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ガラスの満月<ミヅキ>  作者: ミホリボン
第1章
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12球目 「適正分析」

計測テストの翌日。計測テストと言っても、実際はかなり体を追い込み、全身が筋肉痛の人も少なくなかった。


疲労回復のためか、それとも私達が考える時間をくれたのか......今日の部活は休みだった。


部室の机付き椅子に腰掛けていたのは輝夜、そして杏子の2人であった。


「ありがとう、わがまま聞いてくれて」


事情がわかっていた杏子は、チームのためになりたいと満月との会議にお邪魔してもらっていた。


「そんなことないよ、未経験者の話は参考にしたいと思ってたし」


輝夜は先生達が取ってくれたデータを順にホワイトボードにくっつける。


「でも嫌になっちゃうなぁ。1日の練習でもう腕も上げられないくらいの筋肉痛なのは。」


「みんな同じだよ。私だって、満月だって」



「ごめん!掃除遅れた!あ、杏子ちゃんも!」


満月はカバンを床に置き、せっせと椅子に座る。



「島内さんも来たところで、じゃあ始めようか。野球部分析。」


黒いマーカーペンを持ちながら、輝夜が先導する。



ーーー



「まずは50m走から。これは単純な走力が求められるけど、松野さん......ぶっちぎりだったね。7.5秒。他の7秒台が私と小宮山さんの7.9秒なだけに圧倒的だし、盗塁が少ない女子野球でも盗塁を量産できるかも。」


「早矢華ちゃん、ああ見えて『自分には走りしかない』って常に言い続けてたからね。それがまさか野球で生かされることになるかもしれないのは驚いてるよ」


「だけど、3塁までのベースラン技術も求められる3塁打ベースランでは、私と小宮山さんより下を行った。まぁ、当然っちゃ当然だし、松野さんは“野球の走力”を伸ばしていきたいよね。」


「あと松野さんはパワーも指標が良い。素材は十分に整のってるし、私達経験者にかかってるよ。あの子は。」


満月もコクンと頷く。


「次にボール投げ。当然トップは81mで私だけど、未経験者組で一番がまさか五木さんの62mだとはね」


同じグループの満月が口を開く。


「あの子は投げ方をわかってたよ。地力が強いのもあるけど、もしかしたら新童モアに憧れて、隠れて投げこんでいたのかも......考えすぎかな?」


「あの肩ならセンター......いや大事なショートも任せられるね。というか私なら任せたい。」



「未経験者で腹筋や長座体前屈で体の柔らかさをアピールしたのは本間さん。小中とスポーツをやってきたあの子も早く野球に慣れさせて活躍させてあげたい。」



「そして私が一番驚いたのは......馬原さん。まさか私がベンチプレスで負けるとは思ってなかったよ。」


「同じグループで見てたけど、恋は凄かったよ。私が手こずった40kgを軽々と持ち上げ、記録は55kg。男の子顔負けだよ。」


「あれで打撃に自信があるっていうなら、やはり一番最初に開眼するのは......」



「やっぱりみんなすごいね。ここなちゃんも平均より下の水準を保ってるし、私なんか......」


会議がー段落を終え、黙って聞いていた杏子はつい弱音を吐いてしまう。


「何言ってんの林さん。あなたの武器はここでしょ。」


そう言うと輝夜は頭を指で差す。


「ちょっとチラ見させてもらったよ。前に行った “実力テスト” の順位。驚いたよ、まさか全科目で一桁を取ってるなんて。」


「......でもそれは運動神経とは―――


「野球は頭を使うスポーツなんだよ。数多なサインプレー、状況判断。プレーは上手くても野球脳がなかったらただの脳筋同然だよ。 “今の” 松野さんみたいにね。」


満月も輝夜の話に続く。


「杏子、よくうちの教室に来て理子と一緒に野球を学んでるの、いつも見てるんだよ。私、長い間野球やってるからわかるんだ、『その姿勢がいつか花を咲かせる』ことは。」


そう、果凛がそうだったようにーーー


「......バカだね私。一日しか経ってないのに落ち込んで2人に迷惑かけて。よし!任せてよ!私の全知識を以って、今日はサポートするから!」


頰を叩き、気持ちを切り替えた杏子の目は、もう下を向いていなかった。


そしてーーー



「よし、これで決まり!じゃあ先生に伝えてくるね!」


それぞれのポジションと部の方向性を書き綴った紙を持って満月が部室の扉を開ける。話し合い時間は2時間30分にも渡り、部活終了時間の8時まであと1時間、というところであった。


「いってらっしゃい!うーん、疲れたぁー」


杏子が椅子から立ち上がり背伸びをする。


そんな杏子に、輝夜は資料をまとめながら声をかける。


「今から少しだけキャッチボールしようよ」


「え、うん時間あるからいいけど......どうしたの?」


「ちょっと自分の投げるフォームが気になってさ。軽くでいいから」


輝夜は嘘をついた。


昨日、ボール投げの前に軽く行ったキャッチボール。果凛、ここなと3人で投げていた杏子を輝夜は気になっていたのであった。



「フォームとかは気にしないからとりあえずここに投げてきてよ」


「わ、わかった......」



日が沈み、夕焼けで赤く染まる空の下、ジャージ姿に着替えた2人は塁間距離で軽めのキャッチボールを行った。


「ごめんね私、やっぱり球遅くて......」


杏子は気にしているのか、申し訳なさそうに輝夜へ投げる。


「気にしなくて良いよ林さん、フォームを整えれば、投げられるようになるポテンシャルはあるから」


輝夜も言葉を返す。


投球フォームは野球を知らない素人同然、球の威力も無く、遅い。しかし一つだけ突出していたものを、輝夜はこのキャッチボールで確実に見抜いていた。


パワーとスピードを主に置いていた計測テストでは分からなかった情報。


林 杏子。あなたほどコントロール良く投げる選手、私は初めて見たよ。

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