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ガラスの満月<ミヅキ>  作者: ミホリボン
第1章
14/35

11球目 「九人九色」

「てことで、今日は果凛ちゃんに掛け声はお願いするから!後でちゃんと “富士村シニア” でのランニングの声がけや準備運動は共有しておくから!」


「え、い、いきなり言われても......私......?」


満月と輝夜に事を伝えられた果凛は、三女野球部の始まりを任せられる重圧を感じていた。


果凛は、プレッシャーに弱かったのである。


焦ってまともに喋れていない果凛を、一見そっけなく見える輝夜の一言が軽くさせるのであった。


「キャプテンではないからね。チームを引っ張ってく存在は、チームのことをわかってから決めたほうがいい。果凛はただ、()()()()()()()()なんだから。」



ーーー



私はそれだけのちっぽけな凡人なんだから、気楽にやればいい。


そう思えたら、ほんの少しだけ、声がはっきりと出せた。



果凛の掛け声で1塁ベース、2塁、3塁、そしてホームベースを3周回る。


準備体操は2人4列で広がりラジオ体操を行い、簡単に屈伸とアキレス腱を伸ばした後、2人1組でバディを組み柔軟運動を行う。


皆の前で声をかけるのは満月と果凛のペア。始音は理子、早矢華と杏子が組み、そして......


「芥川さん、よかったら私と組んでよ。」


「......私でいいの?」


「いいから組もうぜ。あんたのその整った顔、一回崩してやりたいと思ってんだよ」


同じクラスとしてか、恋が輝夜とバディを組む。この後起こる悲劇をまだ知らずに......


「ちぇっ、ここなは余り物か......」


「よかったら私とどうでしょう?仕事はあらかた終わったので」


そう声をかけるのは、ジャージ姿でグラウンドに出てきたちひろであった。


「お、ありがと!お手柔らかにお願いな!」


「お手柔らかにはできないかも.....フフフ」


「えっ」


不敵に笑うちひろとは対照的に、背筋が凍ったここなであった。



ーーー



「では走り込みも終わったのでここからは先生の話をーーー


そう叫ぶ果凛が見たのは、腰を押さえ倒れこむ恋とここなと姿であった。


「輝夜あのヤロー......最初はゆっくりやってくれって言ったのに......!」


「グッ.......腰が死ぬ......あの容赦ねぇマネ(マネージャー)とは二度とやらねぇ....!」


犯人達は、2人を見下しながら嘲笑っていた。



ーーー



”富士村シニア流“の準備運動を終えた9人は、今日のメニューについて改めて生田目先生のもとに集まっていた。


その生田目先生の後ろには、初めてみる金髪美女がユニフォームを着てたたずんでおり、あのおっぱいがデカい金髪野球女は誰だ、と誰もが思った。


「えー......練習メニューを伝える前に、折角なのでもう一人の先生を紹介します。......ソフィー・メイネス先生」


メイネス、と呼ばれる後ろの女性は自分の名前を呼ばれると右手を挙手し、元気いっぱいに返す。


「ハーイ!ソフィー・メイネスデス!オランダ出身の...ボソボソ歳デース!兄の “レックス・メイネス”は日本のプロフェッショナル・ベースボールにいまシタ!5年前に日本にリューガクしたので、教師としては1年目になりマス!よろしくデース!」


またうるさいのきたな......


部員一同、ソフィー先生への第一印象は同じだった。ただ一人を除いては。


「レックス・メイネス!?もしかして一時期 “東武ゴールデンライオンズ史上最強助っ人“と称されていたあの!?」


小さな頃から幼馴染の影響でプロ野球に詳しかった満月が食いついた。


「ソウ!ウチのバカアニキデース!”テングノハナ“を折られたように一瞬で消えましたけどネー!!!」


「す、すごい人だったんだねその人......」


理子の苦肉のフォローも、満月は一瞬でへし折る。


「いや全然。すぐ消えちゃったからね。」


「その通りデース!」



「はい!生田目先生はまだ話すことがあるらしいですよ!」


手をパチンと鳴らし、彩野先生が場を鎮めようと試みる。


「......彩野先生、あの金髪先生の後に見るとただの常識人だよねボソボソ」


「......始音ちゃん、わかってても今いうことじゃないよそれはボソボソ」


そう言いながら始音と理子が彩野先生の顔色を見ると、【早く黙れよ】と顔に書いた愛想笑いを浮かべていた。


「......すいませんでした。先生」



「では野球部の3人の顧問全員が出揃ったところで、貴方達には【野球能力測定テスト】を行ってもらいます。内容は未経験の方でも野球能力がわかるよう、私がいじらせてもらいました」


ちひろと杏子は、思っていた通りだ、と少し表情が緩む。


「野球では大きく見るとパワー・スピードの2つが要求されます。パワーがないとボールが飛ばない、まずバットをまともに振れないですし、スピードもあらゆる場面で生きてきます。」


「ただ、パワーと言ってもどの筋肉のパワーが足りないのか、自分がどんな選手像を描きたいのか、それは十人十色ならぬ “九人九色” です。今日は島内さんチームと芥川さんチームの2チームに分かれてもらい、12種目の測定を行ってもらいます。種目などに関しては、それぞれ先生が付いてくれるので詳しく聞いてください。それではお願いします。」


生田目先生はいつものように淡々と話し終える。


満月・恋・理子・始音のチームは彩野先生、輝夜・果凛・杏子・早矢華・ここなのチームにはソフィー先生が計測を記録する。


島内チームは彩野先生に導かれトレーニングルームへ、芥川チームはグラウンドに残りそれぞれが終わったら場所を交代し、合計12種目を計測する。


計測にワクワクする者。経験者としての意地がある者。自身に自信がない者。それぞれの思いが交錯する中、計測が始まった。

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