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ガラスの満月<ミヅキ>  作者: ミホリボン
第1章
13/35

10球目 「始動」


「......9人、集まりましたか」


生田目は静かにそう口にした。


時は恋とここなが入部を決めてから3日後、「部活動開始日」の放課後である。


2-5の開けた窓からは、サッカー部や陸上部、クリケット部など数々の部活が精を出して活動しているのが見える。


教室では、ちひろを含めた10人の野球部員が席をまばらにして座っていた。


「確かに部員9名、そしてマネージャー1名を集めてきました。」


一番前の席に座る満月が、部員を代表して話す。


「ちゃんと要望聞いてきてやったんだからなチクショー......」


ボソボソ喋る始音に愛想笑いをする理子。


恋とここなも、真剣な目つきで生田目先生を見つめていた。



***


2日前......満月と果凛の呼びかけにより2-5へ集合していた部員達。満月、そして果凛は恋とここなとの出来事を【果凛の秘密】を隠しながら話した。


「ほんとなのそれ!?果凛をいじめていたこいつらを簡単に許すのか!?」


始音が満月と果凛へ訴える。疑うのも当然である。

相手は一昨日に果凛を嘲笑い、擦り傷とは言え怪我をさせた人達なのだから。


「うん、私が決めたことなの。2人とも十分反省してるし、部員も増やしたいしね」


「......果凛がそういうなら何も言わないよ。だけど君達!」


始音が2人を指さす。


「もしまたこんなことしたなら絶対に許さないからな。」


始音の言葉に、現場にいた理子も同調する。


「果凛ちゃんは許しても、わたし達は許さないから」


恋は2人の言葉に、小さく頷く。


「だ、大丈夫だよ、もう私と馬原さんは【アラモードプリンにかけて】約束したからね」


「果凛待て、それはみんなの前で言うことじゃーーー


「この半日で何かあったのか!?」


「アラモードプリン?」


さぁ吐けと言わんばかりに始音達は恋を問い詰める。


「いや違うなんでもねぇから!違うから!ちーがーうーかーらー!!!」



***



「じゃあ早速練習を始めよう......と言いたいところですが、まず貴方達の能力をこの目で見てみたいので......部室を解放しましたのでそこで練習着に着替えてグラウンドに集まってください。何をするかはまたその時に話します。あと島内さん、芥川さんはこの後話したいことがあるのでこちらにお願いします。では。」


生田目は満月と輝夜を呼び何かを告げる。


「おっ早速練習ですか!やきゅうって何をするんですか?走る?走る?走る???」


「早矢華は一生走ってろ......」


早矢華の飛ばしっぷりに早くも恋はついていけないみたいだ。


「でもあの2人を呼び出した理由は大体わかる気がします。果凛ちゃんも呼ばれると思っていましたよ。」


そう口にするのはマネージャーのちひろ。


杏子もわかっているかのように推測する。


「そうだね、おそらく私たちはこれから見定められる......運動神経自信ないから心配だよ......」


「大丈夫です!杏子ちゃんのカバーは早矢華がする!だから安心して!」


「は、はは、ありがとね、ほんと早矢華ちゃんにはいつも助けられてるよ......とほほ」


野球部に顔を見せてから常にひまわりのような笑顔を見せ続けていた杏子。そんな彼女が初めて、弱気な顔を見せたのであった。



ーーー



ちひろにつられてグラウンドの側にある部室に着いた9人は、新築の綺麗な部室に興奮を隠せなかった。


「き、綺麗!!!」


白く連なったロッカー、その前に並んでいる机付きパイプ椅子。“足洗い場”も備わっている。そして何より......


「テレビついてんのかよ!!!」


「へぇ、ホワイトボードいいじゃん」


公立校には珍しい、テレビと作戦用のホワイトボードが設置されていた。


「靴厳禁!私たちの中学は平気で靴で入り込む人がいたから気をつけなきゃね、早矢華ちゃん」


「あ、それ早矢華だわ」


「ちゃんと土足でグローブやスパイク置く場所もあるのいいね」


「匂いクッサ!ここなはこの匂い大っ嫌いだから消臭元買っといてくれって先生に言っといてよ!」


「じゃあラズベリーの香りでいいか?」


皆の興奮に水を差したのは、理子の懸念の一言であった。


「確かに靴厳禁で床が綺麗なのは嬉しいけど、これ掃除ーーー


「あ“」


テンションだだ下がりの部員達は、ちひろの催促に促され、白い帽子に白いユニフォーム、そして黒のソックスに着替え、急いでグラウンドへと向かうのであった。



ーーー



グラウンドでは、サッカー部やラクロス部、陸上部などの部活も敷地を使っているため、野球部が使えるのは内野と、レフトの一部分のみであった。


一足先にグラウンドに出てたユニフォーム姿の生田目先生は、何も語らずに部員から出てきた私たちを凝視していた。


その後ろで彩野先生が「早く早く」とグラウンドに出るよう呼びかけている。


それを見て、察したかのように部員達はグローブをベンチの上、その下の地面にスパイクを並べ、整列した。



ーーー


満月と輝夜が生田目先生に告げられたのは大きく3つ。


1つ目は、部員全員の牽引を果凛を含めた中学野球経験者の3人で行うこと。


2つ目は、部員の能力を各自見極めてメモをしておくこと。これは主に満月メモが行う予定である。


3つ目は、その2つを踏まえた上で【明日の放課後までに、体力テストの結果を基に9人全員のメインポジションを決めておくこと】。特にこれは生田目先生が念を推して伝えたことである。


「私達は1.....いや0から始まる野球部。強くなるためには、各々を分析して各自の方向性を早めに決めておくことが重要であると考えています。2人の能力は先日の投球を見て大体わかっています。投げる時の動作、球の威力、キャッチング、構え方......しかしながら貴方達は“バッテリー”。野手達の練習をずっと見ているわけにも行きません。だからーーー



ーーー



「気をつけ!!!礼!!!」


運動部には必要不可欠なグラウンドへの挨拶。声を上げていたのは、果凛だった。



「よろしくお願いします!!!」



三吉女子高校野球部が今、歩みだし始めた。

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