

「……お言葉に甘えさせてもらいます」

　私は恥ずかしさも相まって、肯定以外の言葉を失い、首を縦に振ることが精一杯だった。

どうも、ひとまず二部目の投稿、深夜翔です。

第一部にして、30PV越え…嬉しかったです。

ですがやはり、継続的に読んでいただくためには継続的な投稿が求められるのですね。

予定通りの3日後投稿になりますが、これ以上は絶対に遅くならないよう、気合を入れて書き続けたいですね。

最後に、ここまで読みに来てくださってありがとうございます。感想や評価、ブックマーク登録をしていただけると継続の励みになります。

Twitter（@Randy_sinyasho）もやっていますので、そちらのフォローもよろしくお願いします。

ではまた次回……さらば！