エヌ嬢の転生
「エヌ、お前との婚約を破棄させてもらう!」
エヌ嬢の婚約者の王子は、庶民あがりの男爵令嬢に腕を取られながら高らかに宣言した。
その婚約破棄の理由であるらしい冤罪の数々を誇らしげにあげていく王子に、エヌ嬢は頭を抱えた。
自身の潔白を証明しようとする言葉は何一つ王子に届かず、エヌ嬢はそのまま婚約を破棄することになった。
一方的に婚約を反故にされた立場ではあったが、貴族社会におけるエヌ嬢の立場は悪くなり、次の婚約者はいつまでたっても決まらなかった。
老いてなお一人きり、辺鄙な田舎にある屋敷で暮らすエヌ嬢は、死の間際、人生をやり直したいと神に願った。
すると神が現れ、一つだけ条件を呑めば、その願いを叶えてやろうと言い、エヌ嬢はそれを受け入れた。
* * *
エヌ嬢が目覚めると五歳に戻っていた。
信じられない思いではあったが、今度の人生も無駄にするわけにはいかない。王子に近づかず、そもそも婚約が成立しないようにと画策した。
ところが、自分に関心がなかったはずの王子がなぜか自分に夢中になって、逃げても逃げても追いかけてくる。
そのうちにエヌ嬢も王子の愛を受け入れ、それから二人はいつまでも幸せに暮らした。
「いや、エヌよ。これでは条件が満たされていない」
神の声が聞こえ、エヌ嬢はまたやり直しを迎えることを悟った。
* * *
今度もまたエヌ嬢は五歳に戻っていた。
やり直しの原因はよくわからないけれど、二度目と同じ流れを踏まないほうが良いだろう。そう考えたエヌ嬢は早々に他の相手と婚約をした。
なぜか王子が言い寄ってきたが、歯牙にもかけず、無事に新しい婚約者と結ばれ、仲睦まじく生涯を過ごした。
そこにまた神が現れ、条件を満たしていないとエヌ嬢に告げた。
* * *
エヌ嬢はまた五歳に戻った。
人生も四回目ともなると流石にうんざりしてくる。この運命を変えるためにエヌ嬢は勉学に励んだ。
次第に頭角を現し、素晴らしい知識人となったエヌ嬢は、その賢さを高く評価され、王子の婚約者に選ばれた。
婚約者となっても、エヌ嬢は王子に目もくれず勉学に励んだ。
「エヌ、お前との婚約を破棄させてもらう!」
ある日、王子が庶民あがりの男爵令嬢に腕を取られながら高らかに宣言をした。
既視感を覚えながら、エヌ嬢は一つ一つ王子の話の矛盾をつき、王子を論破した。
結果的に、婚約は破棄ではなく白紙に戻り、エヌ嬢の家は多額の賠償金を手にした。
今度こそ、この呪われた運命が終わるのではないか。期待したエヌ嬢に神は無慈悲にもやり直しを告げた。
* * *
五回目のやり直しが始まってすぐ、エヌ嬢は両親に王都から離れた自領に引きこもりたい旨を告げた。
渋る両親をなんとか説得して、領地に定住したエヌ嬢は前回の転生で得た知識を駆使し、領地の活性化に努めた。その知識により、領地は大いに栄え、エヌ嬢は領民に愛された。
充実した日々を送るエヌ嬢に、やはり神がやり直しを告げると、たまらずエヌ嬢が口を開いた。
「いい加減にしてください! そろそろ私を自由にしてください」
淡々とした声で神は答えた。
「おまえが呑んだ条件は、日刊ランキングで一位を取るというものだった。一位が取れるまで、お前はひたすら転生を続けるのだ」
筆者はテンプレもそれ以外も両方好きです。