魔法使いさん、こんにちは。
私は異常なのだろうか?
そう思ったのは今日だった。---だが、いま私の見ている風景の方が異常だろう。
「私が、怖くないのですか?」
そう、目の前にいる不思議な女性に問いかける。
「あなたこそ、宙に浮かぶ私が怖くないのかい?」
私は、首を横に振った。
「ふーん、私を見た者はみな、魔女だとか妖怪だとか言って逃げるんだけどね。まあ、でも今の君も私達と大差ないようだがね。ああ、ちなみに肉体的ではなく社会的にだがね。」
---やっぱり私は、異常なんだ。
「おいおい、そんなに私達と同じことが嫌かい。まあ、とりあえず名乗らせてもらうよ。」
彼女は赤い大地の上に立つとこう言った。
「私の名前は黒咲 紅だよろしくな。」
「じゃあ、こちらも、白波 青よ。」
みれば、みるほど不思議な女だ。頭には黒い帽子、身体には黒いローブ、そしててには箒といういかにも魔女らしい恰好をしている。
「青あんたが家に帰りたいのなら私の箒に乗れ、ここら辺かたずけといてやるから。」
「いいのですか?」
「ああ、帰りたいなら早くのれ、ここに置いていくぞ。」
お言葉に甘えて箒に乗らせてもらう。
「じゃあ、しっかりつかまっていろよ。」
紅がそういうと何とも言えない浮遊感に包まれた。
「青毎日あんなことをしているのかい?よかったら私が相談相手になってやるよ、すこしは気が楽になるかもよ。」
「・・・わかりました、私のあの行動は生態みたいなものなのです。人間が食事をしたり睡眠をするようにまで。昨日までは自分のことを異常だとは思いませんでした。だって、私は一人でいたし、周りも私を避けてきたから。」
「へえ、よく自分を守っているじゃないか、あんたは潜在的に自分の異常性にきずいていて、自分の異常性に気付かないために。それで、今日、変化があったんだね。」
「はい、厳密に言うと一月前ですけど、いつも私に話しかけてきた子がいたんです。そして、今日彼は言ったんです、僕にはそんな欲はないよ。と。」
「へえ、それは気の毒なことだ、異常は周りが普通だから現れる、そしてどんな時代にも異常は現れる。あんたのその異常性は悪くないし、治す必要もない、それはあんたもわかっているだろう?」
「はい。」
「異常に普通というのはなんだけど、普通は自分が異常だと気付いてもそこまで悩みはしない、だって、異常な奴からしたら周りが異常だからな。じゃあ、どうしてあんたはそんなに悩んでいるんだと思う?」
確かに自分が他人と違うなんて気にするはずがないない。ならば、何故私はあんなに悩んでいたのだろう?
「それはな、あんたがそいつに恋をしているからだよ。そいつと同じになりたい、そいつと自分が生きている世界が違うのがいやだからだ。」
ーーーそうか、私はあいつに恋をしていたのか。
「なんだい、否定せずに受け入れるのかい。まあ、それもそれでありかもしれんな。一つ、異常者からの忠告だ。決して自分の異常を治そうとするなよ、その異常を治そうとすると、もっと大きな異常が現れるからな。なあに、人間誰しも異常をかかえているからな。」
「なんか、ありがとうございます。少し気が楽になりました。」
「それなら良かった。ほら、住宅地に出たぞ。」
ベランダに立つと、さっきまで宙に浮いていたことを示すように体が重くなった。
「また、赤い大地の上で逢えたらな。」
「ええ、赤く染めて待っていますから、さようなら、魔法使いさん。」