魔ゾンビ?魔スケルトン?腐った女子?
「これがそうか……」
警備を担当している魔蜂の息子(な働きバチ)が発見した珍しい魔物。
ありていに言ってゾンビだった。
もう色々とグチャグチャだ。
これはさすがにハチの手におえない。
「よく見つけてくれたな」
感謝するとブブブ、とは音を鳴らした。
メダカと違ってこの子らは喋れないんだよな~。
何か法則があるんだろうか。
それよりもゾンビだ。
魔兎が、
「どうしますか?」
かなりオドオドした声で言った。
基本物理攻撃の魔兎には相性が悪い。
倒せる。
倒せるがめっちゃ汚い。
匂いも酷い。
ちなみに今は魔兎の風魔法扇風機で悪臭を追い払ってくれている。
ゾンビは人間体。
この悪臭のおかげで魔物に襲われず、魔の森の中腹まで上がってこれたんだろうか?
わからんけれども。
ヒイイ、と怯えるみんな。
平然としているのは魔魚くらいだろうな。
まあ。水の中には侵入できんし、したらドロドロだろうし。
もっとも水路にこんな死体が侵入したら魔魚がブチ切れると思う。
早めに片ずけるとするか。
「基本は火で浄化だな。でもその前に」
ウォーターカッターでゾンビが背負う荷物袋を切り落とす。
腐りながらも生前の荷物はそのまま持っているのだ。
何か、使える文明の利器が入ってるかもしれない。
腰の剣は……こっちはいいか。俺は剣なんか使わないし、武士の情けだ。
死体から追いはぎってのも気分が悪い。
ゾンビの周囲を水たまりでグルっと囲う。
「いいぞ魔狐」
「行きます、ファイアーボール」
ボウッとゾンビが燃え上がった。
水たまりは消火用だな。
深い森の中、木々に火が燃え移ったらシャレにならんからな。
「まだ動いていますね」
「そうだな」
「ヒイ、旦那様タスケテ~」
魔兎がもう色々とダメになっている。
ゾンビは燃えつくした。
火葬で完全に弔ってあげたんだが、今度は骨のまま歩きだしている。
ゾンビ<スケルトンに進化した?
元々ゾンビの時点で物理じゃなく魔法で動いてるんだろうしな。
手はある。
全然倒せる。
普通に物理でボコって倒すとか、バラバラになった骨がまだ動いていたりしたら、縛って埋めてもいいし、川から流してもいい。
問題は誰がボコるのかってことだ。
うちの女性陣はすっかり怖がって触りたくないみたいだ。
「仕方ない。俺がやるか」
内面はこんなに女性らしく成長したんだから、早く人化、女体化して欲しいものである。
例によって魔魚に俺の手を切らせ、血を流す。
その血をスケルトンの魔物に触れさせた。
効果あるといいけどな~。
この骨が本体なのか?
骨を覆う魔力が本体だったら、水魔法派生な俺のテイマースキルが効くかどうか。
ポロリ。
スケルトンの股間から骨が零れ落ちている。
何だか大事なところの骨みたいだ。大丈夫だろうか?
ティムするつもりでたいへんなことになったりしないよな……
「ご主人様、お助けいただきありがとうございます!」
……まったく問題はないようだった。
スケルトンが眷属になった。
火葬するつもりで燃やしたがスケルトンの剣は、そのまま残っている。
服は残ってないんだがな。
ゾンビの時点でも鎧なんかは残ってなかったし、剣があるから剣士ってことではないのかな?
「ポピュラーな剣ですからね。それだけでは何とも」
生き返ったスケルトンにはなんと、人間時代の記憶があった!
そして荷物袋はなんと魔法の袋、アイテムBOXみたいにたっぷり入る。
地味に鏡が女性陣に受けた。人化、女体化を目指すモチベになると嬉しい。
下界の通貨。
あとは本。
……読めなかった。
水魔法では異世界言語の自動翻訳は無理らしい。
「うぇ~初心者パックでついてるんじゃないの?」
今度神様に聞いてみよう。
スケルトンに聞くと、本人も読めないとのこと。
何故!
「スミマセン。ゾンビになってる間に記憶が欠落しているらしく」
なんだって。
例えば剣術などは覚えているが、自分が誰かはさっぱり、そんな感じ。
魔法の袋の中には、忍者が着るような鎖帷子な防具もあったのだが、自分が装着していたものだかはわからん、とのこと。
一方、
「これだと魔法剣士風な装備ですね。それもスピードタイプ」
など武器の知識はしっかり覚えている。
剣士でも重装備の鎧型だけじゃないそう。
確かに優男でも身体強化魔法があれば剣は振れるか。
スピードを考え薄い鎧でも魔力を付与すれば、装甲となる。
ん~。人間社会もなかなかだ。
生前のスケルトンはすごく強そうだが、そんなヤツがゾンビになっちゃうんだからね。
つーても寝こみや無防備な全裸の時を狙われたのかもしれないが。
危ないからなるべく関わらないことにするか、人間社会?
鍛冶も出来るそうなので今後に期待したい。
もっとも武器というより道具系だろうがな。フライパンとか欲しい。
それと魔兎、魔法剣士に惹かれたようだが、今のおまえじゃ全然、忍者装備着れないから。頑張って女体化しような。
『水魔法レベル9!』
そんなこんなでワイワイしていると魔魚が何やら持ってきた。
陶器の入れ物に木の蓋。
その中に入っているのは……
「これ、醤油と味噌!?」
「ハイ。私の水魔法が発酵魔法に派生したらしく、旦那様のお話になられる……ショウユ?ミソ?……のお味をイメージしてみたのですが、いかがでしょう?」
「つーかスゲーよ魔魚、うまいっつーか前世より高級な味がする! こんなの食ったことない!」
さすが正妻。と魔魚を抱きしめ、キャッキャ。
そっか~発酵魔法か~、そういう派生もあるのか?
主に料理専用で、戦闘には……人間をゾンビ化させるくらいにしか使えなさそうだが……料理だけで充分だよ!
これで食卓が潤うというものだ! ヒャッホ~!
ちなみにスケルトンは口が無くても普通に食えた。
魔力に分解して食ってるらしい。
そりゃそうか、メダカたちだって自分の体より大きな食材を平気で食ってたしな。
「あと残る問題はスケルトンの名前だな?」
魔スケルトンでもいいんだがこれでは、みんなとの統一感に欠ける。
魔……腐れ人間、魔……元人間、う~ん。イマイチ。
俺の候補に挙げたなかから、魔スケルトンの正式な名前は『腐女子』と決まった!
会話の中で、私女ですよ、と言うのが印象に残ったらしい。
ちなみに魔スケルトンが生前女性だった記憶を持っていたわけじゃなく(そこは覚えていない)。
男ならチンチンがあるはずという生前知識(そこは覚えていた)により、大事なところの骨のない自分=女という認識みたい。
火葬の時、ポロッとおっこちた骨についてはスルーだ。
つーか、そんな事実はなく、あれは見間違いだった。
こうして『腐女子』が俺たちの仲間になった!
本名じゃなく愛称で呼ぶのは自由である。
俺も普通に魔スケルトンって呼ぶだろうしな。