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ガラスの満月<ミヅキ>  作者: ミホリボン
第1章
30/35

25球目「また独り」

「お前ってほんと暗いよな。なんだよこのキーホルダーの数!自分を名前呼びして良いやつは顔が可愛いやつだけなんだぜ!?わかったらいつも通り泣けよブス」


「あんたねー、クラスでの立場わかってるの?物一つ隠されたくらいで泣かないでよ恥ずかしいからw」


「ブース!ブース!オタクでブスってほんと救いようがないなお前www」


 ここなが捻くれているからだろうか。違う。おそらくはこいつらのせいで曲がってしまったのだ。


 小5になってから、毎日のように涙を浮かべる日々が続いた。教室で、トイレで、音楽室の倉庫で、風呂で、自分の部屋で......自己否定したかった。そう思いながらも涙を拭い家に帰ると、パパとママが過保護な程にここなを甘やかしてくれる。


「ここなが生きて帰ってくるだけでママ達は幸せだから。」


 胸が苦しい。生きてて良いんだと思える。両親に恵まれたからこそ、捻くれたここなは学校でのここなを隠し続けた。常に体に鳥肌が立つ。寒気が走り、息が苦しくなる。それでもいじめに耐え、何かが変わるかもしれない微かな希望を胸に中学へ自転車を走らせる。


 何も変わらなかった。小学からのいじめグループの端くれが少しいるだけで、すぐにいじめが始まってしまう。


 生きてるって馬鹿馬鹿しい。学校がくだらなくなり、初めて不登校を実行した日のことだった。


「ねぇあんた、もしかして三吉中の1年生......?」


 太鼓の達人に熱中する馬原恋を見つけたのは。



「ここなさ、メガネかけない方がかわいいじゃーん!」


「あはっ、そう、なんか......?」


 ゲーセン、ファミレス、漫画喫茶。時にはパチンコもした......補導ギリギリで危なかったなぁ。


 人生に楽しみを見出せなくなった者同士、「今」を最高に楽しんだ。


 そして恋と絡んでいくに連れ、学校生活にも変化が現れ......


「おいおいなんであのオタクブスが馬原と絡んでるんだ?化粧して地味にかわいいし」


「最近森山に絡もうとすると馬原さんが横入りしてくるのよね......流石に馬原さんには手は出せないよ、何されるかわからないし」


 三吉市にあるもう一つの小学校、三吉第二小の女番長だった恋に付き纏うここなに手出ししてくる者はほとんどいなくなった。


 みんな、仲良くしてくれる。薄っぺらい、表面上だけの付き合いだってことは、バカなここなにもわかる。


 でも今は、野球部に入ってからは......!


「森山さん【グラプリ】やってるんですか!?推しキャラは?あっ、ごめんなさいつい興奮しちゃって!」部室でゲームを開いていただけで駆け寄ってくる理子。


「こ、これが【Soralis】なんだね、ここなちゃんの大好きなアイドル......」仕方なく見せた映像に興味津々の果凛。


「ここなちゃん、今日は呼ばれる前に来ましたよ?」部活がある度にしごいてくるちひろ。


「また果凛に同じような事をしたら今度は殺すから」満月......そうだ、ここなは自分が体験したあの地獄を果凛へとなすりつけようとしていた!あの苦しみは自分がわかっていたはずなのに!


 果凛、満月......?捨てるような目でここなを見ないで......!


『あなたのせいで負けた』


『あなたがエラーしたから』


やめて......


『あなたが償いを果たせないから』


やめて......!


『さっさと抜けろ』


やめて!!!



『必要ない』






「一人にしないで!!!」


「きゃっ!?どうしたのいきなり大声で手を伸ばして......頭は大丈夫?クラクラしない?」


 夕日が照らす保健室。容態を見守っていた彩野先生が驚きのあまり読んでいた本を床に落とす。ここなはジャージ姿でベッドに寝かされていた。ここなが起きた事を知らせると、一眼レフを下げた見知らぬ三女生もここなのもとに駆け寄る。


「今部員を呼んできますね!えっと、部室は確か......」


「家庭科室の前!誰かが外で暇潰してるだろうからすぐにわかるはず!」


「任せられました!」三女生はせわしそうに保健室を出ていく。


「......森山さん、どこまで覚えてる?打球と正面衝突したのよ?」


 おでこの辺りがジンジン痛む。時間を確認したいと首をあげようとすると、彩野の手がおでこを静かに押す。


「今は16時38分よ、5時間くらい気を失ってた事になるわね」


ここなは首を枕に落とし、再び天井と睨めっこする。


「中間テストの翌日だから採点でいっぱいいっぱいで。職員室からあたしが駆けつけた時には馬原さんと島さんが担架であなたを運んでいたの。それから馬原さんがバッグを漁って着替えさせて、今の状態ってこと」


「よかった......」ここなが氷袋を額に乗せて安堵する。


「エナメル漁ったのが恋で」 


「いやどう考えてもそこじゃないでしょ」



「......あれからどうなったんすか」



「......最終回だったからって、試合中止になったのよ。それから昼飯を挟んで午後の合同練習。もうそろそろ終わってる頃かもしれないね」


「............」


 ここなの鼻をすする音が聞こえる。悔しいと言う感情が心の底から湧き上がってきて止まらない。


「呼んできました......あっ!?」


「ここな!大丈夫!!??」


 三女生が保健室の引き戸を開けると同時に、恋が腕の下をかい潜り、真っ先に簡易ベッドの足柵に手をかける。


 頬につたった跡が残る程の涙。顔を真っ赤にし、くしゃくしゃになりながら、恋は寝ているここなに抱きつく。


「起きた!よかった!ここなぁ!!!うわあああああん!!!」


「ちょっ、わかったからとりあえず涙拭いて!鼻水ついてる!なぁ離してって!」


 絶対に離れない恋とそれを引き剥がそうとするここな。


「みんな来てくれたのは嬉しいけどまだここなちゃんは起きたばっかで......」体調を心配し止めようとする彩野であったが、遅れて入ってきた満月達が「ここなが大丈夫ならしばらくこうやってさせておいてください」と彩野を止める。


 打球が衝突した時、恋も然りかつてのトラウマと重なって見えた。当たりどころによっては最悪野球どころか私生活も......いや、あの頃とは違う。二度も目の前で大切な人の人生を奪われてたまるか!


 「練習が終わってから気が気でならなかったみたいで、ずっと声を出して泣いてたんですよ。私が野球部に無理やり入れたばかりに!って......」恋の号泣に混ざりながら、満月が彩野に伝える。恋を想ってか、兄のことについては一切口にしなかった。


「そしたら私や早矢華ももらい泣きしちゃって......ボロボロだったんですよ」満月は瞳に浮かべた()れ涙を拭う。


 恋の内心、目を覚ましたという事実だけでもかなりの安寧を得られたのだろう。しばらく恋の叫喚(きょうかん)が白い天井に響く。そして、恋が泣き果てたところで、満月達は仰向けになったままのここなにあれからを話した。


「試合が中止になってからは昼飯を食べて、相手の監督の元で実践ノックとバッティング練習を行ったの。大体15時半には水上ウイングスとの別れを済ませて、そっからは自然な流れでみんな部室待機することになって。生田目監督が『17時になって目覚めなかったら119番を呼ぶ』って話してたからほんとによかった......」


 満月の説明が終わったところで横にいた理子が続けて話す。


「でもほんとに大丈夫?当たったのはおでこのど真ん中だからまだよかったけど......いやよくはないよね」


「う、うん、ボーッとするけど今はなんらおかしい所はないと思う」ここなは氷袋を頭から離さずにただ天井を見つめる。


「そういえば......さっきのカメラの奴は......?」チームメイトを呼んできてくれた三女生の事を指したのだろう。「呼ばれた?」と部員の間をくぐり、彼女はベッドの横へ足を進める。赤茶色の髪をしたポニーテール、ここなの第一印象は「いかにも陽キャ」であった。


「ハロー!違うグッドモーニング!自己紹介が遅れました、自分は“写真部”所属、6組の【伊住(いずみ)うらら】という者です!写真部の仕事でナイスショットを連発していたら貴方がいきなり倒れちゃって!まだ部活が終わらないということなので自分が連絡役をしていたんですよ!練習の風景とっても緊張感がイマイチですしね!」


「うらら......DQN(ドキュン)ネームか?」


「よく言われますー!家族みんなこんな感じなんですよー!」


「やっぱいるんだなそういう家庭......」


「あんたの名前もDQNでしょ」満月が素早くツッコミを入れる。



 皆がひとまず安心する中、保護者が迎えに来てくれたと教師であろう人物が伝えに来る。ここなはあった途端涙を流して抱きつく母親に大事にされながら、チームメイトとの別れを告げた。


 ここなの姿が消え、ジャージ姿の大群は保健室を後にする。


「みんな来てくれたのは嬉しいけど」そう口にした彩野であったが、彼女は1人、その場にいないことに気づいていた。


 ここなの容態を見た途端、胸に手を当て「よかった......」と撫で下ろしてそうなあの子が。



 同時間、小宮山果凛は一人、霊園の石畳をローファーの音を立てながら歩いていた。

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