予定外の救出
「………」
外の天気が荒れている。
こんな大きさの雹なんて、当たったらひとたまりもない。
「……」
「やっぱり…しん…ぱい?」
「そうだね。さっきも言ったけど、僕たちに出来ることはもう無いよ」
彼女を送り出したこと、魔道具を作った事。
それらが正解だったかどうかは分からない。
もしかしたら、危険な道へと誘導してしまった可能性もある。少なくとも心配する理由はそれだけで充分だった。
「こっそり…探し…に?」
「行ってもいいけど、かえって迷惑になるかも」
「……でも、居場所……もしかしたら…分かる」
「何かあったの?」
「…森の中……少し…騒がしい」
「侵入者ってことかな」
「多分」
「様子を見に行くくらいはしてもいいよね」
「あたり…まえ」
そう決めた後の行動は早い。
営業中の札を裏返し、店内を片付けて灯りを消し、森への扉をくぐる。
自宅へ戻ってくると、椅子に座った母様が何やら気難しい表情で窓を眺めていた。
「あら、今日は随分早いのね!」
「母様こそ、何かあったの?」
「ちょっとねー。前に森の南西の出入りについて調べて貰ったじゃない?どうやらそこから森の中に魔物が入ったみたいなの」
「ちょうどいいや。なら、僕が倒してくるよ」
「いいの?」
「他の用事もあるから」
「そう…ならお願いするわね!」
「露骨に元気に……母様、ただめんどくさかっただけなんじゃ無いの」
「し、失礼ね!!そのうち行こうと思ってたのに」
「……そのうちねぇ」
「…絶対……行かない…」
「だね」
「うぅ…子供たちが辛辣だわ……」
僕は姿を霧と同化させるローブを着て、今すぐ出発出来る準備を整えた。
「…にぃ……ナツも」
「一緒に行く?」
「行く」
「じゃあナツもこれ、着ておいてね」
同じ物をナツにも渡し、捜索の準備はできた。
「じゃあ、行ってくる」
「気をつけてね。何かあったら呼んでいいから」
僕達はあまり使うことの無い家の玄関を飛び出し、森の中へと駆けて行った。
「南西付近だと、ちょっと遠いよ」
「大丈夫……頑張る」
「不安だなぁ」
ナツは空中を飛んでいるから、体力は使わないけれど、常に魔力を使っているから疲労感は感じる。
あまり疲れると、ナツはどこでも寝ちゃうからしっかり見ておかないと。
「確認だけど、方角はあってる?」
「…ん。気配に…近づいて……るよ」
母様ほど正確な位置や情報は分からないが、ナツも母様と同じ能力を持っている。森の中の感覚は、ナツに頼るのが一番早い。
「ある程度森の奥に行けば霧の結界がちゃんと機能してるはずだから、魔物とか侵入者は森の端にいると思う」と母様が言っていた。
ナツの感覚と照らし合わせても、反応があるのは森の端。騎士様達と魔物が遭遇していなければいいけど…。
「…にぃ……あそこ」
ナツが気配を見つけ指を指す。
「ぐるrrrrrr」
「ブラッドウルフ……この森には生息してなかった魔物だね。倒した方がいいか」
「…たくさん……いる」
「どっかに向かってるみたい。倒しながら追いかけてみよう」
「りょー……かいっ」
空中でくるっと一回転するナツは、何やら嬉しそうにしている。久しぶりの森の中だからかな?
精霊にとって、この森の環境と魔力の質は最適だと言える。
今度はこんな状況じゃない時に連れてきてあげたいな。
「"ウィンドスラッシュ"」
剣から風の魔法を生み出す。
本来、速度と威力は申し分無いが範囲が狭いため回避しやすい初級魔法だが、この森との相性は最高。
霧の魔力で視覚的にも魔力探知でも感じ取りにくい。
狙えばほぼ当たる。
「魔石は回収しておこう」
倒した魔物からは魔石が落ちる。
それらを放置していると有害な魔力となる可能性が僅かながら存在する。
森の結界に影響があっては困るので、その辺は気にしながら進む。
「にしても多い……もしかすると率いている魔物がいるかも」
「…あっち。違う魔力……光?」
「光の魔力って……勇者か聖女しか」
言いかけて思い出す。
王女様の話では、騎士様は護衛の任務中だったとか。
護衛が必要なら、高貴な方だと捉えるのが妥当だ。
それも王城の騎士に頼まなければならないのだから、自身は自由に命令できる兵や護衛がいないとなれば。
「護衛って、聖女のことかも。ナツ!!その魔力の方向!」
「りょ…かいっ」
聖女の魔力の反応があるとすれば、それは回復のため。
怪我人がいることの証明になる。
「"風の弓矢"」
空から降り注ぐ無数の矢。
ものすごい突風が発生し、あの霧でさえ薄れる。
ナツの放った魔法は、大量にいた魔物の群れを蹴散らすのに充分すぎる威力だった。
「見えた」
同時に、ボロボロの鎧を着た女性と群れのボスらしき魔物を視認した。
「サガルノ剣術。"新天眼鏡"」
まさに一騎打ちの現場に出くわしたよう。
一度の斬撃で左右同時に攻撃を加えたように見える。
「凄い……」
洗礼された無駄のない動きと、一度のブレもない完璧な剣さばき。
見よう見まねでできるような技ではない。
僕では剣先を追うことはできても真似は出来ないだろうな。
けれど……それでは仕留めきれない。
相手の魔物は狂人狼。
一度殺すと決めた相手は、その命が尽きるまで追いかけるまさに狂気。
右の首筋を貫いた程度では止まらない。
「ナツっ、照準!頭!」
「…"照準……確定"いける…よっ」
「"迅速なる弾丸"」
放たれた見えない弾丸は、ナツの照準によって確実に人狼の脳天を撃ち抜いた。
その弾丸は僕にすら見ることが出来ない速さを持つ。
狂人狼が倒れる。
続けて騎士様もが倒れる。
騎士様の方はただの疲労だろう。
「"スリープスモック"」
僕は辺りに気を配りつつ、顔を見られないよう睡眠作用のある魔法を使う。
ここら一帯生命は皆眠ったはずだ。
急いで騎士様達を保護しようと近づくと…
「誰?!」
しまった。
聖女にデバフや状態異常といった効果は効かないんだった。完全に忘れていた。
「ナツ、あっちに残った魔物は任せた。…やっぱりここに居たよ」
「お…けー」
残りはナツに任せ、僕は周囲の確認をする。
皆が倒れているが、命を落とした者はいないらしい。
大きな怪我も見当たらないから、この聖女様はかなり優秀のようだ。
「あのっ、誰…」
「"完全回復"」
聖女様の質問よりも先に、全ての傷を癒す。
「なっ……完全回復…?!」
「僕は……その、ミオンさんの知り合いです。訳あって名前は名乗れませんが、出来れば僕の事は忘れていただけると」
「森の外まで案内します」
とはいえ全員をここから運び出すのは無理だ。
それに森の外は雹。
むやみに放り出す事は出来ない。
(……近くに来てるし、大丈夫かな)
僕は森の外に見知った気配を感じ取り、心配していた問題は直ぐに解決する。
「外に出たらあなたを助けに来た人達がいます。もう一度ですけど、僕たちの事は忘れていただけると」
「そ、それは……分かりました。ですけど一体ここからどうやって」
「ありがとうございます。では、"座標転移"」
そしてその森に、僕ら以外はいなくなった。
どうも、深夜翔です。
兄妹の連携技。
精霊であるナツにしかできないこと。
セイタにしか使えない魔法。
お互いの強みを活かし、補い合う兄妹はまさに無敵。
本当はもう少し派手に戦闘が出来たら良かったですが、それはまた別の機会に…。
最後に、ここまで読んで下さりありがとうございます。
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ではまた次回……さらば!




