エピローグ 「朝日のどかな春の夢」
懐かしい夢を見た。
その日は、青く澄み渡る空に大きな虹がかかっていたことを覚えている。
台風が過ぎた直後のことでまだ公園の地面には水たまりがいくつか残っており、その水面も写し鏡のように空を映していた。
「わたしのパパ、”なないろのへんかきゅう”っていわれてていろんな”まきゅー”を投げるプロ野球選手なんだよ。みづきちゃんのパパはどんな人なの?」
赤いグラブを左手にはめた少女が、右手で軟式野球ボールを頭上へと放る。
そうだ、この子は”野球”に出会い、好きになるきっかけをくれた大事な友達。
だけど、野球と出会わせてくれたお礼をする前にどこかへ行ってしまった大事な友達。
彼女はパパのことやこの町のこと、特にパパから教わった野球についてのことはたくさん教えてくれた。
ボールを投げる時は投げる腕とは反対の足を前に踏み出すこと、その時肘は顔の真後ろにあるイメージで構えること、ボールを捕る時はグローブを着けてない手で蓋を閉めるようにかぶせると捕りやすいこと......
夢での彼女は当時のように野球についての豆知識を休まず話し続ける。
懐かしいなと思い聞いていると、いつの間にか視界全てがゆっくりと白く染まっていった。やがて視界が真っ白に染まり彼女の豆知識も聞こえなくなる。
透き通った白から聞こえたのは、芯がありそれでも優しい、彼女であろう女性の声だった。
「みづきちゃん、何も言わず勝手に引っ越しちゃってごめんね、だけどもうすぐ会えるから。2人を繋ぎ合わせるものが残っていれば......」
***
「..............」
夢の中の出来事、とわかっていた。だけどあの声は、やはり、成長した彼女の声なのであろう。そして夢を通して自分と話してくれた。もうすぐ会えると言ってくれたのだ。
涙が頬を伝う。しかし、その顔は確かに微笑んでいた。
2019年4月8日 島内満月、高校生活初日の朝を迎える。