定休日(3)
「んだとてめぇ、誰に物言ってんのか分かってんのかよ」
「……知らないですね」
そもそも冒険者でもない僕が知るはずもない。
「俺ァザイードだ。A級冒険者ザイード様だぞ!」
「はぁ…それではザイードさん、僕達はこれで」
「待てよ。逃げんのか」
「逃げますよ。目立ちますから…」
口ではそう言ったものの、こういった輩の性格で目立たない選択は存在しないと理解している。
「舐め腐ったガキだなクソガキっ!!!」
予想通り、背を向けた瞬間に殴りかかってくる。巨大な身体から振り下ろされる拳は、ただ大きいだけの無防備な生身を晒す。
あと十数センチで僕の後頭部に直撃する寸前。
ズジャァッッ
「ぐぁぁぁぁぁぁぁっっっ」
肉が引き裂かれたような鈍い音と、男の激痛による叫び。次に認識する情報は、男の腕があった部位から吹き出る鮮血と、目の前に落ちる男の片腕。
「きゃっ…きゃぁぁぁぁぁぁあああ!!」
そして最後に、この場にいた人々の入り交じった悲鳴。最高位精霊の加護の前に、悪意を持って害を成そうとしてはならない。すれば相応の報いを受けるから。
「うっ…うぅ……」
目の前では瀕死の男。騒ぎを聞き付けて警備隊が集まってこられても困る。
「"完全回復"」
たったそれだけの魔法で男の身体は何事も無かったかのような綺麗な体に戻る。
「"記憶改竄"」
範囲指定はこのギルド内部にいる人間全て。
――僕以外の全ての時が止まる。
まるで別の空間に迷い込んだような、人の記憶が混在する不透明な空間。浮かび上がる文字のような何か。
それらを書き換え、元に戻す。
ここにいる全ての人の記憶から、『僕に関わる全ての記憶』を消した。
限られた神域に住む者だけが扱えるという禁術。人の記憶を操るという禁忌に踏み込んだ魔法。僕らの日常を護るため、僕は迷わずに魔法を完成させた。
「…あれ、俺は何を……誰だお前?」
ここまで1秒に満たない僅かな時間での出来事。
しかし、ここにいた全ての人は、その時間が無かったことになった。
「こんにちは、冒険者ギルドです」
「だからさー、この間のダンジョンで」
「報酬のいい依頼は無いか…」
誰もが平穏な一日を過している。
目の前の男も、突然座り込んだように見えたはずだ。僕は何も言わず、先程の範囲指定に含めなかった彼女の手を引いて立ち去る。
「おいてめぇ!ちょっとまちや……が…ひぃっ」
男は目の前から遠ざかる僕に不信感を抱き呼び止め…られずに小さな悲鳴を漏らして後ずさる。
当然だ。
記憶は消せても、恐怖心までは消えないんだから。
あの巨大な男が怯えている様子を見て、周囲からの注目が集まり始める。
これ以上認識される前に、ここから退散しよう。
僕は黙ったままの彼女を連れてギルドをでた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ちょうどお昼時、賑わいを見せる街中を少し足早に通り過ぎる。手を引かれているニアは、僕が話したい事を理解しているようで黙って着いてくる。
ギルドからも離れ、あまり人のいない道まで移動した僕は手を離して彼女と目を合わせる。
「先に……黙っていてくれてありがとう」
「うん…私こそ、助けてくれてありがとう」
無表情のままお礼を言う僕に対し、ニアは取り繕った笑顔でそう返した。
しかし、何故か恐怖の一切が見えない。
「あれを見た上で…怖くないんだね」
「まぁねー。私の秘密もバレちゃったし」
――そう。
実際にあの魔法を使った時。
僕は彼女を範囲指定に含めなかったのでは無い。
彼女が僕の範囲指定から逃れたのだ。
「その瞳……精霊眼と魔人眼かな」
「正解!」
あの時、僕が指定したのは範囲内全ての人間だけ。
その指定から眼を使って抜け出した。
精霊眼は一部の精霊だけが持つと言われるもの。
周囲の魔力を可視化でき、魔法の痕跡や魔力の質などまで見ることができる。
魔人眼は魔人族が持つ特殊な眼。
その能力は未来視に近いもので、自身に影響を受けそうな魔法や攻撃を数秒前に察知できる。
「私の両親が精霊と魔人族なの」
また珍しい組み合わせだ。
母様の話では、魔人族と精霊はあんまり仲が良くないと聞いた。
……相当な苦労をしてきたんだろうな。
「けど、ニアは人間……だよね」
「すごく複雑なんだけど、私のお母さんは精霊と人間のハーフで、お父さんが魔人族と人間のハーフなんだ。えっと…遺伝?の影響で何故か私は人間だった。両親から受け継いだのはこの眼だけ」
「ってことは、ニアのおばあちゃんは…」
「ううん、セイタの知ってるおばあちゃんは人間だよ。おじいちゃんの方が魔人族」
すごく複雑。種族が違うとその寿命も違う。
今話に出てきた種族の中では、人間が圧倒的に寿命が短い。他種族での関わりや交わりが少ないのは、これが理由だと母様が言っていた。
「だいたい分かった。僕の方も……まぁバレてるか」
「えっと…実は勇者……とか?」
「僕はただ加護が多いだけの一般人」
「その能力で一般人は嘘だよ!!」
盛大にツッコまれた。
「ふふっ」
「ははは」
その拍子に、今まで真剣な話に緊張していた身体がほぐれた気がした。
「誰にでも秘密はあるもんね!」
「詳しいこと話せなくてごめん」
「いいよ!黙ってたのは私もだし、秘密を明かせた初めての人だもん!」
秘密…か。
僕も自分がなるべく隠してきたモノを知られたのは初めてだ。何となく、彼女の言いたいことが分かる気がする。
「それに、セイタの加護が有り得ないのは、初めて会った時から見えてたし……」
「…へーー」
「あっ、違うよ!!確かに気になってはいたけど…お店までつけて行ったことは無いよ!」
「…僕の店を知ってるんだ」
「え、えっと…その……あ」
「はははっ、冗談だよ。初めて会った日、僕の後をつけてきてたのは気がついてたし」
「あ〜セイタの意地悪」
あの時はまだ、周囲への警戒が強かった。すぐにつけられているのが分かり、帰る前に振り切った記憶がある。
「あ、あの…さ。あんな事あったけど、…これからも仲良くしてくれる?セイタと仲良くなりたかったのは本当なんだよ!!」
歳上とは思えないモジモジとした態度。
オマケに余計な念押しで、逆効果だ。
僕じゃなければ…ね。
「僕も、なんだかんだで今日は楽しかった。今度は是非、僕の店に遊びに来てよ」
「絶対行く!!」
ニアのような人なら、ナツとも仲良くなってくれるだろう。彼女ならば、ナツの友人になっても信頼できる。こうして、僕はこの世界に来て初めて、僕の秘密の一部を知る人と仲良くなった。
どうも、深夜翔です。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回で定休日の話は終了です。
かなり引っ張りましたが、少年と少女の秘密……ついに明かされました。予想通りと言えば予想通り、だったでしょうか。ご期待通りであれば良かったです。
もちろん、少年はまだ明かされていない秘密もあります。
あっ、次回はお店の話に戻る……かも?
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ではまた次回……さらば!




