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ガラスの満月<ミヅキ>  作者: ミホリボン
第1章
16/35

13球目 「初試合」

ポジション会議を行なった次の日の放課後、準備運動を行った三女ナインは、生田目先生に集合をかけられていた。


「島内さん、芥川さん、昨日はありがとうございました。彼女達には皆さんの適正ポジションを考えてもらい、今日からはポジション・そして皆さんのスタイルに沿った練習法を考えていく予定です。それでは発表の方をーーー


「あたしたちの意見は聞いてもらえないと?」


そう水を差したのは、挙手しながら話す恋だった。


「と、言いますと......」


「おととい、2人を呼び出して何かやったのはわかるけど、それからいきなりポジションを決められて、ってのも納得いかない人はいるかもしれないですよね?大胆な話、あたしなんかがいきなりピッチャーやれって言われても無理なんですよ。そこのところはどうなんですか?」


生田目先生は一度首から上をグルンと回してから、表情を変えずに答える。


「いきなりで発表してしまうのは私の口足らずで申し訳ありません。ポジションに関しては本人の希望を一番に考えて、とりあえず発表のポジションについてもらった後意見を頂く、というのが当初の予定でしたが、そうですね。特に馬原さんのような経験者からの意見も取り入れるべきでした。」


「ありがとうございます。」


恋の指摘に、満月は感謝していた。


最初の部活説明会の時から、手段は伝えても、その目的や方法を伝わってないことがあり、一応これからチームのエースとなるかも知れない身として、何か一言言うべきだと満月は考えていた。


その考えは恋も同じであり、口が強く積極的な自分だからこそ、皆が言いにくい発言も自分が言うべきだ、と行動に移したのである。



「.....ではポジションを発表します。まずピッチャー、島内さん。キャッチャー、芥川さん。」


名前を呼ばれると、それぞれが元気よく「ハイ!」と返事を返す。


満月は、ポジション適正の決め手となった要因を、思い出しながら聞いていた。



「ファースト、馬原さん。」


パワーがあり、実は身長も162cmと一番高い。ファースト経験者であったため、一番適応しやすい。



「セカンド、林さん。」


頭が良く、動きがめまぐるしいセカンドも早めに慣れてくれるであろう。肩力(けんりょく)(ボールを遠くまで飛ばす力)は必要とされないのも一つの要因である。



「サード、本間さん。」


バスケでスタメンを担っていたという運動神経に期待している。一番強い打球が飛びやすいポジションであるため、反復横跳びの記録が54回で一番高かったのも決め手。



「ショート、五木さん。」


守備に関しては未経験者で一番優れており、守備の要となるこのポジションにふさわしいと判断した。日頃セカンドの杏子と仲がいいため、連携も取りやすそうなのも○。



「レフト、森山さん。」


左投げ左打ちを生かして、主に打つ方に力を入れて欲しい。テストでは、特に優れている項目はなかったため、どう変わるもここな次第だろう。



「センター、小宮山さん。」


外野手の中では勿論一番野球をわかっている。ここなと早矢華を引っ張り、そしてピッチャーという夢も是非叶えて欲しい。



「ライト、松野さん。」


ザ・素材型。肩も意外に強く、足も速い。将来的にはセンターも守って欲しいが、野球を覚えられるか......?



「というわけで最初はこのポジションで皆さんに取り組んでもらいます。本日はサッカー部がランニングのため、グラウンドを全面使えますので、まずはポジションの確認から始めましょう。」


経験者が先導の元、ポジション確認を行う。その後は......



「これいつまでやるんだよ恋〜!」


「今良い感覚がキテるんだ、静かにして!」


三女ナインはひたすらバッドを持ち、素振りを行う。


生田目先生、そして兄に元プロ野球選手を持つソフィー先生の指導の元、日が明け暮れるまで振っていた


『野球の基本はバットを振ること。バットを振らなければ点が入りません。点は入らなければ絶対に勝てないです』


特に精を出していたのは、鋭くバットを振り抜く始音であった。


そういえば始音からは野球を始めた理由を聞いたことがない。始音を動かしている理由か何かがあるのだろうか。


始音の背中姿を見ながら満月は、素振りに打ち込んでいた。



***



部活開始2日目には生田目先生と1対1で理想像の方向や、自分の現状、ならばこの練習に取り組むべき、という細かいミーティングを全員行い、自分の意思を伝える機会もあった。


練習方法も最初は全員で行うメニューが多かったが、ルール講習会や練習を通して皆が野球を覚え、1ヶ月後の5月中旬には先生がいなくてもメニューを実践できるレベルに達しており、部活開始目安の4時から終了の8時、厳密に言えば下校準備や片付けの30分を抜いた3時間半の部活時間を有意義に使うことができていた。



「今日もお疲れさま、スポーツドリンク置いておきますね」


練習終盤に行うトレーニングを終え、クタクタになっていた三女ナインの近くに、ちひろが2Lペットボトルを何本か置く。


「はぁ、ありがとうちひろ、マネージャーってやっぱり忙しい?」


「忙しい、かなぁ。正直にいうと。でもこうやってでも野球に携わることができるようになったのは嬉しいよ」


スポーツドリンクをラッパ飲みした満月がペットボトルの蓋を閉める。


「虚弱体質、そう言ってたもんね。」


「うん、生まれてすぐに絶体絶命の病気にかかって、それからも小学校は心臓に機械を付けていないと生活もままならない状況だったから。でもちょっとだけ、満月ちゃん達を見てると、野球、やりたかったなぁって」


「そういえば監督がストレッチを終えたら一回集まってと言ってましたよ」


「オッケー、じゃあちゃちゃっと終わらせるよ」


満月達はチームメイトに集合をかけ、ストレッチに取り組む。


長座の姿勢になった果凛をゆっくりと押し込む満月。早矢華と杏子は仲良く会話をしながらストレッチを行っている。理子は始音の左肘にできたカサブタを気にかけ、恋はいつも通り輝夜にしごかれていた。


最初は4人から始まったこの野球部。出会いがあり、衝突があり、試練があり。今、皆が楽しみながら野球に取り組んでいるこの風景を大切にしたい、そう思うちひろだった。


「おーいちひろさん、暇ならストレッチいい?」


ここなはもう準備できてるよと言わんばかりに地面に座りちひろを待っていた。


「はい、今行きますよ」


彼女達がどのような物語を見せてくれるのか。


ちひろの胸の中はちょっとだけ高まっていた。


ーーー



ちひろに言われた通りに三女ナインが集合した。相変わらず恋とここなは腰に手を添えて苦悶の表情を浮かべていた。



「いきなりですが、三吉女子高校野球部の初めての練習試合相手が決まりました。」



待ちに待った初試合。どこだどこだと皆が息を飲んで話を聞く。


「2週間後の土曜日、このグラウンドで中学生クラブ【水上ウイングス】との練習試合となります。」


「.......」


一瞬の間の後、始音が困惑の表情で声にする。


「え、中学?」


生田目先生も首を縦に振る。


「はい、中学です」


「いやいやそれは流石に私達をナメすぎだって」


「【水上シニア】は昨年の女子野球全国大会で準優勝を果たしています。」


「ぜ、全国準優勝!?」


三女ナインの余裕の表情が一気に焦りへと変わる。


その様子をグラウンド外の木の陰から一人の少女が隠れて見ていた。


()()()もほんといじわるですね......フフ、フフフフ....」


明らかにこの学校の生徒ではない私服を身につけたその少女は、誰にも見つからないように静かにその場を去るのであった。


(まさる)さん、練習試合楽しみにしてますからね.....フフ」

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