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ガラスの満月<ミヅキ>  作者: ミホリボン
第1章
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17球目 「初心者」

生田目監督が “穴” があると気付いたように、水上ウイングスもまた、三女野球部の弱点はわかっていた。


それは、如何なるスタイル・フォームでも変えようがない、【創部1年目の野球部である】事であった。


『2週間後に急遽、生田目コーチ......いや監督率いる “三吉女子高校”と練習試合を行う事が決まった!生田目先生直々に、初めての試合をうちでやりたいと!』


監督の役職を生田目から受け継いだ石山が嬉しそうに話す。


初めての練習試合......この事だけで充分であった。エースの三峰、そして正捕手の武内は、初めて実戦の打席に立つ初心者が絶対に打てない、三峰にとっても武器である、インコース中心の配球を組み立てることは決まっていた。



***



真耶には分かっていた。中学生でインコースを突ける投手が多くいない事。それを操れれば、アウトコースにしか投げられなかった自分に、もう一つ上の次元でボールを出し入れできる。


だけども、真耶はインコースを投げるのが怖かった。バッターにこんなに硬く、重い球を当ててしまうのが。


『初球、アウトコース低めを狙い撃った球は、センターとライトの真ん中を突っ切る逆転のツーベースだ!』


『流石にわかってたか。インコース投げれればもっと良くなるんだけどね......』


かつて組んでいた先輩キャッチャーが頭を抱える。


『真耶、あんたブルペンの時はビシッとインコースに投げられるのにねぇ......』


辛酸を飲んだ日が続いた中1の夏。そんな時だった。


『やっぱり前の試合のアレ、インコースに投げるのが苦手だったんですね』


『ならば、投げられるようになるまで私が練習に付き合います』


あの人はヘルメットとバットを身につけると、右打席に入って、真耶のインコース練習に付き合ってくれた。


実物がいるとやっぱり怖かった。それも相手は監督......でも、でも真耶は1年間特訓を続けた。


直球があたってしまう時もあった。それでもあの人は、何も言わずに「続けましょう」と言ってくれた。気付けば真耶には制球力と、バッターを恐れない強い精神力が身についていた。


そして....


『第5回茨城県中学女子野球、見事強豪の常陸メデゥースを打ち破り、決勝進出に駒を進めたのは、水上ウイングスです!』


1回戦負け常連のチームを、真耶のピッチングで決勝へ導き、全国へ連れてってくれた。あの人との1年が報われた。監督にお礼の言葉を告げようとした時、真耶の胸は高鳴っていた。その時初めて気付いた。


あ、真耶、いつの間にあの人に本気で惚れていたんだ。


この1年であの人が退団するのはわかっていた。だから、優勝してからは何度も思いを伝えた。監督と中学生の禁断の恋など、生まれもしない事は分かっていながら.......



***


だから真耶は嬉しかった!!!こんなに早くあなたの前で再び投げる時が来るなんて!


本間への1球目、インコーススレスレ、渾身の直球が本間の腹の前を横切る。


「ストライーク!」


このコースの生きた球を生まれて初めて見る本間は、その場で見送るだけで精一杯だった。


続いて2球目、少し内に甘く入ったストレートながらも、またも本間は見送る。


1球目のインコースを見てからのアウトコースへの揺さぶり。初心者の本間には、ホームベースの横の長さ以上に距離を感じる。


たった2球で追いこまれた。しかし本間は全く焦っておらず、むしろここからが勝負だと気を引き締めていた。



『本間サン、最初のバッティングは打てると分かるマデボールの軌道をしっかり見るのデス。アナタの ”ヒトナミハズレタ“ 瞬発力、そしてスイングなら一発で仕留められるとワタシは思ってますヨ。』


試合前日、ティーに付き合ってくれたソフィー先生は、散らかったボールを集めながらそう言ってくれた。


そして、今日この打順で立っている意味。クリーンナップってのはよくわからないけど、2塁で果凛ちゃんが私に期待してくれている。


これで燃えねぇ奴はいないよなぁ?


心に言い聞かせ、構えたバットを一段と握り締める本間。



シートノックの時から見てました。グローブの出し方。ボールを取るときの構え方。捕球から投球までの体の流れ。あなたが初心者なのは明らかでした。


初心者が3番......つまり最初ヒットを打たれた1番、そして次の4番、5番以外は初心者である可能性が高い......ならば、次の4番に向けて真耶は爪を隠させていただきます。


キャッチャー武田へ首を振り、投球に入る三峰。


2人の駆け引きは、結果的には本間が制する事になる。


三峰の右腕が放ったのは、1球目と同じインコースへの直球。


内・外・そして内への揺さぶり。狙いが定められずに空振り。運が良くてもファール。


水上バッテリーの戦略では完璧だった。


しかし、本間のボールに対する瞬発力がそれを上回った。


本間の体からコンパクトに振り出されたバットの芯にクリーンヒットし、打ち返された球は三峰の右腕の横をライナーで突っ切る。


完璧に捉えた!


打ったボールを見つめながら1塁ベースへ走り始めた本間の目には、黄色いグローブもまた映っていた。


ショート赤田のヘッドスライディングキャッチ。ワンバウンドした強い打球をグローブに収めると、打った瞬間に3塁へ向かった小宮山は間に合わないと判断したのか、すぐに一塁へ投げる。


結果的に、三峰には勝った。しかしながら結果はショートゴロ。


アウトを宣告され、一塁ベースを駆け抜けた本間は、悔しい気持ちより、赤田の守備に驚嘆する感情が(まさ)っていた。



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