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ガラスの満月<ミヅキ>  作者: ミホリボン
第1章
19/35

16球目 「似てる」

(左から、打順、ポジション、名前、投げ打ちの利き手となります)


先攻 水上ウイングス


1 三 増田 右右

2 右 則本 左左

3 遊 赤田 右左

4 投 三峰 右右

5 一 斎藤 右右

6 左 中丸 右左

7 捕 武内 右右

8 中 小野 左左

9 ニ 鈴木 右右



後攻 三吉女子高等学校


1 中 小宮山 左左

2 遊 五木 右右

3 三 本間 右右

4 捕 芥川 右左

5 一 馬原 右右

6 投 島内 右右

7 右 松野 右右

8 左 森山 左左

9 ニ 林 右右



ーーー


双方のチームのシートノック(試合直前に行う、実践を大きく意識したノック)の後、島内と水上ウイングスのキャプテン・三峰 真耶(みつみね まや)がメンバー表交換と先攻か後攻かを決めるためのじゃんけんを行う。


この日まで、三女野球部のキャプテンとなるような役目は島内・小宮山・芥川の3人で分担してきた。試合中のキャプテンの役目は、『先攻後攻は先発である島内さんが決めてこい』という芥川の配慮により、島内が担っていた。


島内が相手のメンバー表を手に持ち、笑顔でベンチに戻ってくる。


「後攻ー!じゃんけん勝った!」


”勝った“。この何気ない一言で、チームの雰囲気は多少とは言えど良くなるものである。後攻と分かった瞬間、最初は守備のため、芥川はキャッチャー道具を足から順に付けていく。


「なんで後攻にしたん?」


チームの雰囲気に流され、多少の笑みを浮かべながら芥川は島内に問う。島内から出た言葉は、意外なものであった。


「わたしの打順はすぐじゃないし、先に点を入れてくれたら気持ちも楽にマウンドに行けるからね。それとーーー


『サヨナラ勝ちは後攻の特権だからね!』」


最後まで諦めず闘志を燃やす、それが島内の魅力なんだ。


初めての試合ではあるが、芥川は直感で理解できた。


「...あと....」


島内は仁王立ちしている生田目監督へ小声をかける。


「相手のキャプテンが監督によろしくって言ってたんですけど......それもかなり不気味な笑顔でしたよあれは」


生田目監督は首を一回、また一回と回し、ため息をついた。


「......あの人はほんと......」


島内は違和感を見逃さない。


「あの人って、相手の人と知り合いかなんかですか?」


「え、ええ、あのチーム......去年まで私が監督をやっていたんですよ。」


衝撃の事実を聞いた島内の耳が思わず飛び跳ねる。


「え、いやなんでそんな大事な事今まで黙ってたんですか!?」


「別に言うほどでもなかったと思ってたので......言いにくい事でもありましたし」


「じゃああのチームの選手は監督をよく思ってないんじゃ」


「いえ、私が教員免許を取得するまで監督として勉強をしに来たとチームには言ってあるので。それよりもむしろ......」


「まさか、好かれちゃってる......」


また一回、首を回す。


「ええ、特にキャプテンの三峰さんには何回も告白されたくらいには......もちろん断り続けました」


「えええええええええええ!!!!!」


グラウンドに島内の驚きの声が響き渡る。


「どうしたんだよ満月......」


素振りをしていた馬原を始め、チームメイトは島内の声に驚き、あきれ返っていた。



ーーー



試合の時間になり、それぞれの選手がベンチの前に一列に並んでいた。


バックネット付近には、青い服を着た中年男、おそらく主審(ホームベースで判定を行う審判)をやるであろう審判の方と、水上ウイングスのジャージを袖に通した3名の選手が並んでいた。審判は水上ウイングスから出してくれるらしい。


主審の「集合!」の掛け声に、ホームベースからマウンドへ一直線に並んだ。


改めてキャプテン同士、島内と三峰が握手を交わし、ついに試合が始まる。



“よろしくお願いします!!!”



試合開始の合図と共に、遂に戦いの火蓋が切られた。



ーーー


1回表


挨拶が終わると三女ナインはそれぞれのポジションへ散っていく。


監督室から見ていた彩野先生、ソフィー先生はまだ1、2歳の子供を見つめるかのように心配していたが、その心配とは裏腹に、バッテリーはたった8球、3人でピシャリと抑えた。


スライダーがキテた。1番・増田を外のスライダーで空振り三振にすると、2番・則本は初球を振らせ、詰まったボールはサードゴロに。本間の危うい守備があったが、これで無事に2アウト。次の3番・赤田への3球目、内に放ったストレートを捉えられたが......


ライトの松野の足が止まり、ライトフライに。


中学生相手とはいえ準優勝チームを相手に、島内満月は好スタートを切った。


対する、ネクストサークル(ベンチとバックネットの間にある、次の打者が準備するための円)で待機していた4番でエースの三峰真耶は、ベンチメンバーにグローブと帽子を貰うと、三吉女子高校のベンチで選手に声をかけている生田目に目をやり、口を動かしていた。



ア・イ・シ・テ・マ・ス・ヨ



ーーー


1回裏


1番・小宮山は投球練習で見た三峰のピッチングから、頭で戦略を練っていた。


球の速さはそこそこ、変化球はまだ投げていない。1番バッターの役目である、球数を投げさせて相手の引き出しを開けさせること、しっかり果たしていこう。


そう考えながら、左打席に入る。


左足で足場を作り、姿勢を低く構える小宮山に、間髪を入れず、三峰は次々を投げてきた。


1球目、様子を見るかのようなアウト低めの直球。ボール。


2球目、同じコースに要求したのか、同じく低めの直球。ストライク。


3球目、少し抜けたのか高めに浮いたスライダー。初めての変化球である。しかしこれがストライクとなる。


追いこまれた。さてどうするーーー


4球目、テンポよく投げる三峰の直球は、インコース低めに構えたキャッチャーのミットに収まる。


やばい、これはーーー


「ボール!」


僅かにインコースに()れたのか。小宮山は思わずホッとする。しかし、キャッチャーからの返球を捕る三峰の顔は、依然微笑んでいた。


2ボール2ストライク。インコースに投げたから、次はアウトコースのストレート、いやスライダー?


頭の中で悩みに悩んで出た小宮山の結論は一つであった。


とにかく粘る!!!


三峰も頭の中で小宮山をどう抑えるか考えていた。


真耶には分かりますよ。その低いバッティングフォーム.....低め...特にアウトコース低めを打ち返すのが得意なんでしょう?ならば意表をついたこの球で!



この思考は、一般的な相手なら凄く有効であり、よくてファール、大抵は驚いて空振りしてしまうのだろう。しかし ”あること“に気づいた小宮山には、結果的に悪手となってしまう。


この配球、満月ちゃんに似てる......!強気な満月ちゃんに......ならば次は!


小宮山のバットは、インコース高めにきたスライダーを、迷いなしに振り抜いていた。


「ファースト!」


キャッチャーの指示も敵わず、鋭いゴロはファーストとセカンドの間を抜ける。


チームとして最初の打席にして、小宮山は見事初ヒットを成し遂げた。


「すごいよ果凛ちゃん!」


1塁コーチャーに着いていた林が思わず声をかける。


「よかった〜!」


1番として指名された事への重圧、それを跳ね返した果凛は心から安堵していた。


しかし勝負はここからである。


一瞬の安堵の後、小宮山はすぐにサインを待つのであった。


2番五木はサイン通りにサード方向への送りバントを決める。パワーが人より劣る五木は、送りバントを特に日頃から練習しており、その成果が発揮された。


そして1アウト2塁、三女はチャンスを迎える。


打席に向かうのは、未経験で唯一クリーンナップ(3番から5番の、ランナーをホームに返す期待度が高い打順)に指名された、本間始音であった。

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